19. “根啜蟲の女王”の調査1
対抗依頼とは、複数のパーティーが受注し、その中で依頼を完遂した一組のみに報酬が支払われるという形式の依頼である。複数で挑む形式には他に合同依頼というものがあるが、そちらの場合、報酬はパーティー数で頭割だという。
複数パーティーを動かすという特性上、支払われる報酬は当然高額に設定されている。今回は依頼主達が奮発していたので条件をクリアしていたということらしい。
また、
今回の場合、セレが
一対多数、存在さえ確定していない女王を、この広大なデアナから探し出す。いなければ負け、いたとしても、先に見つけられなければ負け――その不公平ぶりを理解したエナが『絶対見つけるぞ!』と吠えていた。
「――すまない!!」
――目の前には、見本のように美しい直角のお辞儀。あまりに勢いのあったそれに、セレは柄になく目をぱちくりとさせた。
「あいつら、本当はいい奴らなんだ……最近、なんか気が立ってるみたいで……」
「単純に嫉妬してるのよ。あなた、
「……別に何とも思ってないから気にするな」
「あ、ありがとう……あ、俺はアレク。鉄等級だ」
「私はフィーナ。同じく鉄等級よ」
「鉄等級、セレだ。こっちは従魔のエナ」
「ぴゅい!」
「私はリィン。採集専門の銀等級だよ。この子達は私の“仲間”」
「ヌッ」「ヌフ」「ヌ?」「ヌヌ」「ヌン」
現在地は談話室。部屋にはセレ(+エナ)、リィン(+
二人はセレの“見張り”である。彼らが自ら立候補した。彼らの
「リィンは帰っていいんだぞ。こんな面倒事に付き合う必要はない」
「私はただの見学。楽しそうだもの。あ、もちろん報酬はいらないよ?」
「……そうか」
「この依頼が終わったらお酒買ってお疲れ会しようね。女子会するよ女子会」
つまり暇らしい。そして飲みたい気分らしい。やはりどうも力の抜けた気分にさせる女性である。
この場に残っている以外の面子はすでに解散している。アレク達以外の新人は足早に町へ飛び出し、依頼主達はセレに激励を残して帰っていった。
「酒って……セレはまだ未成年だろ?」
「ふふっ、違うんだよー」
「私はとっくの昔に成人してる。お前らよりは間違いなく上だ」
「えっ……と、年上!? セ、セレ……さん?」
「敬語はいらない。私も得意じゃないしな」
セレはデアナの地理に詳しくない。当てずっぽうに走り回るのもどうかと言うことで、フローラリアに付き合ってもらっていた。「仕事ですから」と嫌な顔一つせず地図を持ってきてくれた彼女はできる職員である。
フローラリアに借りたデアナの地図を広げる――改めて見ると本当に大きな町だ。北にはボレイアス大森林という恵みがあり、そこから下りてきた河川が町を流れる。ボレイアス大森林と町を隔てるようにトゥルサ平原が広がり、町の城壁を挟んで西には田畑が伸びている。
「農園は主にここ……北西に多くありますね。セレさんもここ数日はよく通われたのでは?」
「そうだな……フローラリア、
「おおよそ10メットほどと記録されています。ローゼス大陸の魔素溜まり近くで確認された個体らしく、非常に肥えていたと。通常が2メットほどですから、おおよそ五倍ですね」
「じゅ、10メット……」
「サイズだけなら魔獣と同程度かしら……相当な大きさね」
「……非常に肥えた、か」
央人族の成人の身長が1.5メットから2メットだったはずだ。つまり約10メートル、雄のサイズが10センチ前後であることを考えると、女王は通常でも規格外の大きさだとよくわかる。ギルドが無視できないわけだ。
「今回駆除された雄は魔草をよく食べたからか立派なサイズだったらしく、それだけ栄養を蓄えた雄を捕食しているなら女王も通常より大きいものと思われる、とのことです」
「やっぱり危ないじゃないか!」
「被害が出る前に、早く見つけないとねぇ」
「んー……」
暫し思案する。デアナの農園があるのは主に北西エリア。城壁内を北北西から南南西へ抜けていく河川を挟んで城壁側、中央の繁華街エリアからは隔たれた場所にある。
ここ数日でセレは北西エリアをあらかた踏破したと言っていい。張り巡らされた路地を縫うように進み、住宅街の隙間を埋めるように点在する農園を大小問わず訪れた――しかし、そんな
「……女王も雄と同じように地中にいるのか?」
「ええ、基本的な性質は雄と変わらないはずです」
『うーん……じゃあセレの
(……いや)
いくら街中といえど、ある程度の範囲内なら
セレの感知できる範囲の地中にはいなかった可能性は高い。南西エリアか北東エリアか、それとも中央エリア寄りに潜んでいるのか。はたまた北西エリアではないエリアの農園か。
“戻ってきた雄を捕食する”という特性から、北西エリアからそう遠くにはいないと思うが――。
「土の中かぁー、森の中なら得意なんだけどねぇ」
「ヌッ」「ヌフ」「ヌ?」「ヌヌ」「ヌン」
「そうだ、
「……まさか片っ端から地面を掘り起こしてるとかじゃ……そんな深さにいるとは思えないけれど」
「――“そんな深さに”……」
『なんだ、なんかわかったのか?』
(――嫌な予測が…………あー、でも可能性がある時点で……)
急に回り始めた頭の中、ここ数日で得た情報を繋ぎ合わせる――眉間にしわが寄ったのを感じる。
「――フローラリア」
「はい、どうされました?」
「見せてほしいものがある」
付き合ってもらっている彼女にいろいろ頼むのは気が引けるが、こればかりはどうしようもない。
もしも“最悪の推測”が当たっているのなら、この件はなかなかに厄介で、面倒で――そして、大ごとになるかもしれなかった。
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