第4話 剣の勇者 吊欺



 吊欺ツルギの痕跡はすぐに見つける事ができた。

 この光景は聖さんの精神強化の魔法が無ければ直視できなかったかもしれない。


 豚のような頭が一面に散らばり、頭の無い緑や青色の胴体が幾つも転がっている。中には膝立ちで残っている死体もあり、一目で分かるほど虐殺の限りが尽くされていた。


 死臭に吐き気を催すが、なんとか耐える。


「これはオーク、豚、豚なんだ」


 ゴブリンじゃなくて良かった、ゴブリンだったら耐えられなかったかもしれない。


 オークの死体から武器を探す。斧、鉈、槍、どれも隠れる時に邪魔になりそうだ。


「ウォォォォォ!!!」


 道の先から地を揺らすような咆哮が聞こえる、これは吊戯の声ではないだろう。

 ひとまず無いよりはマシなので、足元にあった拳大の石を拾って奥に進む。


 奥に行くと返り血にまみれた吊欺ツルギと傷跡が再生していく巨大なモンスターか対峙していた。


「オマエ、ナニモノダ」

「俺は剣の勇者、ツルギ!お前はなんだ!?」

「トロール、ココノヌシ」

「今日から俺が主だ!行くぞ!音速剣!」

「グゥゥウウ!?」


 紫色の血飛沫があがる。吊戯の位置はそのままで剣を振った動きも視認できなかったがトロールに斬撃が入ったらしい。

 

「雑魚の癖にしぶといな!そら!音速剣!」


 新たに血飛沫があがるがやはり見えない。


『あれをやられたら防げないな、対策しないと…。 

 集中力大向上、反射神経大向上、知覚大向上!』

「もう一度!音速剣!」

『見えた!けど、これを避けるのは…』

「グゥゥウウ…オマエ、ユルサナイ」

「遠距離攻撃じゃ攻撃力が足りないか、それなら」


 吊欺ツルギはトロールとの距離を詰める。

 音速剣を使用した時の動きは達人の動きだったが、距離を詰める姿がひどく素人っぽく感じる。

 剣の達人でも通常移動は一般人なのか?

 

 トロールは近寄ってくる吊欺ツルギに向けて巨大な棍棒をすかさず振り下ろした。


「バカめ!これで終わりだ!…次元断!」


 吊欺ツルギの剣閃は縦にきらめき空間が歪んだ。

 棍棒もろともトロールは真っ二つになり、辺りはより強い異臭に包まれる。あまりの凄惨せいさんさに頭がおかしくなりそうだ。


「討伐完了!魔石とかレアドロップはないか?」


 吊欺ツルギは真っ二つになったトロールの中を覗いている。


 やっぱりこれはマズイ強さだ、異形のモンスターを怖がらない事や言葉を交わせる知的生命体を躊躇ちゅうちょなく殺せる事、吊欺ツルギはこの世界に向いている。


 能力の使いすぎか、どっと疲労が押し寄せてきた、ひとまず音速剣を見るために追加していた能力を解除して聖さんの所へ戻ろう。


『向上全解除、脚力向上、体力向上』


 身体が仕事を覚えているように意識せずに自然と能力を使えている。この感覚が共通のものならゲームの知識がない聖さんでも問題ないかもしれない。


『早く二人の顔がみたい』


 異世界についての知識はあっても、私は殺しを楽しみたい訳では無いんだ。


―――

――


「あれ、ここはどこ」

「気がついたんだね、良かった!

 気絶してたんだよ、覚えてる?」

「うん、魔法少女になれたって覚えてる」

「そっか…自己紹介がまだだったね、私は聖望ヒジリノゾミ。 

 あなたのお名前、教えてくれるかな?」

「私の名前は真央、大渦真央オオウズマオだよ」

「良い名前だね、どんな漢字なのかな?」

「えーとね、あれ…あれ何かな、歩くきのこ?」

「え!?」

―――

――

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