ルイと僕

あおい

 「志眞しま。あなた、いい加減新しい恋人を作りなさいよ」


「もう、またそれ。嫌だよ。僕が愛しているのは君なんだから」


 小さな2人用のダイニングテーブルを囲んで朝食を食べながら、僕たちは嫌になるぐらい毎日、そのやり取りを繰り返す。

 僕は小さなアパートのこの部屋で、恋人のルイと2人で暮らしていた。彼女はきっともう70歳近くになるが、豊かな黒髪をきっちりと結い、深い赤のチョーカー(これは昔、僕がプレゼントしたものだ)、黒のワンピースを纏って、シャンと背筋を伸ばして行儀良く朝食を食べている。

 僕は先に食べ終わった食器をシンクに運ぶと、彼女の傍へ行き、横から彼女を抱きしめた。彼女の肩は歳のせいで肉が落ち、さらに薄くなってしまっていた。


「もう、分からずやね」


 そう言いながらも彼女は幸せそうに微笑んで、僕の胸に頬擦りしてくれる。彼女からはいつも日向の匂いがした。僕はその匂いが昔から大好きだった。


「今日、夕方から病院だから、そのつもりでいてね」


「分かっているわ」


 彼女は去年、心臓を悪くしてから、定期的に病院に通っている。

 僕は2人分の食器を洗い上げカゴにあげると、リュックを背負って玄関に向かう。


「がんばってね」


 玄関まで着いてきたルイがヒラヒラと手を振る。


「うん。じゃ、行ってきます」


 僕はいつもの日課のキスをすると、手を振って大学へと向かう。僕は都内の大学に通う4回生。今は就職活動と卒論のために、週に何度か大学に通っていた。

 ルイのことは大学の友人には言っていなくて、この恋は僕とルイ、2人だけの秘密だった。


 僕がルイに出会ったのは12年前。

当時住んでいた実家の近くの公園で、初めてルイに出会い、僕は彼女に一目惚れした。一目惚れと言っても、当時僕は10歳で、恋と言うには拙い感情だったかもしれない。でもその気持ちは今も変わることなく、僕の胸を温かく、そして切なくさせた。

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