第35話 殺した
俺は出来れば殺したくはなかったが、2人を守り切る自信が無かった。アイリーンだけならそのまま飛んで行けば良いが、ニーナを見殺しにする事は出来ない。そうすれば捕まり服を破られ犯されるだろう。かと言ってアイリーンを戦いに参加させて人を傷付けさせたくはなかった。
ニーナの腕前は強いとしか言えないが、賊に絡まれた時点では未知数だった。ニーナの強さを知っていれば、俺は上に逃げてニーナが全て倒すのを待つだけでよく、ニーナの指示もそのつもりだった。
生きているのはレオン、アイリーン、ニーナ、賊の乗っていた馬だけだ。岩が落とされた音と衝撃で馬は興奮していたが、木に繋がれていて逃げられなかった。馬は何とかニーナが鎮めていた。
「アイリーンも馬の方に行って」
アイリーンは震えていた。
頷くとニーナの方に行き、教えられた通りに馬を撫でていた。馬はアイリーンをペロペロと舐めていて、キャハハハと戯れていた。
レオンがするのは気の重くなる作業だ。先ずはニーナが倒した奴の所に行き死体を検分すると、手からカードが出ていて、取り敢えず取り出した時にニーナがやってきた。ちなみにカードが出ていたのは右手の方が多かった。
「大丈夫か?」
「ああ。さっきも言ったろ?人を殺したのはこれが初めてじゃないさ」
「なら良い。アイリーンには心のケアをして優しくするんだぞ」
「当たり前だ。こいつらはどうすれば?」
「1度町に戻り、盗賊討伐の報告をしなければだぞ。死体だが、首を刎ねた3人の方は収納に入れて欲しい。こっちのは潰れていて駄目だろうな。武器とかを回収出来たら御の字だよ」
俺は覚悟を決めて岩を収納に入れた。
やはり見えた地面は血まみれで、血の匂いが強烈にする。ただ、カードだけは直ぐに分かったので、カードを回収し、俺はニーナとアイリーンの所へ行った。
昨夜の事だが、ニーナに昨日俺達のように賊に襲われたら賊を殺すが、人を殺す事が出来るか?と問われ、レオンが殺ると答えたのでアイリーンは驚いていた。
レオンは正当防衛だが日本で人を殺した事がある。妻を亡くした後、暫くしてから仕事に復帰したのだが、その数ヶ月後に勤務していた銀行の支店が強盗に襲われた。
小学校か中学生の女の子が、母親に連れられて何かの手続きに来ていた。そんな中壁際にいたその2人が客を装っていた強盗に包丁を突き付けられた。当時のレオンは死に場所を求めているとしか思えなかった。急に仲間とレースに参加したり、猟友会に再び所属して害獣の駆除に協力したりだ。元々父親がやっていて、一緒にやっていたから経験も資格もあった。
皆が悲鳴を上げる中、強盗が後ろを向いた隙を突き、一気にカウンターを乗り越えて賊と対峙した。無謀にも無手で包丁を持った相手と戦ったのだ。それは犯人がよだれを垂らしており、目も逝っていたから、間違いなくドラッグでハイになっていたり、幻覚症状で危険な状態と判断した。単なる強盗なら金を渡して店の外に出るのを待つのだが、言質があやしく、今にも人質に向けている包丁を刺し兼ねなかった。最終的に腕を10針縫う傷を負ったが、斬られた時にその腕を掴んで投げ飛ばしたのだ。壁に投げた筈だったが、実際は大きなガラスの窓にぶつかるとガラスが割れた。そのガラスが強盗の内蔵を破壊し、救急車が来た時には既に失血死していた。
レオンはそのまま救急車で運ばれ、その後本人の希望もあり、助けた親子とは会っていない。
その時に思ったのは『死に損なったな』だった。当時のネットでは賛否両論となり、ついつい掲示板を見てしまうのでネットを見ないようにガラケーに替えた位だ。そして、その後県外の支店に転勤した。
銀行では無力化する筈が死なせてしまったが、今回は明確に賊を殺すと殺意を持って相手を死に至らしめたのだ。
殺した事に対して項垂れていたが、アイリーンが背中にぴたりと抱きつき、俺の代わりに涙を流していたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます