50 夜勤の古株コンビ②
「だいじょうぶですか?」
またくしゃみをしているラルフを見やりながら、ジェーンはニコライに尋ねる。
「ただの花粉症だ。まったく季節外れの男だ」
「花粉は年中飛んでるんだっつーの! 今はスギだ!」
ラルフの抗議が飛んでくる。
大声が刺激になったか、ラルフはまたしても発作のように息を吸い込み、大口を開ける。彼の正面にいるレイジと隣のクリスがバインダーを盾にした瞬間、特大の大砲が放たれた。
完璧に順応し対処している先輩たちに感心するやら、ラルフを気の毒に思うやらで、ジェーンはあいまいな笑みを浮かべた。
「ジェエエエン。こっちに来な。仕事をやるよ」
そう言って手招いたアナベラに指示されたのは、経費の領収書作成だった。上司が用意したリスト通りの日づけや金額、但し書きなどを領収書に書き込んでいくという単純な作業だ。
だがジェーンにとっては、この日一番まともとも言える仕事だった。
だけどこれってたぶん、本人がやるものじゃない?
そんな疑問を抱きつつも、ジェーンは定時の午後五時まで、クリスの向かいにある自席で黙々と領収書を書いていった。
「ただいま帰りましたあ……」
シェアハウスに帰ってきた時、ジェーンは質量を感じるほどの疲労にまとわりつかれていた。とにかく眠い。まぶたを開けていられない。
午後四時上がりの演劇部組み――ダグラス、ルーク、プルメリア、カレンがリビングやキッチンにいるかと気になったが、吸い寄せられるようにまっすぐ階段へ向かう。
二、三段上ったところで、後ろからプルメリアの明るい声に呼び止められた。振り返るとカレンもいっしょにリビングから顔を出している。
「今日は男子が夕飯を作ってくれるんだって。だから先にお風呂いっしょに入らない?」
このまま自室に下がったら入浴の気力も湧かなそうだと思ったジェーンは、プルメリアの誘いをありがたく受け取った。
シェアハウスの浴室は黒のタイル張りで、上半分からはあたたかみのある木材が使われている。ふたつある洗い場の横には、まるで大きな船のようなネコ足つきバスタブが悠然と構えていた。
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