不可解な二者択一
@patorunmunakata
其の壱
早朝、街を覆い尽くしていた濃い霧も、いつの間にか消え去り、汗ばむほどの陽気となった朝のMunakata Ctiy。
ヤスノリは両手に荷物、背中に通勤リュックを背負い、駅へと歩みを進めていた。
まるで旅行帰りだな。
本日のミッションに必要な書類が詰め込めこまれた水色の紙袋。重さにして大きめのスイカぐらいの重量だ。一歩一歩歩くたびに、その二つの持ち手が、容赦なくヤスノリの両手にくい込んで来る。
すがりつくように辿り着いた2階建て駅のエレベーター、降りてきた籠に乗り込んだヤスノリは、今日のミッションの内容を頭の中で反芻した。
よし、抜かりは無さそうだ、そう確信した時、「イキサキボタンヲオシテクダサイ」と、無機質なアナウンスで我に返った。
あ、すみません、つい考え事してたもので。
まるで出しっぱなしのおもちゃを、「かたずけなさい!」と叱られた子どものような気持ちになったヤスノリは、改札のある2階に向かう②のボタンを押した。
ゆっくりと上がっていく籠、その重力に逆らう揺らぎを感じながら、ヤスノリはふと気がついた。それは間違い探しで、最後のひとつを見つけたような感覚であった。
この行先ボタンいるか?
1階と2階を移動しているだけのこのエレベーターに、はたして行先ボタンが必要だろうか!と。
この無意味な二者択一を怠った事を、日本語を覚えたてのロボットのようなアナウンスに注意されなければならないのか!と。
このボタンやアナウンスのシステムを削ったら、エレベーター設置の費用がかなり削減できるのではないのか!・・・と。
籠を降りて改札に向かうヤスノリの両手には、相変わらず紙袋の持ち手が、指ちぎれんばかりにくい込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます