第40話

☆☆☆


「その場で食べると思った?」



家に戻ってきた彰は含み笑いで蘭に聞いた。



いつものキッチンのテーブルの上には買ってきたハンバーガーの袋が置かれている。



蘭は少し不機嫌そうに頬を膨らませた。



てっきりフードコートで食事をするものだと思って焦っていた蘭だが、彰は元々持ち帰って食べるつもりにしていたみたいだ。



だから選んだのも、持ち帰りやすいハンバーガーだった。



「悪かったって。ほら、俺の分のポテトも食べていいから」



彰は含み笑いをしながら蘭にポテトを手渡す。



蘭はそれを受け取り、三本同時に口に含んだ。



まるでハムスターのようにポテトをほお張る蘭に彰はまた声を上げて笑ったのだった。


☆☆☆


庭に出していたゴミも何度かに別けてすべて捨てて、雑草もキレイになった頃。



彰はまた熱を出して寝込んでいた。



「大丈夫?」



蘭は彰の額に乗せていたタオルを取り替えながら聞く。



彰は荒い呼吸を繰り返すばかりで返事もろくにできない。



顔をしかめ、苦しみに耐えている姿は見ていられなかった。



それでも、以前熱を出したときにはすぐによくなったのだからと、蘭は看病を続けながらきっと大丈夫だと考えていた。



しかし、自体は思ったよりも深刻そうだ。



昼前から発熱し始めた彰は、夜になっても熱が下がることはなかった。



むしろ昼間よりも悪化しているように見える。



苦しげな呼吸を繰り返す彰におかゆを用意して持っていても、ほとんど口をつけることはなかった。



このままだと病院の受診時間も過ぎてしまう。



夜間外来を行っている病院はここから少し離れているから、病院へ行くなら今のうちだ。



「彰さん、一緒に病院に行きましょう」



その言葉に熱で赤らむ顔をした彰は薄目を開けた。



そして左右に首を振る。



声を出すのも苦しいみたいだ。



「どうして!?」



蘭は思わず声が大きくなってしまった。



「病院なんか行ったら……バレる」



彰にそう言われて、蘭は口を結んだ。



確かにその可能性はある。



だから今まで買い物をするときは帽子やマスクを使っていたし、できるだけ外には出ないようにしていた。



でも今は状況が状況だ。



「薬があるから大丈夫だ」



彰はそう言ってサイドテーブルの引き出しの一番上を蘭に開けさせた。



そこには白い袋に入れられた薬が何種類も入っていて、蘭は目を見張った。



わかっていたことだけれど、こうして薬を目の当たりにすると言葉を失ってしまう。



「薬を飲む前に、少し食べてね」



蘭は気を取り直してそう言い、彰の口におかゆを運んだのだった。


☆☆☆


沢山の薬。



苦しんでいる彰。



それらを見ても今の自分にはなにもできない。



その事実が苦しくて、蘭は自分の布団にもぐりこんで身を丸めた。



まるで母親に虐待されていたあの頃のように、体を小さくして自分を守っているようにも見える。



しかしその体は小刻みに震えて、そして嗚咽する声が漏れて聞こえてきている。



彰が買ってくれたパジャマを着て、その端をギュッと抱きしめて、蘭はその夜眠りにつくことができなかったのだった。

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