第85話 レネイド様に会いに行く

 俺達は動きやすい服で出掛けた。出掛けたと言っても3軒離れたご近所だ。ただ、それなりに距離がある。そう、ここは貴族をターゲットとした屋敷があるエリアだ。この辺りは格差社会の頂点に位置する者達が住まう地域になっている。その事について気にしてはいけないが、1軒1軒の敷地が広いのだ。多くの人が住まう所は高い壁に囲まれていて、殆どの人は限られた狭いそのカベで囲まれた土地に住まう。 そうなのだが、この貴族エリアだけは別格だ。勿論屋敷には多くの者が住んでいるので、人口密度は必ずしも低くはない。


 門の所に小さな詰め所のような所があり、戦闘奴隷の者がいて警護をしている。


「いってらっしゃいませ、御主人様、奥様、剣聖様」


「無理をしないで下さいね。では屋敷をお願いします」


「はっ!誠心誠意尽くさせていただきます!」


 警護に見送られ屋敷を後にニーナの師匠の屋敷へ向かう。


「改めて見ると大きいお屋敷が多いんですね!我が家も素敵ですが、凄いですよね!」


 アイリーンは完全にお上りさんだった。


 それはともかく、程なくして目的の屋敷に着いた。周りより1段落ちるが、それでも立派な屋敷で落ち着いた雰囲気がある。


 門を入ると庭で遊んでいた子供がニーナを見て駆け寄る。8歳位の女の子達だ。


「二ーねぇだ!ニーねぇが帰ってきたよ!おかえり~」


 たったったったっ!と小走りに駆け寄ってくるが、何かを呟いたと思うとニーナの少し手前で足元が輝いた。すると女の子達はジャンプし、次々とニーナに襲い掛かった。正確には顔に飛び付いて抱き着いたのだ。ニーナは思わず倒れて子供達に覆われていく。


「こらこら、後で遊んでやっから、覆いかぶさんな!ってこら!胸揉むな!これはレオンのだ!」


「ニーナって子供には懐かれるのな」


「わー!意外です!へー!」


 少しすると開放されたようだ。立ち上がると埃を払い、1人を肩車した。聞き捨てならないワードが聞こえたが、ここは敢えてスルーだ。


「師匠は戻っているかい?」


「あっ!忘れてたわ。ニーナねぇがお客様と一緒に来るから、ネレイド様のお部屋に連れてくるよう言われていたの」


「偉いぞ!ちゃんとお師匠様の言い付けを覚えていたんだな!」


 その子はニコニコしていて、皆金魚のフンのようについてくる。全部で6人いた。


 ただ、俺とアイリーンの事はおっかなびっくりといった感じで、距離を置いている。


 屋敷に入ると、1人の女の子が急いで中に入り、階段を駆けていく。


「私達のところとは随分違うんですね」


「ああ、ここは古いからね。アタイもこいつらの歳の頃からここにいるけど、まあ、くたびれた事以外は変わらないね。さあ行こうか」


 3階の奥にある1つの部屋に来ると、先程の子が扉から出て来た。


「ネレイド様がお待ちですよー」


「ありがとな!」


 ニーナが頭を撫でると、ニッコリしてからまた外に行った。肩からもう1人を降ろすと、まって〜!と叫びながら追い掛けていった。


 ニーナは服を整え、ドアをノックしようとしたがノックできなかった。ドアが開いたのだが、ノックしようと動いているニーナの手が止まる事はなかった。

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