第52話 戦場

 カーブを進んていると、その先の様子が見えてきた。

 そこに見えたのは、先程見た奴隷を乗せていた馬車だった。その馬車より先に横倒しになった馬車も見え、戦闘が繰り広げられていた。


 ニーナは今回2本の剣を携えていて、1本は城で得たミスリルの業物だ。

 しかし、こちらは抜いていない。もう1本は城にあった訓練用と思われる刃を潰した剣だ。


 ニーナは俺達を置いてヒャッハーと唸りながら駆けて行き、取り敢えず歯向かう者を気絶させていく。何人かの奴隷をまず無力化していた。奴隷はニーナを新手の敵と勘違いしたのだろう。


 振られた斧を紙一重で躱すと、通り過ぎる時に剣の柄でみぞおちを打ち付けたり、剣の横で叩いて戦いの中心部に向かう。


 俺達も駆けつけるが、どうやら倒れている馬車は俺達が乗っていた乗り合い馬車で、燃えていた。


 倒れている馬車の周りに生き残った乗客がおり、馬車を背に震えている。

 護衛は見当たらず、代わりに奴隷の首輪を着けた者達がそれらを守り、身なりの悪い如何にも盗賊といった感じの奴等と戦っていた。


 ニーナは敵を見定めたようで、賊を倒していく。

 そして奴隷が俺とアイリーンを見付け、槍を手に取り襲い掛かってきた。


「待て!俺達は賊じゃない!騒ぎを聞きつけて襲われている人達を助けに来ただけだ!話を聞け!」


「商隊主を、仲間を守る!賊は斬る!」


 20代半ばの筋骨隆々な戦士風な奴隷だった。

 しかし、突き出そうとした槍は俺には届かなかった。


 突き出し始めた瞬間に槍を手放して苦しみ出したからだ。


 首を押さえて悶絶している。


「この人レオンの奴隷ですよ!何でですか?」


 俺には思い当たる節があるが、下した命令とは違う。

 よく見ると奴隷47とあった。

 するとこちらに見覚えのある奴が向かってきて、俺の前に来ると片膝を就いた。


「ご主人様。まさかこのような場所でご主人様を発見出来るとは僥倖・・・」


「挨拶は良い。こいつをどうにかしないと死ぬぞ!どうすれば良い?」


「ならば失礼します。この御方が私達が探し求めていたご主人様だ。助かりたければ心の中で構わないから、忠誠を誓え!」


 震えていたが、その1言の後、呼吸が楽になったようなので助かったようだ。


「先ずは今の状況を教えて欲しい。これまでの経緯は後だ」


「は、はい。我々はこの国の王都へ向かっておりましたが、あのカーブを曲がった先で丁度乗り合い馬車の一行と思われる者達が賊に襲われており、それに巻き込まれました。あちらの生き残りを助けつつ、共に賊と戦っておりました」  


「分かった。あの赤毛の女性は味方だ。とはいえ、もう終わりそうだな」


 取り敢えず最後尾の馬車を何人かの奴隷が囲んでいて、守っているようだったので、そちらに自然と足が向いていた。


 奴隷商が俺達を連れてきたので、奴隷達は不思議そうにしていた。


「そのままで聞いてくれ。この御方こそは・・・」


「死ねやー!」


 突如近くにいた奴隷の1人に向かい、丘の上から1騎が駆け下りて来て、剣を振りかぶっていた。背後からなので間に合わない。その奴隷が振り向くが、己の最後を悟り、腕をクロスするのが精一杯だった。


 その奴隷はグシャッ!音と共に血に染まった。そしてゴヒューゴヒューと苦しげに、串刺しにしている剣を必死に抜こうとする姿が目に入り、何が起こったのか分からず啞然としていた。


「死ななかったか。でもこの傷だと時間の問題か」


 俺はそういうと、グランザムを収納にしまった。するとドサッと地面に賊が転がった。そう、咄嗟に1步踏み出し、手をかざして両手に持つようにグランザムを収納から出したのだ。

 そして避ける暇もなく賊の胸の中心を串刺しにし、賊の剣は奴隷に届く事はなかった。

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