70 怠惰先輩の憂鬱④
「わあああ!?」
おとぎの国の愛らしい家が一変、ヘドロをかぶったホラーハウスの様相となる。ジェーンは頬を挟んで絶叫した。
「やわらか過ぎ。ほう
「ほーしゃ……」
「鉱物の一種だよ。こいつを加えれば硬くなる。見てろ」
垂れたスライムを押し戻して、レイジは屋根を一度叩いた。見た目の変化はない。
けれど、レイジの視線にうながされるままジェーンが触ってみると、弾力性の中にぎゅっと詰まった手応えを感じる。
引っ張ればスライムはジェーンの指についてくるが、まったく垂れる気配がなかった。
「これがほう砂の力。すごいです!」
「お前感覚だけで魔法使ってんだな。扉の木目加工もちょっと雑だし」
レイジに指摘されると木に見立てたはずの扉は、ひと目でプラスチック製とわかる仕上がりだった。技術、知識ともにまだまだ未熟だと痛感し、ジェーンは唇を尖らせる。
だからこそ先輩たちから教わりたいのだが、忙しさを盾にして誰も構ってくれない。
不満の気持ちがつい口をついて出てくる。
「じゃあレイジさんは自転車が倒れない原理を理解して、自転車に乗ってるんですか」
「いや知らねえな。知らなくても乗れる」
「ほら! それといっしょです!」
「お前、なまいき」
レイジはふいにジェーンのショートローブを掴んで、くるりと頭にかぶせてきた。ジェーンはびっくりしてすぐにローブを取り払う。
文句を言おうとして見上げた先には、ブルーベルの家を見つめてかすかに笑っているレイジがいた。
「お前、明日から昼休みは毎日ここに来いよ」
「それって……」
「スライム新人となら、もう少しおもしれえこと思いつくかもしれないからな」
「えー! なんですかそのあだ名! やめてください」
レイジはにやりと笑うばかりで答えず、階段を下りはじめる。振り返らないまま、親指で家をさした。
「とりあえずこれ消しとけよ。開発の邪魔だ」
ジェーンは思わず「げ」とこぼす。消さなくてはならないことを完全に失念していた。なにも考えず二階建てなんて大きなものを創造してしまい、血の気が引いていく。
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