報連相は大事です
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──報連相は大事です
上空をトリャスィーロたちの戦闘機部隊が飛び回るようになってから目に見えて敵の攻撃が軽減した。大規模魔術攻撃陣地はかなり後方に下がり、前線に届くか届かないかという微妙な位置を攻撃するたけになり、その大規模魔術攻撃陣地も無人偵察機によって捕捉されて、130ミリ榴弾砲の砲撃で吹き飛ばされる始末だった。
だが、敵が攻撃を諦めたわけではないというのはすぐに示された。
防衛線の穴を探るように騎兵や歩兵が威力偵察を仕掛けてくる。
スターライン王国抵抗運動の動員できる戦力は、正直かなり限定的だ。
既に対空火器に2個大隊取られており、砲弾や銃弾の管理に1個中隊、純粋な歩兵戦力は4個大隊程度しか存在しないのである。
それも戦線を押し上げたことで防衛線に隙間ができており、後方までのルートを探るドラゴニア帝国の動きはあまりいい兆候とは言えなかった。
さらに敵は新兵科を投入してきた。竜騎兵だ。飛竜騎兵とは違い、サラマンダーという地上を走る騎兵で、その鱗は7.62x39ミリでも貫通できなかった。
そこで役目を終えつつあるテクニカル搭載の85式対空砲の水平射撃が実施された。流石にこれを食らえばミンチである。
だが、ここで問題が生じる。
スターライン王国抵抗運動の情報のやり取りだ。
これまでスターライン王国抵抗運動はドラゴニア帝国と同様に発煙矢を使うか、あるいはのろしを上げる、または伝令を走らせるなどして連絡を取っていた。だが、それでは即応力に欠ける。
敵が竜騎兵を繰り出し、85式対空砲の水平射撃が必要となり、さらには敵に防衛線の穴を知られてはならない──つまりは即座に防衛線を機動する必要がある状況では、即応性に欠けるのは命取りですらある。
機動力は既に供給したピックアップトラックなどを使うとして、問題は通信だ。
発煙矢は敵に見つかるし、のろしなど上げていては時間的に問題がある。伝令も同じく速度が遅いという問題がある。
今は前線から数キロ前進した地点に監視哨を置き、そこに潜む味方からの連絡によって動いている。だが、発煙矢を上げたり、のろしを上げている現状では、敵に発見されて潰されてしまうことも多い。
僅かな兵員がさらに減るのは不味い兆候だ。
そこで次に供給する装備は決まった。
「現状ではスターライン王国抵抗運動の即応力が欠如しています」
女王シャリアーデたちが陣を構えるバンカーにて鮫浦がそう説明する。
「後方が危険にさらされるのは時間の問題でしょう。こちらの無人偵察機も6機をローテーションさせているため、敵の大規模魔術攻撃陣地を叩くのに精一杯です。そして、敵の竜騎兵を叩くためには対空火器が必要」
「ふん。所詮平民に扱える武器などその程度の性能だ。魔術には及ばない。女王陛下、方針を転換したしましょう。これより魔術による反撃を加速させるのです。平民たちに任せていてもいいことなど全くありませんぞ」
鮫浦が説明するのに、ほら見たことかと言わんばかりにイーデンが述べる。
「鮫浦殿がそう言われるということは対抗手段があるわけですね?」
「もちろんです。こちらをお持ちしました」
そう言って鮫浦の合図で天竜が持ち込んだのはロシア製の無線機だった。皆が軍用無線機と言われて想像する背中に背負って移動させる大型の無線機だ。
「こ、これは! 魔道具だ! 知っているぞ! 遠隔地と通信を行う魔道具がこのようなものだった! 我が国でも開発中だったのだ! ようやく魔術師である貴族の価値を理解したようだな、鮫浦殿!」
「いえ。これは全く魔力や魔術を必要としません。強いて言うならば、電力を消費します。試してみましょう。そこの君!」
鮫浦が56式自動小銃で武装した衛兵に声をかける。
「彼は全く魔術が使えない。間違いありませんね?」
「ええ。そのものは警護のために付いてくれる兵士のひとりです」
「では、彼に遠隔地とのやり取りをして貰いましょう」
「試してみてください」
シャリアーデがそう言い、平民の兵士が恐る恐る無線機を手に取る。
「そこのプレスボタンを押して、ここの位置を知らせてください」
「りょ、了解。こちら第1バンカーより通話している」
そして、兵士がプレスボタンから指を話す。
『こちら第4塹壕。フロック曹長です』
無線機から微かな雑音とともに声が帰ってきた。
「彼に何色かの発煙矢を上げるように指示してください」
「えー。第1バンカーより第4塹壕へ。青の発煙矢を上げられたし」
そして、返事が返ってくるのを待つ。
『了解した。青の発煙矢を上げる』
そして、外を見ると青色の発煙矢が上空に打ち上げられていた。
「おおっ! なんと!」
「魔力なしで遠隔地を通話できるのか!」
古参貴族も若手貴族も驚くべき事実に目を丸くする。
「こちらは無線機と言いまして、魔力なしで遠隔地と通話することが可能です。これを監視哨に設置し、後方とスムーズに連絡が取れれば、砲撃による敵の進軍阻止も、対空火器による火力支援も、塹壕から塹壕への機動もスムーズに行えます」
「素晴らしい。これは訓練を受ければ平民でも貴族でも誰でも扱えるのですね?」
「はい。もちろん、訓練は必要ですが、お任せあれ。ソーコルイ・タクティカルからも人員を派遣してもらい、通信兵を育成して見せましょう。私は常々この問題を考えていたのです。それから敵の動きがある程度予想できるようになりましたら、さらに提供したい武器がございます」
「まずは通信兵の育成をお願いします。今の状況には私も危機感を覚えていました。我々が開発中だった魔道具も王都テルスの研究所に放棄されてしまい、研究資料も焼却処分されたと聞いています。それが埋め合わされるならば、いくらでも支払いましょう」
「ご英断です」
シャリアーデがことを決定した横ではイーデンが悔しそうな顔をしていた。
シャリアーデは迷彩服とヘルメット姿だが、イーデンは未だに宮廷にいるような格好をしている。その格好も塹壕に飛び込んだり、バンカーに飛び込んだりして、泥汚れが目立ち、みっともないものとなっていた。
「それではソーコルイ・タクティカルに通信兵の育成を頼みましょう。無線機は1個小隊につき1台は必要かと思います。1個小隊のうち、無線機を扱える人間を1、2名確保しておけば問題ないかと」
「そのように」
「畏まりました」
スターライン王国抵抗運動の1個大隊は3個中隊からなり、1個中隊は3個小隊からなる。つまり、4個大隊の歩兵大隊に無線機は36台売れるということだ。さらに各監視哨の歩兵にも配れば、50台程度売れる。もちろん、対空火器を運用している部隊にも必要だから、もっと売れる。
一昔前のロシア製の軍用無線機にアメリカの小難しくも便利な機能などない。だが、それで十分。彼らは遠距離の通信が確保できるだけでいいのだ。そして、その価値をあまりにも評価しているが故に高く売りつけられる。
「天竜ちゃんよー。俺たち大金持ち路線一直線だぜー?」
「ふへへー。私にも是非ご利益のご配分をー」
「うむ。ボーナスはびっくりするような桁の額を振り込んでやろう」
「ははー!」
そこで調子に乗っていた鮫浦と天竜がサイードを見る。
「サイードは嬉しくないの?」
「俺は彼らが本当に国を取り戻せるのかと思っている」
「それは向こうの問題でしょ。私たちは武器を売るだけ」
「そうだな」
サイードはそう言って戦闘哨戒飛行を行うソーコルイ・タクティカルのMiG-29戦闘機を見上げた。
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