12 魔力のめぐり、一杯のスープ②

「ハニティは、なんでここで修行? してるんだ?」

「えっとね」


 ミスター何それの興味は、今度はわたしの魔女歴らしい。


「普通の魔女として生活するなら魔法使いの集落に行くんだけどね。大魔女になるからには、その力を継承した時……自分がどうしたいか、考える必要があるの。それに基づいて修行するって感じ」

「……例えば?」

「例えば? そうねぇ、わたしとかは地属性だから。武闘派魔女になるなら、今以上に大地や植物を意のままに操る修行をしただろうし。わたしみたいにのんびり魔女の中には、土壁で住居を作ることを修行としたり、自分で育てた薬草とかを調合して薬にする……薬師みたいな人もいるわよ」

「……では、ハニティも?」

「わたし? わたしはどっちかと言うと、地属性に全振りだから、……生産者側?」


 農業従事者の方には失礼なほど、魔法で楽させてもらってるけどね。


「なるほど。……ではハニティは、大魔女になったら今以上の規模で薬用の植物を育てるつもりなのか」

「まぁ……、そう。そう、考えてた……んだけど」


 元々大魔女の仕事のひとつには、魔物から人を守るというのもある。

 だから、まぁ。ある程度そっち方面の魔法の修行も必要。


 それにプラスアルファで、なにがしたいか。

 歴代の大魔女の魔力が積み重なって、今やとんでもない力であるそれを受け継いで……自分が何をしたいか。


 わたしは元々、前世の記憶がよみがえるまでは薬草や同胞にそれを用いて作ってもらった加工品を取引材料として、魔力をもたない人との交流を試みようと思っていた。

 今でも十分広いけど、今以上にもっっっと広い土地を使って……ね。


 大魔女というのは恐れられつつ、一方で魔力をもたない人から都合良く頼られるのも事実。

 基本、やり取りをする相手は領主だの特使だの、立場が上の人だ。

 それと商売根性がたくましい商人。


 そうじゃなくて、こう……。一般レベルの人とも、やり取り出来たらいいなと。


「けど?」

「うーん、うまく説明はできないんだけど。それだけじゃないなって」

「他にも方法が、あるってことか?」

「そう。最近ちょっと、気付いて。……ダオのおかげで、ね」


 ダオと、……それに前世の記憶のおかげで。


 自分の育てたものが魔法使いに特に効くとは分かっていても、そもそも呪いなんてかかった人は見たことがない。

 その人にすら、よく効く。

 そして、相手に合わせて食材を考えたり、自分の魔力が役立って成り立つ薬膳料理……。

 これを作るのが、存外楽しかったのだ。


 いうなれば、自社農場を持つレストランのオーナー兼料理人になった気分だ。


「まぁ、手段はそうなんだけどさ。目標? って意味でいうと、わたしは魔法使いにとっての『ふつう』を変えたいの」

「ふつう……を?」


 そしてもう一つ。

 前世の記憶によって分かったのは、魔力があろうとなかろうと、人の争いはある。ということ。

 だったら、魔力があって……しかも魔物にも対処する魔法使いが虐げられる世の中って、どうなんだろう。


 怖がる気持ちは分かるけど、ずっとこのままで良いのかな……って。


「そっ。どうせ魔物と戦う者同士、手を取り合った方が得策じゃない?」

「それは、そう……だが」

「でも、ダオみたいに、力だけ搾取されるってのも……わたしからしたら、変な話だし。つまり、簡単にいうと……魔法使いの地位向上! 目指せ、ふつうの待遇!」

「ふつう……か」

「いや、分かるよ? 魔力をもたない人の気持ちも。怖いだろうし。でもさ、……だったら、彼らも。わたし達の気持ち、少しは考えて欲しくない? こっちは別に敵対したい訳じゃないし」

「!」


 魔物もいない、魔力がない世界でも争いはある。

 ……恐れるべくは、力っていうより……、たぶん。

 自分と異なるものへの感情。なんじゃないかな?


「手段については試行錯誤中だけど、大魔女になったら……そう、したいかなぁ」

「……」

「それにわたし、地味だし?」

「地味……か?」

「シークイン様みたいな迫力美人が、何人もいるんだよ? やっぱり、今までの印象って中々変えれないと思う」


 歴代の大魔女が築き上げてきたもの。

 魔法使いを守るための、虚勢。

 そのイメージがぬぐえない中での活動。

 自分の近くだけ変えたとしても、後世にそれが伝わるとは限らない。


「わたし、思うわけ。人々に褒められても良さそうなのに、蔑まれる魔法使い……特に、大魔女様たちの孤独って……。どれほどだったんだろうって。……だからさ、地味魔女には地味なりの戦略、あると思うんだ。わたしなら、そこまで怖がれずにやり取りできるかなって」

「……のんびり魔女だからか?」

「そう!」


 というか、一人が好きな人見知り魔女?

 うわ、そう考えたらわたしのやりたいことって、……ずっと緊張してそうだな。


「俺の……やりたいこと、か」

「ん?」

「──いや」


 なにやら晴れやかな顔をしてらっしゃる。

 まぁ、わたしの話をすることで信頼……してもらえたかな?





「こう……か?」

「そうそう、イイ感じ」


 外での作業を終え、ブランチ作り。

 山芋の落とし汁を作ろうと思います。

 これがまた、美味しいのよね。


 で、ダオには今おろし金みたいにデコボコのついた器具で、山芋をすってもらっている。

 元騎士にこんなことさせて、ほんと申し訳ない……。


 汚れを洗って、持ち手が安定するように先の部分だけ皮をむく。

 円を描くように、すりおろしを指示した。


 ……というか、男女で横に並んで料理って。

 一人に慣れ過ぎてて、恥ずかしいんだが。

 しかも美形だし。


「いいにおい」


 わたしはと言えば、しいたけを洗って、生え際を落として、気持ち大きめにゴロッと切る。

 沸騰したお湯に入れちゃって、灰汁をとりながら煮えるのを待つ。

 干したものとまではいかないものの、ほんのり独特のにおいがする。

 あ、備蓄用に干ししいたけ用意しとこうかな。


「あとは落とすだけだし……」


 味付けしちゃっていいよね?

 冷ました方がよかった? まぁ、いいや。

 弱火にして、しょうゆと塩で味付け。味見。

 うーむ。……日本、って感じ!

 麺を入れれば、美味しいかけうどんにもなりそう。

 ほっこり。


「できたぞ」

「あ、ありがとう。助かったよ」

「お安い御用だ」


 手洗い用に魔法で器に出していた水で、手を洗うよう促す。

 手かゆくないかしら。


「それじゃぁ~、……いくよ!?」


 真打登場! とでも言う勢い。

 まるで、アトラクションのように楽しんでる気がする。

 あれ、料理ってこんなに楽しかったっけ……。

 人とやるとこんなに違うのかな。


「どうなるんだ?」

「まぁ、見てて」


 すってもらった山芋をちょっと大きめのスプーンの乗せて、箸で端の方をちょちょい、とやって丸める。

 はしではし……ダジャレじゃない、断じて。


「いっけぇー」


 というか、ナチュラルにこの世界は箸もあるんだな、と思いつつ。

 それを鍋に落とす。


「おぉ」

「全部こうやって、あとは少し煮れば完成!」

「…………やってみてもいいか?」

「え!? い、いいけど」


 意外。

 いや、聞いた感じだと料理そのものの経験が無い……?

 から興味深々なのかな。


「こう、か?」

「そうそう、丸めるの」


 箸、というよりは棒! って感じの持ち方で、たどたどしくも形を整える。

 剣よりかなり細いもんね……そうだよね。

 でも、楽しそうで良かった。


「……よし、少し煮れば完成。スープの器、出してくれる?」

「任せてくれ」


 ……なんだか、何かをお願いするとイキイキとしている気がする。

 助けられた恩を返そうとでも思っているんだろうか。


 山芋を裏返して、両面に火をとおす。

 いい感じ。


「ありがと。……火をとめて、器に盛って~」


 ほんと、料理って……こんなに楽しいんだ。


「刻んだねぎをパラパラとかけたら、──完成!」

 

 山芋の落とし汁、できあがりぃ!


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