機動防御とかできます

……………………


 ──機動防御とかできます



 全軍に無線機が行き渡った。


 通信兵はソーコルイ・タクティカルの指導を受けて要請され、地図も無人偵察機が撮影した映像に従って更新され、スターライン王国抵抗運動は確かな指揮通信能力と地形把握を行えるようになった。


『こちら第12監視哨、こちら第12監視哨。敵竜騎兵1個中隊が南東に向けて移動中』


「了解。全員、仕事の時間だ! 第12監視哨ということは第6塹壕だな。急ぐぞ!」


 ティノが通信兵から無線機を受け取り、指示を出す。


 塹壕は塹壕に沿って僅かながら整備された道がハーサンたち土魔術の使い手たちによって作られ、そこをピックアップトラックと新たに歩兵の足として購入されたウラル-4320トラックが走り回る。


 本当ならば鮫浦が在庫として抱えているBTR-70装甲兵員輸送車を購入してほしかったのだが、まだ本格的な装甲車を受け入れる体制が整っていないとして本車両の採用となった。だが、ゆくゆくはソーコルイ・タクティカルの支援を受けてBTR-70も購入してもらうつもりである。


 トラックは余計なオプションは全て外し、兵員の輸送にのみ特化している。各大隊に10両ずつ購入され、自動車化歩兵として兵員の一部を運用できるようになっている。普段は敵の飛竜騎兵による発見を避けるためカモフラージュネットの下に隠してあるものが、エンジン音を響かせて歩兵約1個中隊を乗せて、陣地を移動する。


 すぐさま陣地に付いた歩兵たちは機関銃を据え付け、85式対空砲の水平射撃準備を整え、戦闘態勢に入る。


「来ました、少佐殿!」


「引き付けろ。十分に引き付けてからだ。どうせサラマンダーのブレスの射程は80メートル程度。こちらの射程圏内だ」


 ワイバーンと違い、サラマンダーはブレスの射程が短い。


 それでもワイバーンと違って火炎放射器のように粘性のある炎で、一度火が付くと、なかなか取れないという強みを持つ。


 だが、今回はその強みは発揮されそうにない。


「300メートル!」


「射撃開始!」


 フロックが距離を読み、ティノが命じる。


 56式自動小銃と80式汎用機関銃が火を噴き、次いで85式対空砲が火を噴く。


 火力の基本は85式対空砲の水平射撃だ。これがサラマンダーだろうとミンチ肉に変える。それに加えて各小銃から銃弾が叩き込まれ、サラマンダーには効果が及ぼせずともその騎手を射貫くことに成功する。


 打撃を受けた竜騎兵中隊は大急ぎで撤退に入り、ティノたちの視野から消える。


「通信兵。砲兵に火力支援を要請せよ」


「了解」


 撤退していく竜騎兵たちを見ながら、ティノが指示を出す。


「こちら13IJB第13独立猟兵大隊よりムーンベース。火力支援を要請」


『こちらムーンベース。火力支援了解。座標を指示せよ』


「座標──」


 そして、撤退していく中騎兵中隊に向けて砲兵が火を吹いた。122ミり榴弾砲が生き残りの竜騎兵たちを吹き飛ばし、全滅に追い込む。


「おととい来やがれ!」


「ひゃっはー!」


 ティノの指揮下にある第13独立猟兵大隊第13-A中隊が歓声を上げる。


「これが鮫浦殿の言っていた機動防御というものか。我々も進んだな」


「ええ。我々の兵士の質も上がっています。誰もが今では一人前の兵士です。元民間人とは思えません」


 ティノが頷くのに、フロックがそう言う。


「そうだな。王都から脱出し、各地で民間人から兵を募り、ここまで来たんだ。大きな進歩だよ。数ヵ月前の俺たちに『飛竜騎兵はこちらに怯えて飛べなくなるし、敵の大規模魔術攻撃陣地は破壊できるし、敵の竜騎兵も撃破できる』なんて言っても絶対に信じなかっただろう」


 ティノはそう言って笑った。


「我々は今や火力と機動力を有している。敵を上回るか、同程度の。王都奪還も夢ではなくなってきたな」


「そのためには鮫浦殿が言われるには戦車と装甲車という兵器が必要なようですが」


「ああ。聞いている。それからヘリという兵器。これはワイバーンのように空を飛び、ワイバーンとは違って兵士たちを運べるそうだ。これも女王陛下が購入してくださることを祈るしかない。それからの奇襲攻撃ともなれば、敵も度肝を抜くぞ」


 そう言ってフロックとティノが空を見上げるとソーコルイ・タクティカルのMiG-29戦闘機が飛行していくところだった。恐らくは竜騎兵の威力偵察後の確認に来た飛竜騎兵を迎撃に向かったのだろう。


「鮫浦殿たちの世界の兵器は恐ろしく強い。天竜大尉は流した血の量が違うと言っていたが、まさにそうだな。我々の戦争よりも遥かに多くの血が流れる。これらの兵器はなんというか……戦争を効率化してしまう」


「戦争の効率化、ですか。確かにそう感じます。ドラゴニア帝国の戦争に関する英知も恐ろしいものでしたが、この戦争はさらに効率化されています。より効率よく敵を倒す、そして殺す方法へと」


「いずれにせよ、東方の民とは争いたくないな」


「全くです」


 ティノとフロックはお互いに肩をすくめる。


「それから、おおよその敵の威力偵察ルートが分かってきたな」


「ええ。ここは森です。竜騎兵とは言えど、機動力は制限されます。自ずと侵攻ルートは限られるでしょう。しかし、これが分かったとしてもどうなるのでしょうか? 砲兵に五力偵察前に狙ってもらうというのでしょうか?」


「分からん。俺にも全く予想ができない。ある程度ルートは限られるが一定距離進むと散開する。そのため威力偵察はあちこちで行われており、迎撃のための位置を決める、ということではなさそうだ」


 ティノは首を傾げてそう言った。


 鮫浦が提供する武器とは──。


「はい。こちらが新しくご提供させていただく兵器となります。FFV013指向性散弾です。これは一定の方向に無数の鉄球を浴びせるという兵器となっており、爆弾の起爆は手動で行われます」


 これも中東某国の将軍からの要請されたリストにあったもの。


 対人地雷の世界的な禁止運動と自国領土内での地雷の使用に対する戦後のリスクから、中東某国の将軍は対人地雷とならないこのスウェーデン製の武器を求めた。


 鮫浦としてもこれは好機だった。


 対人地雷を下手に提供して、友軍に犠牲が出ればせっかくの取引がパーになりかねない。その点、起爆が手動であるこの指向性散弾は安全だ。設置位置を記録し、敵が来るまで待ち構え、有線で起爆するのだから事故は滅多なことでは起きない。


 対人地雷に敵味方識別装置IFFはついてないのだ。友軍が足を失った悲痛な光景をシャリアーデが目にしたら、鮫浦の商品全体の価値が下がってしまう。


「では、パフォーマンスをご覧いただきましょう」


 そう言って鮫浦は抵抗運動の兵士たちが鹵獲したサラマンダーを鎖で繋いだ場所に指向性散弾を設置させた。


「貴重なサラマンダーを的にするなど! 我が軍で活用すればどれほどの役に立つのか分かっていないのですよ」


「サラマンダー1体程度で戦局は変わりません、メテオール候」


 イーデンが文句を言うのにシャリアーデがそう返す。


「点火」


「点火!」


 そして、新しい殺戮の道具がその威力を見せつけた。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る