第5話

 夕食を食べ終え、食器を片づけ終えた二人はソファに座り向かい合っていた。見方によっては今にもキスでも思想な雰囲気を醸し出している。


「約束通り魔法を教えよう。ただし、今日は時間がないので魔法を使う前段階だけを教えようと思う」

「はい」

「早速魔法を教えようかと思ったけど、魔法を教えるための条件を最初に言っておこうかな。これを聞いて、もし嫌なら今日のところはやめておこう。マヤの気が変わるか、私が新しい条件を思いつくまでは魔法のことは無しにしておこう」

 それでいいかなとヴィクトリカは確認を取る。よほどの条件でなければ飲むつもりでいた舞弥は真剣な表情で頷く。

「よし、それじゃあ条件を言うよ。これから毎日私と一緒に寝ること。これだけだ」

 予想以上にあっけない条件に惚ける舞弥だったが、それも一瞬で、すぐに条件をのむ。

「あの、本当にそんなことだけでいいんですか? 何ていうか、対価に見合っていない気がするのですが」

「追放されてこの島に来るまでは誰かと一緒に寝るなんてことできなかったから憧れていたんだ。その対価と思えば釣り合っていると思わないか」

「ヴィクトリカさんがそれでいいなら私からは言うことはありません。その条件でよろしくお願いします」

 頭を下げた舞弥は気が付かなかったが、その時のヴィクトリカの表情はまるで、罠にかかった獲物を見る捕食者のようだった。

「それじゃあ時間もないし始めようか。手を出して」

 ヴィクトリカは伸ばされた舞弥の手を握り、指を絡める。予想外のことに舞弥の手に力が入る。握られた手を思わず振り払おうとしたが、それ以上の力で押さえつけられる。

「今からマナを流すから意識して。何かが流れてくる感じがするから」

 そう言ってヴィクトリカは舞弥にマナを流した。その瞬間、舞弥の表情が僅かに歪んだ。

「お、分かったみたいだね。おめでとう、一回で分かったってことは最低限魔法を使う才能があるよ。ちなみに、どう言うふうに感じた?」

 ヴィクトリカの問いに舞弥は顔を顰めたまま答えた。

「注射された時のような異物が入ってくる感覚。最初は変な感じだったけど今は悪い感覚ではないかな。なんというか、少し温かい気持ちになる」

「ははは、そうか、それは良かった」

「どう言うこと?」

 ヴィクトリカの反応に舞弥は戸惑う。そんな舞弥にヴィクトリカは微笑み理由を話す。

「マナを流した時の反応によって相性がわかるんだよ。相性が悪いとマナを流された側は最悪気分が悪くなるんだ。そして相性が良いと温かな気持ちになるんだ。だから、私とマヤの相性は良いと言うことになる。今まで私と相性のいい人がいなかったから嬉しいんだ」

「そっか」

 照れくさそうに頬を赤く染め舞弥はそっぽを向いた。ヴィクトリカも舞弥ほどではないが僅かに朱が刺していた。

「ま、まあこの話はここまでとして、続きをしようか。流されたマナを感じることができたら次の段階に進む。次は、自分の中にあるマナを動かす練習をする。最初は補助付きで、私も一緒にやる。それに慣れてきたら徐々に補助を減らしていき、最終的には補助なしでマナを動かせるようにする。今日は時間まで補助付きで練習しよう。マナを流すから集中して」

 舞弥は流れてくるヴィクトリカのマナを意識する。二度目のため最初よりもはっきりとその存在を意識することができた。

 ヴィクトリカが舞弥のマナをゆっくりと動かす。

「んんんっあっ」

 体内のマナを流された舞弥はゾクゾクとする体内を優しく撫でられるような感覚に体が反応する。

「エッ」

 その艶かしい反応にヴィクトリカは慌ててマナの流れを止めた。

 それが良くなかった。マナを流されている時とは比べ物にならないほどの反応を見せる。舞弥の額からは滝のように汗が流れ、呼吸も乱れている。全身を弛緩し、ヴィクトリカへと倒れ込む。ヴィクトリカの耳元で熱く官能的な呼吸音が鳴り、彼女の鼓動は徐々に強くなっていく。

 ヴィクトリカの我慢の糸が切れる寸前、彼女は舞弥を引き剥がす。鳴り止まぬ鼓動を落ち着かせるために二度三度深呼吸をする。落ち着きを取り戻したヴィクトリカは今日の訓練はここまでと、舞弥を抱き抱え浴室へと連れていく。魔法で浴槽を見たし舞弥の服を脱がせる。優しくシャワーをかけ、汗を流す。

 汗を流し始めたところで舞弥の意識が覚醒する。自分の状況を確認した舞弥は混乱し、慌て出す。その結果、ヴィクトリカが手にしていたシャワーヘッドを弾きお湯が二人を襲う。既に濡れいた舞弥はお湯が顔にかかり少し咽せることになっただけでほとんど影響はなかったが、まだ服を着ていたヴィクトリカは着ていた服が濡れ、体に張り付き、見たもの全てを興奮させる艶かしい姿へと変身した。

「あ、ごめんなさい」

 ヴィクトリカの姿を見て自分がしてしまった事に気がついた舞弥は申し訳なさそうな表情をする。

「気にすることはない。マヤのことを待たずに風呂に入れた私が悪い。それに、どうせ風呂に入る。服を脱ぐ時間が少し早くなっただけだ。そうだな、どうしても申し訳なく感じるのならこのまま一緒に入ってくれないだろうか」

 ヴィクトリカは木にするそぶりを一切見せず、舞弥の罪悪感を減らすフォローをする。そのことを文字通り肌で感じた舞弥はホッとした表情で微笑んだ。

「ありがとうございます。そのままだと風邪をひいてしまうので一緒に入りましょう」

 予想通りの答えに少し食い気味にヴィクトリカは服を脱ぐ。服を一箇所に固めて舞弥の隣に陣取る。

 体を洗い、二人並んで湯船に入る。広い浴槽も大人が二人で入る分には少し狭く、違いの方が触れ合っている。

「……気持ちいい、久しぶりのお風呂だから余計にそう感じるよ。お湯を溜めてくれたのヴィクトリカさんだよね、ありがとう」

 蕩け切った顔で舞弥が言った。

「それこそ気にする必要はないよ。自分のためにやったことなのだから。でもまあ、礼は受け取っておくよ。その方がマヤもいいだろうし。……それはそうとして、話が変わるのだけど、倒れる前にマナが動く感覚は掴めたかい?」

「……多分。マナかは分からないけど体の中を優しく撫でられる様な感覚がしたわ。そのあと急ブレーキをかけられたみたいな、さらに強い刺激を感じた」

「間違いなく感じられているね。最後に関しては完全に私のミスだけどマヤはかなりまなの動きに敏感だね。普通の人は少しムズムズするくらいだよ。敏感なことは普通はいいことだけど、あそこまでだとやり方を少し考えないといけないかな。基本的には私の補助は最小限にするとして、どうするのが一番か考えてみるよ。だから今日はここまで。続きは明日以降」

 先延ばしを食らった舞弥は少し不満げな表情をするが、こうなった原因のほとんどが自分にあることは理解している。頭では分かっていてもそれを完全に納得できるほど17歳の舞弥は大人ではなかった。

 二人は体が温まるまでお互いの世界のことを話し合った。全く違う世界のはずのふたりの世界は、話すほどに似ていると感じた。魔法と科学正反対の技術が発展したにもかかわらず、歴史や文学、日用品など、細かなところは当然違っているが大きな括りでは二つの世界にほとんど差が存在しなかった。どちらの世界の方が優れていると言うわけではない。どちらの世界にもいいところと悪いところがあり、それを比べることはできない。

 のぼせる寸前にお風呂から上がり、就寝の準備をする。前の住人が着ていたであろう二人には少し大きな寝巻きを着る。

 そのまま就寝とベッドに入ったところでヴィクトリカが舞弥に覆いかぶさった。

「えっと、どうしたの? ヴィクトリカさん」

「ヴィクトリカと呼んで」

「は、はい。ヴィクトリカ」

 突然のことにっ戸惑いながらも要求自体は大したことないため、舞弥は気にすることなく応える。

「あの、ヴィクトリカ、退いてくれませんか。っンンン」

 舞弥の口がヴィクトリカの唇によって塞がれる。目を見開き驚いた舞弥は押し返そうと力を入れるが、魔法で身体能力を強化したヴィクトリカに力で勝つことができない。それどころか、徐々にヴィクトリカは舞弥に体を絡めていく。逃げることはできないと悟った舞弥は抵抗を諦めてその身を委ねる。抵抗がなくなったことで服従に気が付いたヴィクトリカは漸く唇を離し舞弥を見つめた。

「説明くらいはしてくれませんか」

 閉ざされていた扉が開き自由に動くことができる様になった舞弥はヴィクトリカに今のこの状況になった経緯を尋ねた。

「約束したでしょう。魔法を教える代わりに毎晩一緒に寝ると」

 その一言で舞弥は自分とヴィクトリカの間に大きな解釈違いがあったことに気づいた。説明のなかったヴィクトリカにいくつか言いたいことがあったが、確認を怠った自分にも非があると黙って現状を受け入れる。

「分かったわ。確認しなかった私も悪かったからね。好きにしていいよ。でも初めてだから優しくしてくれると嬉しい」

「大丈夫、私も初めてだから。言っただろう、相手がいなかったと」

 言い終わるとヴィクトリカは再び舞弥に口づけをする。受け入れる覚悟のできていた舞弥は嫌がる素振りは見せなかった。されるがままにヴィクトリカを受け入れた。最初は同姓同士であることもありぎこちなかったが、次第にこの状態があるべき形であるかの様な気持ちに変わっていった。

 ヴィクトリカの行為はキスだけにとどまらず、手や唇で舞弥の全身を徹底的に刺激した。舞弥が果ててもその手を止めることはなく、気を失い、反応がなくなるまで続けた。

 行為を終え満足したヴィクトリカは最後に軽く口づけをし、眠りについた。

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