0033 非公式冒険者ランキング


「ふ~……」


 冷えたビン牛乳をごくりとやって、一息。


 まだ開店まえの和菓子三日月。

 店前の縁台に腰掛け、黒くてデカいラジカセからは聖闘士星矢。

 日は昇りかけていて、薄青の影と黄色い光がまばらだ。


 どことなく、向こうをぼ~っと眺める。


 朝一の冒険者たちが、合流と飯と談笑と出発を繰り返している。

 広場の静かな活気もいいものだ。


「三日月いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい――」


(ああ、静かだなあ……)


 広場の静かな活気もいいものだ。


「みぃぃかぁぁずぅぅきぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


(やっぱ朝はいいなあ……ハトとかいるし……)


「三日月ッ! おおおおオマエェェ……!」 

「あぁ~静かだ静かだ……」


 その声は、遥か遠くの地にいったはずの旧友、外野島そとのしまだった。

 そいつは十桜の顔から30センチくらいに詰め寄ってきた。

 

「……なんでボヨヨンちゃんとォォ……じゃなかったァ!」

「おまえ、遠くに行ったんじゃあないのか? ハト逃げちゃったじゃねーか」

「なんの話だァ!?」 

「……うるさくて星矢きこえんだろうが」

「なんだセイヤって! なんだこの古い機械!?」

「知らんのかよ、男の教科書だよ。ジェネレーションギャップだなあ」

「タメだろうがァッ!」

「で、なんですか?」

「敬語つかうんじゃねーよ!

 そのっ、オマエ! おおオマエッ! ラ、ララ、ランキングッ!」

「ああ、それなぁ……」


 そうだと思った。


「なんなんだアレ!? “この冒”ッおかしくなったのかァッ!?」


 外野島の言う“この冒”とは、

 冒険者ランキングサイト『この冒険者がすごいっ!』の略称だ。

 

 そのサイトにアップされているランキングは、

 冒険者たちの実力や活躍度を表す『冒険者番付』なのだが、

 しかし、このサイトは冒険者ギルド非公式で、

 しかも、ギルドでも把握できないような情報が大量に詰め込まれていた。


 というか、個人情報がまあまあダダ漏れで、

 それはダンジョンの至る所に監視カメラが仕掛けれているんじゃないかと

 疑うようなレベルのものだった。


 これにより、ザックリとだが“誰がどんな活躍をした”

 ということが冒険者間で共有されていた。

 

 



 0033 非公式冒険者ランキング





「アレはなんだ!? バグかッ!? なんだ!? ワイロかッ!?」

「ああ~そうだなあ。バグだろうなあ……」

「そうだよなァ……三日月が1位なんて獲れるわけないよなあ」

「そうだよ。迷惑な話だよまったく……」


(……いやあマジで面倒なことになったなあ……)


「……そうだよなあ……あの、非モテな三日月がさあ……」


(……きのうのアレは、レベル30相当のモンスターって感じなのか……?

 俺と同レベルのくせに……)


「……ランキング1位になって、女子と楽しそうにダベってて……

 そんなこと……あるわけが……」


(いや、昨日も一昨日もヤバイヤツばかり相手にしたから……)


「……三日月がボヨヨンちゃんと1位だとおおおおおおおお

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッッ!?」

「おーおーうるせーなあ……たかだかルーキーランキングだろうが!

 しかもバグだ、バグに決まってるだろうがァ!!」


“ルーキーランキング”とは、


『この冒険者がすごいっ!』においての、

 レベル1からレベル19までの初級冒険者限定ランキングのことだ。

 十桜は、そのルーキーランキング全日本1位にして全世界1位になっていた。


「そうだよな……スコップとメットでどうやって世界1位獲るんだよなあ……」

「そうそう」

「オレなんかレベル9なのに120,642位だからなぁ……日本で……ルーキーで……

 最初、検索に気づかなくて永遠にスクロールしてたわぁ……」


 外野島はため息とともにつぶやくと、十桜の隣に座った。

 しばらく、聖闘士星矢のエンディングテーマ『永遠ブルー』だけが聞こえていた。


 十桜はぼけーっとつぶやいた。


「あしたの空はブルーだぞ」

「意味わかんねーよ……」


 ――ごくごくっ


 ビンをごくりとやって、一息。


「ふ~……おまえの分の牛乳はないぞ」

「いらねーよ……」

「じゃあ、お茶飲むか?」

「おまえ、やさしいなぁ……」


 ――ごくごくごくっ


 ビンをごくりとやって、一息。


「ふ~……」

「……そのやさしさで一位獲ったのかっ!?」

「おまえ、狂ってるのか……?」

「オマエだろ! 無課金プレイヤーなんてアダ名ついて狂ってるだろうが!」

「じゃあ、熱いお茶淹れてやるよ。心が冷えてるから叫び声をあげるんだろう」

「人を寂しいヤツみたいに言うな!」

「ちょっとまってな」

「いや、いいよっ!」


 玄関にあがると、莉菜にばったりあった。

 彼女はTシャツにパーカー、ぴっちりスウエットパンツの姿。

 寝て起きたときの恰好のままだ。


「あっ……」

「あっ……」


 声が重なる。


 朝、ともに起きたときのドキドキ感と、

 なにかイケナイ事した感を思い出してしまった。


「……」

「……」


 莉菜は、ほのかにかおを赤くしている。

 ふたりは「あっ」しか言っていない。

 昨晩、あんなに仲良しだったのに、

 朝になるとほんのりリセットされていたのだ。

 ふたりの間に変な空気が流れている。


 あの いい朝ですね


 十桜は、そう声をかけることにした。

 莉菜の先輩なのだ。

 それくらいできる。


 しかし、


「あの……」

「あの……」


 また声が重なった。 


 そこに、


「十桜、ビン」


 ばあちゃんが牛乳ビンを回収しにきた。

 そして去った。 


「あ……あの、せんぱい、お外にいってたんですか?」

「ああ、散歩してから椅子に座ってた……」


 ばあちゃんがふたりの緊張を緩和してくれたようだ。

 十桜は、もう平気だ。


 しかし、ちょっと寝不足ぎみな感じはする。

 昨日はめちゃくちゃ疲れたので、昼まで眠っていようとおもった。

 しかし、早朝に目覚めてしまった。

 莉菜と同じタイミングで。

 そのまま、なんとなしに散歩に出たのだ。


「お茶淹れるけど、飲む?」

「はい……いただきます」


 十桜は、三人分の緑茶を用意すると、

 一杯を莉菜の待つこたつテーブルに置いて、玄関へ。

 すると、彼女に呼び止められた。


「せんぱい、どこにいくんですか?」

「ああ、ちょっと、外に昔の昔のともだちがきてて……」


 そういって背中を向けると、


「……ご迷惑でなければ、挨拶させてもらえませんか?」

「えっ!? ……なんで?」

「せんぱいの昔のこと、知りたいなあって思って。だめですか?」

「ええっ……ダメじゃないけど……よしといた方がいいよ」

「なんでですか? やっぱりご迷惑ですかね?」

「いや、まったく迷惑じゃないんだけど……

 ソイツ、きのう莉菜ちゃんと会ってるんだけどさ……」

「え? ……ん~……」 

「あの、朝、さわがしいヤツがいたでしょ?

 叔母さんが帰って、ダンジョンに出発するとき……」

「あ~~~……!」

「そう、フードしてて顔は見られてないかもしれないけど、

 莉菜ちゃんあんまりアイドルだって知られたくないだろ?

 外のソイツは、雑誌読むタイプのヤツだから、もしかしたら知ってるかも……」

「大丈夫です! 先輩のご友人なんですから」

「……いや、ソイツ、(ハーレムハーレム叫ぶ)ヤバイやつだからさ……」


 十桜は、ハーレムに思うところあって黙ったが、


 莉菜は、


「十桜先輩のお友だちなら、いい意味でヤバイんですよね?」


 莉菜だった。


「ええっ……」


 こうなると莉菜は、

 十桜の持つお盆を「あたしがお持ちします!」して、あとをついてきてしまった。


「……外野島……彼女は……」 

「はじめまして、あっ、昨日お会いしたんですけど、

 私は十桜先輩の妹さんの友人で、日向莉菜っていいます。

 あいさつが遅れてすみません。よろしくおねがいします」


 莉菜が玄関先で自己紹介すると、

 縁台にいた外野島は、石化したみたいになって、そして、


「……………………ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」


「え」をいっぱい言った。


(昨日の再放送かよ……)






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