第2話

此処で重大な事がある。それは、各国が一城に対し一都市しか持たないと言うことである。つまり都市国家を成しているわけで、一国は差ほど大きくはない。それに国家間も、離れていて男の足で四日と言った程度の距離である。馬を使えば、通常二日もかからないだろう。

しかし、使命を受けた一行は、実にゆったりと足を進めていた。馬を使っているので、それでも人足より、十分速い。

「ま、半月以内に着けばいいなんて、暢気な話だし。およそ交渉事か何かだろう……」

ロンが、面倒くさそうに溜息をつく。しかし直ちに発てという言葉とは、まるで真逆である。既に奇妙な話しだ。自分達がそろい踏みをして、歩調を合わせることが、エピオニアで起きている問題において、変化を与えるのかも知れない。五大勇というのは、それほどの存在でもあるのだ。

「国王の考えられることだ。儂等が深く考える事もあるまい」

ジーオンは、気休め程度にロンを慰めた。

「大凡、我々を使って、圧力でも掛けておくつもりなのでしょう。エピオニアには不穏な動きがあるという噂ですからね」

最後にロカが言う。

既に中央に集まり、暇を持て余していた三人は、気軽に会話をかわす。特に親しくなったわけではないが、旅の友という気持ちはあった。

ザインバームは特に話に加わらない。王城に現れたときとは違い、何だかぼうっとしている。

「所でザインバーム殿、何故遅れたのか、理由を聞かせてもらえぬか?」

ジーオンが、ザインバームと会話するきっかけを作る。礼儀として、聞かれれば答えなければならない問いだ。いや、それ以前に遅延したことに頭を下げ、謝らなければならない。

「ああ、途中で盗賊と出くわしてね。ほら、クルセイドの北西には、山があるだろう?」

そして、彼は別段渋る様子もなく、その問いにすんなり答える。だが、それだけを言うと、また口を閉じてしまう。別に雰囲気を暗くするわけではないが、周囲から見て、捕らえ所が見つからなかった。

「そう言えば、ウエストバームが行方不明だという事が、気になりますね……、クルセイド国王も、人力をさいて下されば、少なくとも……」

と、ロカがそこまで、何気なく晴れた空を眺めながら口を開くと……。

「縁起でもないことを言わないでくれ!仮にそうだとしても、五大雄の称号を持つ者だぞ、そうなれば、血は繋がっていなくとも、私たちは兄弟同然だ!彼が生きていることを信じよう」

暗いことを言い出したロカに対し、ロンは思わず拳を振り上げ、恐らくそうであろう事実を否定した。

「そうは言うが、俺達初顔合わせだぜ」

此処でザインバームが初めて自主的に口を開く。

「ホホ、確かにザインバーム殿の言うとおりだな、我々は戦った戦場も違うし、ただ顔を知っているだけの仲なら、イーストバーム殿と儂だけ、サウスバーム殿、ノーザンヒル殿、そして、ウェストバーム殿は、お父上から、称号を受け取ったのだから、五大雄の絆というのも、もはや皆無だな」

ジーオンは、穏和な雰囲気で、立派なあごひけを積みつつ撫でて、ロンの意気込みをそぐ。

「はん……、老体はイヤなことを言う」

ロンが戦場を駆けたのは、二十三の頃だ。若さが支配する年頃だ。時間よ止まれと言いたい心境になる。

「まあ、良いじゃないですか。それなら、街に着いた時に、友情を築くのために一晩飲み明かしましょう」

大人しく、誠実そうな趣をしていたロカが、意外なことを言う。割と軽いノリだ。人は見かけによらないと言うところか。さほど堅苦しい連中でないことに、ザインバームは力が抜け、クスリと笑う。

彼らは街道を歩いている。一見安全な進路に思える街道だが、他にあまり多くの経路がないため、追い剥ぎがよく出る。もちろん街道警備隊なるものも組織されているが、それでも安全にはほど遠い。

ただ、街道を狙う追い剥ぎは、彼ら一行のような、国家間を行き交う強者を相手にしなくてはならないため、一概に有利であるとも言い難い。両者共々、リスクと利点があるのが街道だ。

「よし、このまま街道沿いを一気に行こうぜ!そうすりゃ、サウスヒルだ!エスメラルダ!久々に飛ばすぜ!!」

エスメラルダとは、ザインバームの愛馬で、名前から想像が着くとおり、牝馬である。そして、駿馬である。必要のない限り、街の外へは出ない。いい加減屋敷の庭園の景色にも見飽きたところだった。エスメラルダが外に出るのは、今回が初めてだ。彼女にとって、初めての戦道となるのだろうか。

「ま、待つんだザインバーム!」

次に、威勢良く走り出したザインバームを追いかけたのは、ロンであった。ついつられて、馬を飛ばしてしまう。しかし、一日中馬を飛ばすわけには行かない。必ずどこかで追いつく事を、冷泉に考えた残り二人は、マイペースに馬を走らせることにした。

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