07 見知らぬ場所④
「ダグ……!」
私の体は寒さと震えから解放されて、ダグラスの胸に飛び込んだ。
「よかった……! 会えてよかったです! 私ひとりで、どうしてここにいるのかもよくわからないんです。ここはどこですか? なにが起きたのです?」
「えっと。ちょっと待って。とりあえず一回離してくれる?」
ダグラスの声が心地よく鼓膜を揺らす。まるではじめて耳にしたかのように、その甘くやさしい音色に心が捕らわれる。
「いやです、ダグ。あなたを離したくありません」
肩に顔を埋め、私は恋人のぬくもりを求めたが、ダグラスは決然とした力で私を押した。彼らしくない態度に顔を見上げてみると、強張った表情をしている。
それだけでどこか他人のように映るのは、目の色も紫から青へ変わっているせいなのか。
思わず頬へ伸ばした手を、ダグラスは身を引いて拒んだ。
「きみは、誰なんだ?」
「え……」
「どうして俺の名前を知ってるんだ」
ぐにゃりと船の床が歪んだ気がした。よろめいた私をダグラスは肩を掴んで支えてくれる。そのやさしさに今のは悪い冗談かと、いつものいたずらめいた笑みが向けられていることを想像した。
しかしダグラスの目には困惑と、そして憐れみの暗い色が浮かんでいる。手も私と目が合ってすぐに離れた。
「うそ……。そんな、私があなたを間違えるはずがありません」
私は引っ込められたダグラスの手を追いかけた。咎める声を無視して、白いなめらかな手触りのグローブを外す。
髪や目の色が変わったとしても、ダグラスを必ず見つけ出せる印を私は知っている。
「ほら、あります! ダグが生まれた証。あなただけの赤いアザです」
右手の甲、親指と人さし指の間に赤いアザは確かにあった。しかしそれを見たとたん、頭にズキリと重い痛みが走る。
その時手を振り払われて、私はひざをついた。
思ったよりも痛みはなく、物音もしない。手をついた感触はやわらかくふわりとしている。白とはまさに雲の色のことで、これは雲の板と柱でできた空飛ぶ帆船だった。
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