13 魔力のめぐり、一杯のスープ③

「お……」


 おいしい~!


 山芋以外になにも入れなかったから、ふつうの団子より固くならなくて。

 つるっと、トロッとしてる。

 でも、火を通した時のあのふわふわの感じもして、たまらん!

 何個でもいけます!

 薄味のスープがまた、ほっこりして体に染みわたってる気がする。


「……なんだか、落ち着くな」

「分かる」


 シンプルな味付けのところに颯爽と「俺も居るぜ!?」と現れるねぎの風味も、いいアクセント。

 好みの味じゃなかったらどうしようと思ったが、杞憂だったらしい。

 おかゆの時と違って、ゆっくり味わいながら食べるダオ。


 一つ一つの食材が、口から、食道、胃、そして体全体をめぐる栄養となる。

 ……そんなイメージをしているかのように、じっくり食べている。

 うん、いいね。


「それに、不思議な食感? だな」

「すりおろして食べるところ、少ないかもね」


 あ、夜はとろろ玄米ごはんにしよう。


「……こんな風に、食事をしたことが……なかったな」


 ぽつり、と言ったそれは、たぶん。

 心と体が温まって、自然と漏れた言葉だったようだ。

 言った本人が、はっとしている。

 こちらも驚きです。

 泣きそう。


「呪い、どうなるか分からないけどさ。……国を出れて、結果的によかったのかもね」

「そうだな、そう……思う」


 なにが幸せかは人それぞれ。

 もしかしたら、ダオにとっての幸せはわたしと全然違うのかもしれない。

 だから、迂闊に言えなかった言葉を……。

 やっと、言えた。

 

 魔力をも満たすスープ。

 それよりなにより、彼に安らぎと安心を与えられたことが嬉しかった。



 ◇



 家事や庭の手入れをして、土に魔力を補充して。

 そうして夜ご飯の時間になった。


 夜はスープの残りに、とろろ玄米ごはん。

 ごぼうが余ってたから、前回同様きんぴらにして、メインは干物があったからお魚を焼いて食べた。

 ……ここは日本ですか?


「飲む?」


 生のアンズの実を砂糖と一緒にお酒に漬け込んだアンズ酒。

 魔法で作ったちいさめな氷と一緒にグラスに入れて、夜の贅沢なひとときを演出。


 あ、魔法使いのあいだでは十六歳からお酒飲めるのであしからず。


「ああ、もらおう」


 万全とはいえない体で作業を手伝ってくれたダオは、ここに来た時と比べてかなり打ち解けた雰囲気。

 ……というより、魔女の話をしてから。……かな?


「……聞いてもいいか?」

「んー?」


 氷が溶けて、ちょっとお酒が薄まるのを待っているとダオから声を掛けてきた。

 

「永遠の樹、とは……どういうものなんだ?」

「えっとねぇ、……象徴、かな」

「象徴?」

「そう、珍しい樹ってよりは、象徴」

「その樹になにかある訳ではないのか……?」

「うーん。グランローズ様でないと説明むずかしいんだけど……、土の大魔女の力が滞りなく継承されている証で、この世に継承者がいなくなったら枯れるんだって」

「ほう……」

「わたしも大魔女になったら、なにか分かるんだろうけどね……。まぁ、継承者が居ないってことは、あれだから」

「?」

「魔法使いの人口がよっぽどいなくて適任者がいないか、……継承前に死んじゃうか、だよね」

「──! そういう、状況も……全くない訳ではない……か」

「まぁ、色々ね」


 わたしたちは、魔法で色々と便利なことはあっても。

 寿命も体の構造も、魔力がない人とそう変わらない。


 大魔女たちは、直接魔力を譲ることもできるし、適任者を早めに見付けることで自分が死んだ時に勝手に魔力が移るようにすることもできる。

 どちらにせよ、継承の儀を行わないといけない。


 ……むしろ、大魔女を廃そうとする人々が、次の大魔女候補を亡き者にする。

 そんな危険性と隣合わせだった時代があっただろうに、永遠の樹は……まだ在る。

 ある意味、奇跡に近い。


「永遠に、次世代に命を繋いでほしい。……そういう、意味なんじゃない?」

「……そうか」


 突然どうしたんだろうと思ったけど、そういえば彼の目的だったな。

 彼なりに、今後どうしていきたいかを考えているのかもしれない。


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