優しい銃火器運用育成講座

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 ──優しい銃火器運用育成講座



「はいはーい。皆さん、ご注目ー」


 スターライン王国抵抗運動勢力の立て籠もるスターライン王国南西部の森林地帯で、天竜が56式自動小銃を手に、抵抗運動の兵士たちを見渡していた。


 ほとんどが鎧も持たない平民の兵卒だが、それに混じって簡易な鎧姿の下士官──元衛兵の平民たちが混じり、2名の貴族の軍服を纏った男性がいる。


 一方はティノ、そしてもう一方は彼の戦友である同じ子爵のハーサン・デア・マースだ。彼らは王都からの撤退戦でフロックとともに殿を務め、無事に部隊と避難民をこの南西の森に送り届けた実績がある。


 ハーサンもティノと同じくらいの若い貴族だ。ティノより丸顔でハンサムとは言えないが、人好きのする笑みを浮かべている。


「ティノ。時代が変わるかもしれないって言っていたけど本当かい? いきなりあの女性に訳の分からないものを作らされて困惑してるんだけど」


「ああ。時代は確実に変わる。これまでのように魔術師たる貴族が戦争を左右するのではなく、平民たちが勝敗を決するものへと変わる。お前も聞いているだろうが、あの女性と見慣れない褐色の肌の男がふたりだけで60体の重装騎兵を屠ったんだ」


「聞いてる。夢物語のような話だとも思ったけどね。彼らからは本当に魔力を感じない。本当に彼らが?」


「そうだ。見ていろ。すぐに分かる」


 天竜が56式自動小銃の説明をしている。


「と、以上が具体的なパーツの名称です。仕組みは簡単。この銃弾と呼ばれるものの先端が発射され、敵を貫くのです。では、パフォーマンスの前に注意することについて説明しまーす。よく聞いてください。自分と戦友の命がかかっていますからね?」


 天竜がよく響く声でそう言う。


「まずはこの銃口を決して、決して、絶対に、味方と自分に向けないこと。ジャムと言って弾がでなくなることがあったりしますが、その時も銃口から中を覗こうとするのは厳禁です。故障を起こした銃では弾はいつ発射されるか分かりません。銃口を除いた瞬間銃弾が発射され、頭を吹き飛ばされる、なんてこともあります」


 天竜は念を押してそういう。


「そういうことがあるので絶対に味方と自分に銃口を向けてはいけません。絶対に、ですよ。分かった人は手を上げてくださーい」


 ティノたちを含めて全員が手を上げる。


「よろしい。では、パフォーマンスを始めます。この銃は300メートル先の目標であれば訓練次第ですが、ほぼ確実に弾を命中させられます。それを示して見せましょう」


 天竜は銃を構え、ハーサンが何の用途で作らされたのか分からないと言っていた射撃レーンに入る。300メートル先に藁人形が置かれている。見事に人の形をした藁人形で不要になった革の鎧が着せてある。


 既にこの時点でスターライン王国抵抗運動への訓練は始まっている。


「射撃開始」


 天竜はそう宣言して引き金を絞る。


 単射で天竜が引き金を絞る。56式自動小銃から銃弾が発射され、目標を射貫く。


 革の鎧を着せられているためよく分かるが、藁人形が弾け飛び、銃弾が命中したのが分かる。そのまま天竜は射撃を続ける。


「さ、300メートルで当てた……? ティノ、君の魔術でも……」


「ああ。100メートルで当たるか当たらないかだ。射程が全然違う。威力もだ。あの銃は防護のエンチャントが掛けられていた王宮の天井を容易に破壊した」


「確かに……これは戦争が変わる……」


 ハーサンはこの武器が今いる抵抗運動の兵士全員、平民を含めた兵士全員に配布される様子を想像した。それは今も祖国に我が物顔で居座るドラゴニア帝国軍を撃破し、進軍していく様子を連想させるに十分な光景だった。


「続いては機関銃のパフォーマンスとなります。こちらの機関銃は80式汎用機関銃と言って、この56式自動小銃よりも大量の弾が撃ち込めます。ご覧くださーい」


 この80式自動小銃は56式自動小銃をAK-47からコピーした中国兵器工業集団有限公司が同じようにPKMをコピーして作った武器である。概ねスペックはPKMと同様。だが、中国人民解放軍ではほとんど見られない。


 これはアフリカ某国が中国から輸入したものの、政府の外交方針の転換により、西側の武器を、7.62x51ミリNATO弾を採用することに決めたため倉庫に死蔵されていたものを鮫浦が安く買い叩いた経緯がある。


 サイードがその80式汎用機関銃を手にし、匍匐した状態で射撃する。


 けたたましい銃声が響き、スターライン王国抵抗運動の兵士たちが思わず飛び上がる。銃撃は10連発ごとに区切られ、目標の藁人形がズタボロになる。


「こちらの機関銃はより遠距離の目標に銃弾を浴びせかけることに適しております。制圧、というべきでしょうか。相手が大軍を率いて攻め込んできても、これがあれば蹴散らすことができます。ただし、です」


 天竜が呆気に取られている抵抗運動の兵士たちを見渡す。


「この銃は鋼鉄で出来ていて、ご存じの通り鋼鉄は熱で歪みます。そして、この銃という武器は弾を放つたびに熱が生じます。たくさん撃てば撃つほど熱を帯びます。するとどうなるか。銃身が歪み、弾がでなくなります。その時はどうするか?」


 サイードが予備の銃身を取り出して見せ、それを元のものと交換する。


「このように銃身を交換するのです。予備の銃身もセットで販売するので、機関銃を担当される方は銃身の交換方法も覚えましょうねー?」


 もはやこれ以上驚くことはないだろうなというような視線で抵抗運動の兵士たちは天竜の方を見ている。


「あのー。本当にそれは魔道具などではないのですか? 魔道具では平民は扱えないのですが……」


「正真正銘、魔術は一切使われておりません。そうですね。フロック曹長!」


 天竜がフロックを呼ぶ。


 フロックが恐る恐る天竜に近づく。


「これであの的を狙って撃ってみてください。何発でも結構です」


「あ、ああ」


「反動がきついので、しっかりと保持して撃ってください。こうです、こうです」


 天竜が56式自動小銃の握り方を指導する。


「それでは、射撃開始」


 フロックが引き金を引く。確かに反動がきつい。体に衝撃が来る。


 だが、それも2発、3発、4発と撃つうちに慣れていく。


 30発の銃弾を全て撃ち終え、フロックはほっと息を吐く。これが本当は魔道具だったら、魔力のないフロックは死んでいただろう。魔道具は平民には危険なものなのだ。


「どうです? 平民のフロック曹長でも扱えます! そして、皆さんも!」


 フロックが56式自動小銃を掲げる中、抵抗運動の兵士たちは歓声を響かせた。


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