第50話

 オッフェンバハ艦長のカッセル大佐は、さながら、処刑前の古来の「侍」を思わせる出で立ちで―――上半身裸で、自身に縄打ち、台車に乗せられてライプツィヒの前に登場した。彼の部下たちも一様に青ざめた表情をしている。

「カッセル艦長、これは…!?」

 ライブツィヒの困惑の問いに、カッセルは力なさげに応えた。

「パフォーマンスと笑いたければ笑われると良い。その方が、小官の道化としての格も増すというもの…」

「まだ私は何の話も聞いておらんし、何の沙汰も下してはおらん!」

 ライプツィヒはカッセルの部下にすぐ縄を解かせるように、自身の部下には艦長(大佐)に相応しい衣服を用意するように命じた。

「参謀長閣下…」

「カッセル艦長、自分を見失ってはならん。そんなことだから今度の事故が起こったのだ。もっと堂々とするんだ…」

「はい…」

 そうして、カッセルは大佐に相応しい姿に戻り、ライプツィヒと対面した。

「それで、さっきはどうしてあんなことをしでかしたのだ?部下から造反者が出たのか?その責任を取りたかったのかな?」

「概ねはその通りです…」

 カッセルの語ったことは冥王星政府にとって脅威となる事実の陳列だった。

「造反者は、粗方は縛り上げたのです…そして、何名かに、尋問をしました。そうしたら―――」

「そうしたら?」

 カッセルは頭を抱えて唸った。

「奴らは最初から共産主義者でした…それを見抜けなかった私に責任があると、先程はあのような挙に出ました…」

「最初から」

 予科練学校入学の際には思想調査も行われる。その段階では隠せていたということか?だが、違うとカッセルは言う。

「どうも、入学直後から共産主義に染まったそうなのです。学校周辺に、そういう者が起居していると」

「そこまで喋ったのか」

「はっ。これでも、私は部下の親代わりとして振る舞ってきたつもりです。その親が聞いたのですから、子も答えます。尋問とは言いましたが、誓って手荒な真似はしていません」

「本星に通報せよ!」

「ハッ!」

 副官を、予科練学校周辺の環境調査を軍上層部に上申すべく、急いで伝令に出した。

「部下は私にとって子も同然。その子たちが造反したのですから、私も打ち首になって当然なのです…」

「それは駄目だ、大佐。大佐はオッフェンバハ艦長として、造反者の炙り出しを最優先で命ずる。艦内が正常化し次第、要塞攻めの後詰に回るのだ」

 それが君の贖罪の道だ、と諭され、カッセルは持ち直した。

「ははっ!必ずや、オッフェンバハを陛下の艦に戻して御覧に入れます!」


 ブリッジ要員に5名、陸戦隊員にも十数名の共産主義者が紛れ込んでいる―――

「これは困った」

 カッセル艦長の管理が行き届いていると思われたオッフェンバハですらそうなのなら、パーレン准将の旗艦「デルヴェ」にも相当数の共産主義者が潜んでいたのだろう。彼らがオッフェンバハと共同して、今度の衝突騒ぎを引き起こしたのだ。

「急いで、クリーンな陸戦隊を1個、作り出せ。早急に履歴を洗い直すのだ。デルヴェを制圧する。パーレン准将の容態は恐らく、共産主義者どもに隠蔽されているものと考えて良いだろう」

「ハッ!急ぎ取り掛かります」

 その時だった。

「参謀長閣下!至急電です!」

「何事だ?」

 それは今一番、恐れていた事態だった。

「アルテミス内で同士討ちが発生しました!接舷していた強襲艦『ボルケン』『ゲッシャー』内で戦闘が発生している模様!」

「なんだと!」

 ライプツィヒは先程の自分の見立てが甘すぎたことを把握した。

「3個だ、3個陸戦隊を新たに洗い出せ!後続はクリーンな部隊で固めろ!」

 先に調査させている陸戦隊も、叛乱の鎮圧に当てなければいけないだろう。パーレン准将の安否が気にかかるが、仕方なかった。

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