虚構のフィロソフィア
@NAGANO24
第1章『月と悪魔』
第0話『曙光を掴むも絶望』
2025年3月14日、午前11時29分――。
会場には500名近くの受験者が、数週間前に受けた2次試験の結果を今か今かと待ち侘びている。
憂哲もまた、その一人である。
彼が受験したのは、日本一の名門高校――私立
これまでに国内外問わず、最難関大学の合格者を輩出するという偉業を成し遂げ、その中には著名人や研究者として活躍している卒業生もいる。
しかしその偏差値は平均で74点以上、倍率も知名度と共に高まるばかりで、その道のりは大変そのものだった。
憂哲は元より頭は良くなかった。
だが、そこでの学校生活に強く憧れを抱いた。
ここでなら自分は変われるかもしれない――その一心に取り憑かれたように、彼は必死に努力を重ねた。
定員80名の座に入り込む為に、彼は勉強以外の全てを代償に払った。娯楽や学校行事は勿論のこと、友人関係さえも受験の天秤に計り、不必要と判断すれば容赦なく切り捨てた。
その執念深さは、皮肉にも周りから疎まれる一因になったのだが、彼はそれほどに渇望していたものが、この先にあると信じていたのだ。
気付けば時刻は11時30分となり、複数の試験官が一斉に掲示板を開示した。
一瞬で歓声が湧き起こる中、憂哲は緊迫で目が充血するほどに、じっくりと掲示板を眺めていた。
彼はこれまでにあらゆるものを失ってみせたが、さらにこの先の不幸を受け入れるような重たい覚悟を宿していた。
そして、ついに少年は結果を知らされる。
「――あぁ! やった、合格だ。合格だ! やった!」
憂哲は辺りの盛大な歓声に混ざる形で、思わず勝利の雄叫びを上げた。
その近くで地面の方を向いて涙を流す人達もいる中、彼は万に一つとされる合格を手にしたのだ。
すると彼の脳裏に、あらゆる期待が過ぎる。
どんなことを学べるのか、どんな仲間に出会えるのか、そしてどんな自分になれるのか。――どれにせよ、彼には全て上手くいく気がしていた。
そうして憂哲は帰路を辿った。
家族に良い報告ができることを喜びながら、気付けば彼はリビングにいた。
だが、――そこには地獄が広がっていた。
「え……何コレ……? みんな……?」
理解するのに時間が掛かった。
心の中で溢れていた幸せが、徐々に恐怖と絶望に変わり果てる。意味も分からず、涙と吐き気を催す。
「僕、合格、シたんだ……今日の為に、頑張り続け……タんだよ? な、ノに……あ、あぁ、ああぁあぁあぁ!!」
憂哲は地面に伏した家族の元へ駆け寄る。
「どうして!? ねぇ? 返事してよ! 喜んでよ!」
自暴自棄になった彼の制服が、真っ赤に染まっていく。この狂乱した様子にも関わらず、誰一人として言葉を返すことはなく、その身体は気味の悪いほどに冷たかった。
「嫌だ……やだ……ミンナ……」
その日、憂哲の家族は全員殺害された。
この凄惨な事件をきっかけに、月影 憂哲の呪われた運命が動き出す――。
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