第13話
「深刻な問題がある」
「そうだね。今まで先送りにしてたけど、これ以上は」
料理が盛られている食器を挟んだ二人の間に不穏な空気が流れる。
極めて深刻な表情で朝食を見ているが、箸が動く気配はない。
何度か口元に箸を持ってはいくが、体がそれを構内へ入れることを拒否する。
「万能調味料である塩でも流石に毎食だと辛いな。調理方法も食材もほとんど毎回同じということもそれに拍車をかけている」
「というわけだからダンジョンに行こう」
「どういうわけかきちんと説明して」
「ああ、すまない。ダンジョンには自然では手に入らないものや少し珍しいものがが手に入るのだ。それこそ、食糧や金属、魔法具など。ダンジョンで手に入らないものはないとまで言われている。そこで、ダンジョンを探索して最低でも何か魔物の肉を持って帰りたい」
魔物の肉と聞き舞弥の表情が歪む。
「トードはやめておくから」
舞弥の表情から何を考えていたのかを察知し、訂正を入れる。
「この前魔法具を調べていたらちょうどいいものを見つけた。これがあれば獲物を大量に持ち帰ることができる」
そう言いながらヴィクトリカは小さな袋を取り出した。
見た目はただのくたびれた袋を自信満々に出したヴィクトリカに舞弥は疑いの目を向ける。
「そんな目で見ないでくれ。私は父のように蔑まれた目で見られて快感を得られる特殊性癖は持っていない。普通に傷つく。見た目は悪いがこれは空間拡張された魔法の袋で、希少なものだ。これ一つで、そうだな、この小屋まるまる収めることはできる。ただ、一つ欠点があってな。中に何がどれだけ入っているかを把握しておく必要がある。記憶なりメモなりしてな」
そのため前の家主は魔法具をこの袋に入れなかったのだろうと考察を付け加え説明を終える。
「なるほど、未来から来た青いたぬき型ロボットの持っているポケットみたいなものだね。それは確かに便利だ」
「は? 未来? 青いたぬき? ろぼっと? ちょっと待ってくれ、全く意味がわからないぞ。マヤのいた世界では常識なのか?」
「ああ、ごめんなさい。こっちの話です。私が暮らしていた国の国民的アニメの話なんですけど、その主人公が未来の道具を取り出すポケットに似ているなって。中身を正確に把握していないといけないというところも似ているし」
「あにめ、というものについての理解が追いついていないが、作り話ということはなんとなく理解した。それにしても、想像だけでよくもまあ。大したものだな」
ヴィクトリカは素直に異世界を賞賛する。自身のことを褒められたわけではないのに舞弥は誇らしい気持ちになる。
舞弥はハッとして微笑む。
「それじゃあダンジョンに行くってことでいいかな?」
「ああ、そういえばそんな話してたね。うん、マナ譲渡くらいしか取り柄がないけど行くよ」
「よし、まずは目の前の朝食を倒すぞ」
顔を合わせて頷き、必死で箸を動かした。
どうにか朝食を掻き込んだ二人はダンジョンの二階を訪れていた。
最初に二階に来た時は舞弥の体力がなかったため長めの休憩を設けたが、前回と比較し、移動時間が短かったことと、一ヶ月以上の間毎晩激しい運動をしていたことで体力がついたこともあり5分ほどの小休憩だけで探索を開始することができた。
ダンジョン二階に出てくる魔物はスライムとトード。
トードは大型のカエルの魔物で、その肉は食べることができる。鶏肉に似た味だが、ダンジョン外の鶏とは比べ物にならないほど旨い。これはトードだけにいえたことでは無い。ほぼ全ての魔物に共通することで、魔物の格が高ければ高いほど味が上手くなる傾向にある。
対してスライムは数少ない食べることのできない魔物の一つで、その死骸は糊などの接着剤を作る際に使われる。非常に便利な魔物だが、今回の探索のターゲットではないため、まだ魔法初心者である舞弥の練習台にされている。
トードは舞弥舞弥が生理的に受け付けないためヴィクトリカが討伐している。死体を見ることすら嫌がるため一撃で、かつ形が残らないように意識をして高威力の魔法を使用している。
「順調に進んで入るな。ただ、出てくる魔物がよくないな。もう少し他の魔物も出てきて欲しいところだな。どうする? このまま時間までこいつらしか出てこなかったら。諦めて帰るか、トードで妥協するか、それとも一泊してもう一日探すか。保存食は用意してあるから一日くらいならどうってことないぞ」
「…… 次の日まで粘る。トードは我慢すればいけるけど、今の調理法だと絶対に無理」
「私も同意見だ。最低でも今の調理法でも楽しめるものが欲しい。できれば新しい調味料が」
「ねえ、あれってもしかして」
「ああ、次の回への階段だ。よかった、運がいいぞ」
角を曲がった先に階段を見つけた。
一階のこともあり二人は全速力で駆ける。
地形の変化はなく無事三階へと移動することができた。
「さっき運がいいって言ってたけど、あれってどういう意味?」
息を整えた舞弥が二階で出かかっていた疑問をヴィクトリカにぶつけた。
「ダンジョンは各階で出てくる魔物が変わるのだ。だからこの階にはスライムもトードも出てこない。もしかすると、私たちに都合のいい魔物が出てくるかもしれない」
「出た、チャージボアだ」
普通のイノシシよりも一回り大きい魔物が二人の目の前に現れた。
「見た目はいかついが、油断さえしなければ初心者でも簡単に倒すことができる
チャージボアがその名の通り溜めを作り二人目がけて突進する。
ヴィクトリカが魔法で防壁を展開し、チャージボアの突進を防ぐ。
防壁に阻まれたチャージボアは距離をとり再び防壁へと突進した。
「見ての通り、チャージボアは溜めからの突進しかしてこない。特にスピードがあるわけでもないので見てからでも躱すことが出来る。それに溜めが長いから遠距離攻撃ができるものはその隙に攻撃が可能だ。距離によっては足が速いものも攻撃が可能だ。ただ、耐久面や攻撃力はスライムやトードとは比べ物にならないから近づけさせないほうがいい」
ヴィクトリカは魔法でチャージボアの鼻を打ち抜き討伐する。
魔法で簡単な処理をし、腐らないよう氷漬けにしてから魔法の袋に入れる。
「最低限の収穫があったが、まだ時間はある。先に進もう」
現れるチャージボアを協力して討伐し進んでいると新しく鳩の魔物が現れた。
「舞弥、やはり私たちは運がいい」
「あれはソイハットという魔物で、嘴の付け根にある黒い豆から極上の醤油を摂ることができる」
「ホントっ」
舞弥は前のめりになってヴィクトリカに詰め寄る。あと数センチでキスしてしまうほどに顔を近づけている。
「ああ、本当だとも。こういったことで私が嘘をついたことがあったか?」
「…… ない。ごめんなさい、興奮しちゃって」
「そんなに申し訳なく思うのなら、そのままキスしてくれてもいいぞ」
ヴィクトリカの一言ですぐ目の前にヴィクトリカの顔があることに気づいた舞弥は頬を赤らめる。
舞弥は優しくヴィクトリカに口づけを落とし離れる。
「ふふふ、ありがとう。よし、アレは私が討伐しよう。さっさと終わらせてこの昂りを解消してもらわないと」
ヴィクトリカは魔法で土の矢を生成し、ソイハット目がけて発射する。豆を潰さないようコントロールされた矢はソイハットの脳天を貫通し、絶命させる。魔法の袋に収納し、舞弥に振り返る。
「さあ、早く帰って続きをしようか」
戸惑う舞弥を無視して手を取りヴィクトリカは駆け出した。
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