81 のち虹②

 気がつくとジェーンは演者たちといっしょになって手を振っていた。すると演者たちはますます身を乗り出したり、投げキッスで応えたりする。

 役者と観客ではない。目と目が合う以心伝心が、まるでジェーンまでも舞台の上にいるかのような一体感を抱かせる。

 振付も歌詞も知らないのに、心が踊る。唇がメロディーを口ずさむ。

 この歌は木立の中で聞いた。私をダグラスまで導いてくれた歌だ!

 最後の一音が天井を突き抜けた瞬間、ダグラスたちはぴたりと止まった。ジェーンは夢中で拍手する。クリスもジャスパーも演者たちを称えた。

 そこへ、止まったと思った音楽が再び頭から流れ出した。氷が溶けるように演者たちは動き出し、互いにちょっかいをかけ合いながら舞台を下りてくる。

 隣のクリスが立ち上がった。


「見送りのハイタッチだよ!」


 そう言われて、ジェーンもわけがわからないまま立ち上がる。演者たちはジャスパーとクリスの前を通り過ぎながら、軽快に手を触れ合わせていった。

 ジェーンも見よう見まねで手を差し出す。

 たくさんの笑顔がジェーンを見つめ、せつなのぬくもりが手に残っていく。顔も名前も知らない人たちなのに、通じ合っている。その確信が一瞬でも、ジェーンを孤独や不安から解き放った。


「ルーク!」


 次に青い鳥の着ぐるみがやって来て、ジェーンは思わずルームメイトの名前を呼ぶ。しかし青い鳥は軽く両手を上げて肩をすくめた。

 そうか。言葉はなくても、今ならなんでもわかり合える気がする。


「アダムですね!」


 アダムはもこもこの翼を打って、そう! と言わんばかりにジェーンを指さした。そしてハイタッチを待っていたジェーンの手を取ったかと思うと、くちばしを近づけて口づける。

 心なしか得意げに見える鳥頭が、桃色の前足に小突かれた。


「イヴ!」


 青い鳥を押しのけて、桃色の狼が現れる。イヴはハイタッチを交わすとジェーンに投げキッスを贈り、手のひらを折るように振って流し目を寄越した。

 しなを作った歩き方といい、すごい色気だ。狼のかぶりものなど関係なくあふれる艶にあてられ、ジェーンはドキドキする胸を押さえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る