48 無愛想に隠れた優しさ④

「あんた騙されやすいな。真に受けるなよ。喋り方くらい好きにすればいい」

「だっ、だったら最初からそう言ってください!」

「あのお。ゴミ回収に来たんですけど、これは……」


 そこへ後ろからそろりと声をかけられ、ジェーンは弾かれるように振り向いた。灰色の作業服に青い帽子をかぶった業者がふたり、ゴミ袋に埋め尽くされた道を見て戸惑っている。

 ジェーンは慌てて謝り、探し物をしていたが見つかったと伝えた。


「では、持っていっていいんですね」


 そう確認した業者たちを、ジェーンとディノも手伝う。なんだかんだディノには、最後までつき合わせてしまうことになった。

 別れ際、ジェーンはそのことを謝ったが、彼は変わらず淡々と受けとめて「じゃあな」とリヤカーを引いていった。

 飾らないディノの背中が、ジェーンにはとても大きく映った。


「ふん。やっぱりな。お前が誤って捨ててたんだ」


 整備部事務所へ戻り企画書のメモ紙を届けたジェーンに、レイジは冷ややかな目を寄越した。中堅先輩の主張には断固否定したいところだが、ジェーンのミスではないと証明できるものもない。

 ジェーンは否定しない代わりに、まっすぐレイジを見つめた。


「レイジさんが寝ボケて机から落とした紙が、たまたまゴミ箱に入ったという可能性もありますけどね」


 ゴミ箱は机の脇にあり、レイジは机に突っ伏していた。あり得ない話ではない。


「なんだと」


 水色の目が鋭く細まり剣呑な光が差し込む。それでもジェーンは怯まず、静かにレイジの視線を受けとめつづけた。

 ディノのいつでも揺るがない若葉の瞳を見ていたお陰か、心は不思議なほどおだやかだった。


「なんだ。やけにピリピリしているな」


 その時事務所に入ってきた男性は、ジェーンと同じ整備士の制服を着ていた。やせ型で手足がすらりと長い。黒髪のオールバックからひと筋垂れた前髪が額にかかり、色白の頬は心なしかこけている。

 けれど、メガネをかけたオレンジ色の目だけはタカのように力強く、鋭い。レイジがその姿を見て鳴りをひそめる、そんな人物だった。


「レイジ、なにか問題ごとか」

「いえ、なんでもありませんよ。ニコライさん」

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