グローリー
城華兄 京矢
第1話
混沌の時代。魔法と呼ばれる文化が貴重であり、それが時代と国をを左右する奇妙な世界。
特に、魔導師と呼ばれる、魔法の頂点に立つ技法を極めた者は、世界に点在する国家に大いなる恩恵と危機感を与えた。
そんな時代に存在した、世界の北方にある、クルセイド連合国という世界の北方に存在した島国の物語り。
クルセイド王国は、セインドール島に有り、クルセイド国を中心に、北にノーザンヒル国、東にイーストバーム国、西にウェストバーム国、南にサウスヒル国、更に其処から南にあるエピオニア国の六国からなる連合国だ。
それぞれに、豊かな農土を持っており、いくつもの戦を経て、今は漸くのバランスを保ちながら、一つにまとまりを見せている。
今でこそ、この連合国は静かなものとなったが、長い歴史の中、国を纏める首領たちには、いつも魔導に対する強い危機感があった。
七年前の出来事である。エピオニアより北東に位置し、強大な魔導の力を持ったリヴィアという国が、連合国から独立を目指すが、最終的には、魔導師の暴走により、内部崩壊をしてしまったのだ。
連合国は、総力をかけこれの鎮圧に向かうが、強力な術者の暴走を防ぐことは、困難を極め、数多の死傷者を出すことになる。
だが、この戦争も連合国の勇敢な者たちの活躍により、漸くにして鎮圧するこができる。
その激しい戦争終結後、それぞれの国で最も活躍した者達へ、国の名が称号として与えられた。この戦争が生み出した、英雄の証でもある。
その彼らが今一度、連合国の不穏な情勢のため、中央を制するクルセイド国王の前に集めらようとしている。
ジーオン=アルヴァ=ロールダム=スタークルセイド。
彼はクルセイドの称号を持つ。
七年前の戦争で、その中心的役割を果たした賢者である。還暦も過ぎ、伸びきった白髪と白髭をを蓄えた、老人ではあるが、背筋にも活力を感じ、歩く歩幅も年齢よりも遙かに若々しい人物だった。
しかし、悟りそ知った面持ちで、無謀な剛胆さは決して見せない。そんな彼は己の力量を知る名実共に賢者であった。
自分が国を有するには、器量不足であると悟ったのは、もう随分昔のことである。
ロカ=アリューウォン=シャイナ=サウスヒル。サウスヒルの国名を称号を持つ、グレイがかった頭髪を持ち、身長百七十センチ前後の過不足ない体格の若き賢者である。攻撃魔法が得意であり、ジーオンのように攻防一体と言うところまではいかないが、その力量は将来を有望視されている。若干二十歳である。称号は父から受け継いだ。そのことから周囲の期待が十分に伺えた。
ロン=スー=チー=イーストバーム。イーストバームの国名を称号を持つ。黒髪を後頭部でテール状に一纏めにした、アジア情緒のある顔立ちをしいる男性で、眉毛がやや太く凛々しく流れている。
身の丈は、ロカと同じくらいだが筋力の分、少し大きく見える。彼は若い頃に戦争に遭う。その剣は、一騎当千といわれている。そろそろ三十路だが、今が技、体力ともに、最も充実しているのではないだろうかと、周囲の評価である。
クルセイド国王が、物怖じしない三人を前にし、ゆっくりと立ち上がる。
「ノーザンヒルと、ウェストバームが、未だ来ぬが、うぬら三人に、重大な任務を与える故、直ちにエピオニアに向かって欲しい。逐っての指示は、先遣隊に聞くが良い」
じっくりと落ち着いた国王の声だった。50代の国王だが、体格は細く、あごひげも生えていない。重厚なイメージははないが、利口さが伺える口元をしている。
彼の瞳の輝きは、あまりその考えを読ませない、思慮深さのためだろう。先見の明に長けた人物である。
「国王!」
その時、近衛兵が息を切らせながら、玉座の間に駆け込んでくる。
「アインリッヒ=ウィンスウェルヴェン=ウェストバームが!盗賊と遭遇し!その結果……、行方不明……」
この場合、殆ど死んだといっても過言ではない。遺体が発見されていないというだけの問題である。
国王は、眉間に指を宛い、渋い顔をする。これで、揃う筈の人間が一人欠けたことになる。その時、全力で走り、動けなくなった近衛兵の後ろから、一人の男が、ゆっくりと玉座の間に足を踏み入れる。
「遅れて失敬。一寸野暮用があってね、間に合ったんだろ?」
少し横柄な態度で、含み笑いをしながら、ブラウンの色合いの髪をもつ青年がゆったりと彼らに歩み寄る。頭髪は、癖毛でぼさぼさとして、つんつんと髪の毛がたっている。
「ウヌの名は?」
あまりにも太々しい態度のその男に、王は一線を引き、表情に嫌悪感を表す。
「ザインバームだ。オヤジが死んだんで、俺が来た」
そう言ったザインバームが、ポケットから、無造作にエンブレム出し、それを国王の眼前につきだした。それは間違いなく、ノーザンヒルの証であった。
ザインバームの眼孔は荒々しかった。その中に勇ましさと、逞しさを感じる反面、それに反発するぎらつきがある。ジーオンは、奇妙な彼を観察すると、気づかれないように、素早く視線を国王に戻す。
「五大雄の血を引く者が、一人欠けたが……とて、任務を撤回するわけにも行かぬ。直ちに発て!」
クルセイド国王の一声で、彼らはサウスヒルの更に向こう側にあるエピオニアに向かうことになる。慌ただしい旅立ちだ。ザインバームは、先ほど到着したばかりである。すこし、やれやれ……と言いたげに、ため息をついた。
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