断章 ── 魔神
第1話 全ての始まり
満天の星空を、大人も皆んな寝ているそんな時、3人で見上げていた。
そこは、家のすぐ近く。普段から遊んでいる少し開けた場所で、すぐ近くでは日中はよく母たちが集まって話し込んでる。午前中は日の光を遮って影を作るので、涼しいからだろう。
だけど、今は少し寒い。砂漠の夜は寒いっていうのは冬だけなんて言う人もいるらしいけど、日中がとっても暑いから夏の夜だって寒く感じる。
ぶるりと、体を震わす。すると、体温で温めた砂地からずれて、寒い地肌に触れてしまう。そうなると、目の前の星空じゃなくて、急に周りの気温だとか、そういうのに気がいってしまう。
だからかは分からないけど、右隣のワラオヌスがゴソッと身体を動かしたのに気付いた。そちらに顔を向けると、ばっちり目が合う。
「ねぇ、ミラ」
ニコリと笑みを浮かべて、彼は私に声をかけてきた。
「なに?」
どうせ、いつもの謎かけみたいなものかと思いながらも答える。
「星空を見ると、思うんだよ。あの光一つ一つにはどんな意味があって、どうしてそこにあるのかって」
案の定だった。
「馬鹿だろ。そこにあるからあるだけだろ」
と、一刀両断に切り捨てたのは左隣にいるマーヴァミネ。
「えぇ、全てのことには意味があるでしょ? 父さんも母さんも、爺も言ってたじゃん」
「ケッ、ならお前が野糞するのも意味があって、地面にくだらない絵をかくのも意味がって、今みたいな変てこりんでジジババみたいな考えを言うのにも意味があるってのか?」
「うん」
「あほらし」
二人は相も変わらず言い争っている。前までは私が止めなければ殴り合いになっていた(大抵いつもはマーヴァミネが殴りかかっていた)けど、最近は言い争いで収まってる。すっかり丸くなって、とは母の談だ。
私も、母の言いたいことはなんとなくわかる。二人は争っているようで楽しんでる。言ってはいけないこと、やってはいけないことを知り尽くしてるから、こんなどこか気持ちいい雰囲気になるんだと思う。
いつまでも、こうだったらいいのに、私はそう思う。
空に輝く星々も、私たちを祝福しているみたいだった。
怖いものなんてない。本気でそう思っていた。
✴︎ ✴︎ ✴︎
「あの星には、夢を見させるって意味があるんだよ」
そう、呑気にワラオヌスが一人で喋って、マーヴァミネはそれをあきれた様子で聞いていた時だ。
空から、一つの流れ星が降ってきた。
「あ、流れ星……綺麗だね」
私は思わず、そう口にしていた。
赤い流れ星は凶兆の印と言うけど、私が最初に見つけたその流れ星は真っ白だった。けれどそれは、次第に真っ直ぐこちらへ飛んできているようにみえた。
「あんな流れ星、見たことない」
隣で、ワラオヌスがそう呟いた。彼は、その流れ星を食い入るように見つめている。
そう言われて、確かに、と思った。その流れ星は、これまで見たどんなものよりも、大きくて、そして、初めてこちらの方へと向かってくるものだった。
理屈じゃなかった。初めて、星を見て怖いと思った。もしかたら、世界が滅びちゃうんじゃないか、とそんなことを思った。
「あの流れ星、こっちにきてるよ」
「そう、だね」
その、流れ星は、もう明らかに私たちの近くに来ていることがわかった。けれど、私は動くことができなかった。恐怖か、それとも見蕩れてしまったのか。その時の自分の気持ちを表現する言葉を私は知らなかった。けれど、私はその超然とした光景に圧倒されてしまったという事実だけはわかっていた。
「おい、逃げるぞ」
マーヴァミネのその言葉に引き戻されたときには、もう遅すぎたのだろう。マーヴァミネの焦った顔なんて、初めて見た。私たちは悲鳴も上げる暇もなく、その流れ星のような何かが降ってきた。
とても巨大な光が、それも村をまるまる覆ってしまうのではないかと思うほど大きな光が、音もなく、こちらに降ってくる。それは一瞬の時であったはずなのに、私にはとても長い間に感じた。
マーヴァミネがワラオヌスと私の前に立った。けれども、もちろん彼自身それが意味のないことだとわかっていたはずだ。
圧倒的で、あまりひ超然としたをの光が、ついに私たちに降り注ぐ。そして、これまで以上の光となった。思わず、目をつぶった。
私はもう死ぬのだと、そう思った。
けれど、一向にその気配はやってこない。
ちらりと、目を開けば、いつもと同じ星空に、周りの家々が立っている。
思わず、マーヴァミネとワラオヌスの方を見つめる。けれど、彼らも同じように私の方を見たり、お互いに見合ったりしていた。何が起こったのか、何もわからなかった。
「流れ星が落ちてきたんだよね?」
「……この場合は隕石じゃないかな?」
「どっちだっていいだろ」
私、ワラオヌス、マーヴァミネの順に口を開いた。ただ、あの流れ星だか隕石だかが、幻ではなかったという、ことはわかった。
「夢、じゃないんだよね?」
それでも一応、念押して聞いて見る。
「全員が同じ夢を見てなかったら」
「それじゃあ、今のはなんだったの?」
それに答える人はいなかった。
お互いに、今日のことは秘密だと誓い合って、私たちは急いで自分達の家に戻っていった。
もう一度、あの光が降ってくるのが怖かったのだ。そんなことはもう起きないだなんて頭の中でそう思っても、それを保証してくれる人はどこにもいなかったから。
──そして、翌日。 信じられないようなことが起こった。
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