第2話 転移完了



「うわまじパネェ!なにこれなにこれ!

 異世界すげぇ!!うは、てか神様裸じゃん!」


 意識が戻る。青草が一面に広がる世界、裸で祈る姿の女神像、周囲は巨石に囲われている場所に転移された。


「ゴブリン?あれ、ゴブリンじゃね?

 剣の勇者、吊欺ツルギ!行きまーす!!」


 私に気付かずに長剣を片手に突然駆け出す吊欺ツルギ

 

 こんな短時間で本当に転移されてしまったのか?

 私もゲームや漫画で異世界の知識は少しあるけど、この展開は考えられる中で最低最悪だと思う。

 

 特に吊欺ツルギの暴走加減がヤバイ。

 あれは初めて買った玩具を試したくて仕方がない制御がきかない子供だ。


⁺光学迷彩 会得

⁺身体強化 達人級会得

⁺高速移動 会得

⁺三段跳び 会得

⁺――

⁺―


 うわ、なんだこれ、脳内に知らないはずの情報が一気にドンドン流れ込んでくる。吊欺ツルギが叫んでたのはこれか。やり方がわからないはずのスキルの使い方と能力の内容が呼吸をするように自然と理解できている。これが神様から授けられたチート能力?


 私は吊欺ツルギから弓能力と矢が不要な弓を願う様に言われていたが、それを無視して自分で取りたい能力を願った。吊欺ツルギと同じ世界で生き残るのに必要だと思ったからだ。


「身体強化スタミナ向上、光学迷彩発動」


 吊欺ツルギが何か向けて走った事を良いことに私はこの場を離れる事にした。

 スキル効果で全身が熱くなる、腕を確認しようとすると周囲に溶け込み自分の腕が見えなくなっていたが、服は消えていない。白シャツを脱ぎ青草の上に落としシャツを踏みつけた。

 泥と草の汁がついて不快な感触になったシャツを着直す。裸になれば完全に見えないだろうが、裸になるのは抵抗があったのでこれで妥協する。

 

「ここどこ…きゃぁぁ!」


 私が転移場所から離れるより先に、少女の転移が完了した。中途半端に見えなくなった私の身体を見てしまい少女はその場に倒れ込み気絶する。


「可哀想に、子供には過酷すぎるよ…それに魔法少女とか危なすぎる」


 子供が鉄砲を持っているような物だ。吊欺ツルギは何を考えているんだ、キュアキュア流行りの魔法少女アニメじゃないんだぞ。


「あ…やっぱり夢じゃないんだ…」


 巨乳さんが転移完了した。

 わかる、わかるよその気持ち。


「あ!」


 少女が倒れているのを確認した巨乳さんは介抱するように少女を膝枕する。

 

「あれ…ひょっとして、これが光学迷彩?そこに居るのは第2勇者さんですか?」

「そうです、驚かせてすみません」

「いえ、それより。何で吊欺ツルギ君の言ってた弓の力を選ばなかったんですか?」

「アイツのテンションがヤバくて嫌だったので」

「あー、確かに凄かったですね。でも異世界転移と言うんですか?それを強く願ってて突然願いが叶ったなら、ああなるものかも知れませんよ。子供なんですから」

「それはあるかも知れませんけど…生理的に受け付けないっていうか、それに異世界転移したなら私も好きな能力で好きに生きてみたかったので」

「もしかしてアナタも異世界の知識があるんですか?あ、すみません。私は聖望ヒジリノゾミといいます。聖域の聖でヒジリといいます」

「あ、私は四天王寺冥シテンノウジメイです。お寺とは関係ないんですけど、親がカッコつけて冥府の冥から名前も取ってきたみたいで。異世界については子供の頃にRPGが好きで良くやってたくらいです。転移の知識については最近流行ってるなって程度ですね」

「私達、転移したんですよね?第5勇者さんは転生とか言ってましたけど」


 あんの令嬢!!

 転生⁉

 吊欺ツルギが言ってた『転生じゃなくて転移です!』ってのは何だったんだ⁉

 吊欺ツルギがわざと嘘を言ったのか、転生が神からもらう能力の一つとして認められたのか。

 真意はともかく、令嬢が吊戯のパーティーを拒否して転生した事は確かだ。私も逃げようとしてるから人のこと言えないけどさ!それに重要なのは彼女が回復役だった事だ、かなりヤバイかもしれない。


 聖さんに伝えておいた方が良いだろう。


「…彼女も異世界の知識があったんだと思います。それで自分の欲望に負けて転生したのかも」

「転生ってなんですか?」

「この世界で赤ちゃんからやり直すってことです」

「あぁ…それじゃメンバーは4人ですか…」

「それについてなんですが、実は私も離脱しようと思ってます。幸い吊欺ツルギはモンスターを見つけて殺しに行ってますから、今のうちに一緒に逃げませんか?」


 聖さんは困ったような笑顔を浮かべる。


「私、この格好から分かるかもしれませんが、キャビンアテンダントをしてたんです。良く分からない危険な世界なのはわかっていますが、子供を置き去りにしていい理由にはならないかなって思うんです」

「そうかもですけど、多分、吊欺ツルギは危険ですよ」

「まだ落ち着いて話してもないですから、ちゃんと一度話してからでも遅くはないかなって」

「…それでは、こういうのはどうでしょう?」


 私は現状で考えられる最善策を聖さんに話した。



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