タコヤキ・マン
@tonari0407
第1話 未来ある若者へ
僕はタコヤキ・マン。
胸にマヨネーズをつけたたこ焼きヒーロー。本職は食べ物だけど食べられるのが恐いびびりっ子さ。
苦手なものは……まぁわかると思うけど風と寒さ。風で青のりと鰹節ヘアーが飛ばされると恥ずかしいんだよね。ヘアーが乱れるのは苦手さ。
いざというときは爪楊枝で戦うけれど、抜けたところから蒸気が抜けるとやる気もどこかへ飛んでいくんだ。どうしたらいいかな?
それでなくても寒くなるとやる気がなくなるんだ。限定って興味が湧くだろ? そう、僕はかの有名な赤い巨人さんと同じ3ミニッツ活動ヒーローだよ。
やる気は最初はあるんだよ? みんな僕を信じて応援して欲しい。これは僕が毎日正義のために戦う話。
○●○
「おい、君、今スマホを見ながら歩いていただろ? 歩きスマホは危ないんだぞ! 」
僕は熱気に溢れた身体で高校生っぽい学ラン姿の男の子に声をかけた。
「んっ? えっ、はい? 」
男の子は僕を見て明らかにびびっている。
頭部はタコヤキで、その下ににゅるんと胴体がのびていて腕と足は細くて短い。赤いマントがファッションのアクセント。
僕みたいなのはとてもレアキャラだ。おまけに首からはひもをつけたマヨネーズがかけてある。いつでもかけ放題。マヨラーに大人気さ。
「なっ、なに? 」
男の子はスマホを片手に後ずさった。僕の熱気にやられたのだろう。彼は若い。まだ全然公正できる。僕は優しく声をかけた。
「歩きスマホをしてただろ? 前を見ずに歩いたら君自身も周りの人も危ないんだ。気を付けた方がいい」
「は、はぁ。すみません」
男の子は素直に謝った。わかればいい、グチグチと過去の過ちを後悔するよりも前に進むが良い若者よ。
「いや、わかってくれればいいんだ。では!」
僕には時間がない。胸元のマヨネーズもすでに汗をかきはじめている。僕は彼に背を向けてその場を立ち去ろうとした。
カシャ カシャッ
後ろから音が聞こえてふりかえると男の子が僕の写真を撮っていた。彼の罪に肖像権の侵害がプラスされる。
「ちょっと、勝手に困るよ。撮るならもっと熱々で、かつお節フサフサのときにしてくれないと」
手を伸ばして彼を静止しようとしたが、夢中になった彼は聞いていなかった。
「宇宙人見つけた、っと。やべー」
そんなことを言ってスマホをいじっている。SNSに投稿でもしているようだ。そして、そのまま逃げるように歩き出す。
また歩きスマホをしてるなぁ……。
冷めてきた心で僕はそう思った。これはいけない。多少乱暴をしても早く若者を公正させなければ。
「ちょ、ちょっと待って!」
武器の爪楊枝を抜こうとしたが、今回は大分上の方に差してあって、僕の短い手では届かなかった。っというか、ほぼほぼ毎回届かないことが多い。店主の考えなしにも困ったものだ。
「つ、つまようじを抜いてくれないか……?」
弱々しい声で頼む僕に、近くまで来てくれた彼は恐る恐る聞き返す。
「えっ、これ抜くんですか? 」
ビビりながらもやってくれそうな彼は根は優しい少年なんだろう。剣を交えればもっとわかり合えるかもしれない。
「おねがい~。あっ、折らないように気をつけてぇ」
僕は更に弱々しく頼んだ。冷めてきてやる気が尽きかけている。
「は、はい。えいっ!」
ズボッ!
「うわぁ!! 」
爪楊枝は勢いよく抜けた。彼の姿はさながら、伝説の剣を抜く勇者のようだった。
「ああ、なんてことだ……」
僕は店主を恨んだ。彼の抜いてくれた爪楊枝の先には大きなタコが刺さっていたのだ。熱気の中心を抜かれた僕の身体は、無惨な傷口でどんどん冷たくなっていく。
「あの……、何かすみません」
爪楊枝を持った彼は、力なく倒れた僕を抱き抱えて謝る。
彼は悪くない。悪いのは店主と、まだ若い彼にこんな残酷な事をさせてしまった僕だ。
「気にしないで~。どうか気にせず~。でも写真を撮るときはちゃんと言ってね」
伝えたい事は伝えることができた。彼と出会って2分半くらいか。少し短かったが僕の命はもう終わりのようだ。
「ほんとすみません。あと、これどうしたらいいですか?」
彼は僕の目を見て謝ってくれる。それで十分だった。若者よ強く生きてくれ。
「できれば食べて欲しい……」
そういって僕の意識は途切れた。
「これ、食うの?」
彼の困惑した声が最後に聞こえた。
僕はタコヤキ・マン。命をかけて正義のために戦うヒーロー。今日は未来ある若者に大事なことを伝えた。
みんな歩きスマホや無断の写真撮影はやめようね。
そして、食べ物は大切に。
この世に過ちがあるかぎり、伝えたいことがあるかぎり、タコヤキ・マンの戦いは続いていく。
【おまけ】
タコヤキ・マンのビジュアルは近況ノートに載せてます。興味のある方でがっかりしても良い方は見にきていただけたら嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/users/tonari0407/news/16817139554555118210
ここまで、読んでいただいてありがとうございます!
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