第73話 不動産屋

 ラフトと挨拶を交わしたのは30歳になろうかという青年だった。


 もっと年配の者が店主かと思ったのだが、後から聞いた所、最近代替わりしたのだとか。


「ジャック、紹介するよ。剣聖様がパーティーを組まれ、そのパーティーのリーダーをしているレオン殿と、その奥方のアイリーン殿だ。先程命を救われてね。詳しくは後で話すが、訳あって奴隷を100人程率いている御仁だ。奴隷達と剣聖様もご一緒に住まう屋敷をお探しなんだ。人数も人数だし、剣聖様がいよいよ住居を構えるので、君が扱っている中で最大の屋敷を案内してくれないかい?」


「これは初めまして。ジャックニクス商会のジャックニクスにございます。先日剣聖様が大きなお屋敷をお探しと小耳に挟んでおり、お待ち申し上げていた所でございます。ご予算は如何程に?」


「アタイの事を知っているなら話は早い。勿論現金で払うさ。今から案内出来る物件はあるのかい?」


「はい。先日取り潰しになった、とある辺境伯の嫡男のお屋敷がございます。まだ、荷物もそのままですが、それで宜しければすぐにでもご案内致します」


「レオン、構わないね?」


「こちらこそ初めまして。レオンと言います。急な事で申し訳ないですが、屋敷を是が非にでも欲しています。因みに荷物は出したり何処かに返さないといけないのですか?」


「そのような事ではなくてですな、まあ行けば分かりますが、寝具がそのままなのですよ。せめて上階の元の持ち主の寝室や、主たる家族の個室の寝具位は入れ替えたかったのです。因みにお売りするのは現状渡しで良ければ、屋敷にある荷物は総べて引き渡しとなります。但し、ごみと判断されても、ご購入者様にて処分となります」


「シーツの替えが流石にあるでしょう。宿屋暮らしをしていますから、その程度の話なら問題ないですよ。寧ろ生活に必要な物があるなら有り難いし、かなりの人員を引き連れていますから」


「分かりました。それでは早速ご案内致します。鍵等を準備致します故、少々お待ち下さい」


「ジャックニクスさん、奴隷達も連れて行っても良いですか?」


「勿論構いません」


「でしたら、馬車を店の前に連れてきます」


「畏まりました。それではお互い準備を致しましょう」


 俺は馬車を呼びに行った。フリオールにこれから屋敷を見に行くから一緒に来るよう伝え、俺達が乗る馬車のみ取り敢えず移動する。見える所なので、次に進み出したら後続も来るよう指示を出して店に戻る。


 そうしてジャックニクスさんの案内の元、元々ニーナに売り込もうとしていた屋敷を見に行く事になったが、話しが大きくなったもんだ。


 因みにアイリーンはどんなお屋敷かな?素敵な所かな?とトリップしていると思ったんだけど、さっきから一言も発せずに俺の腕を掴み、真っ赤になって俯いているんだよね。

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