第26話 刺さるナイフ

 その者達がこちらに来た。20代前半、いや10代半ばから後半か?皆粗暴な感じの冒険者?いやチンピラか?リーダーと思われる奴が一歩前に出てきて、怪我のない2人が後ろで控え、1人は槍を肩に掛け、もう1人はナイフを舐めたり、ヒャッハーと唸って飛び掛かってきても驚かないような粗暴な感じだ。アイリーンは俺の背中に隠れるようにしがみついている。


「おい、お前等魔石を出せよ!ドロップが有ればそれもだ」


「はぁ?何でだ?」


「ひゅー!まぶい女連れてっからって格好つけてんじゃねえぜ!代わりにそのねえちゃんを置いていっても良いぜ!?くくく。おっと、そうそう、俺達の獲物を横取りしやがったんだから、魔石を寄越すのは当たり前だろうが!それに迷惑料も払えや!金貨1枚で許してやるよ!」


「はぁ?あんたらひぃーって唸りながら逃げていて、俺達にミノタウロスを押し付けただろ!?馬鹿じゃないの?謝るのはそっちの方だぞ!それに倒さなかったら、こちらが殺されるところだったんだ!ふざけんなよ小僧!」


「おうおう!いきんじゃって!盗賊行為は犯罪だよおぉぉぉぉ!だから男は処刑決定いぃぃぃ!女は貰ってやるぜ!」


 めんどくさいなあと思う。一瞬殺すか?と思った。するとアイリーンが察したようで、首を横に振った。


「あのなあ!実力を見て喧嘩を売れよ。長生きできないぞ。お前らが泣きながら逃げていた魔物をこっちは一撃を食らう事もなくあっさりと倒したんだ」


「人の獲物を勝手に横取りしやがったんだろうがよおうぅ!」


「あのなぁ、その小さいオツムでよく考えろ。お前らが手も足も出なかったミノタウロスを俺達は1分もせずに、しかも無傷で倒したんだぞ。つまり、お前らよりもこっちの方が強いって事だよ」


 奴等の仲間の1人が止めに掛かった。


「奴のいう通りだ。俺達は歯が立たなかったが、こいつらきっちり倒していやがるぜ。怒らせたらやべーぞ!」


 リーダーと思われる奴が小さなナイフ?のようなのを投げてきた。俺は咄嗟にアイリーンを庇い背中を向けると、肩に刺さった。


「ぐはぁっ!」


 俺は叫ぶとアイリーンを抱きかかえ、町に向かって飛んだ。奴等は口をポカーンと開け、俺達のどちらかが少なくとも上級魔道士だと悟り、顔を青ざめていた。


「あんた達、絶対に許さないわよ!ゼクスト!覚えていなさい!レオン、町に向かって!正門で治療院を聞きましょう!」


 ふと思ったのが、何故アイリーンはあいつの名前を知っているんだ?だったが、何の事はない、ただ単に鑑定で見ただけだった。

今の俺は痛みからそこに思い至らなく、それが分かったのは後日の事だ。


 痛みにクラクラするがなんとか低空で飛び、門の近くで地面に降りたが、アイリーンに肩を貸され町に入る列に並んだ。


 俺は痛みから立てなくなり片膝をついてしまったが、それを見ていた門番の兵士が事情を聞きに来た。


「さっきゼクストという者達5人に襲われて、ナイフで刺されたんです。治療院を教えて下さい!」  


 別の者も来て、ひと騒ぎになった。


「並んでいる方、悪いが怪我人、それも重症者だ。別口で中に入れるからな!」

 

 兵士は並んでいる者達に告げて、アイリーンについて来るように言うと、俺はもうひとり出てきた兵士に肩を貸され、詰め所に入った。


「悪いが規則だからカードと犯罪者チェックを」


 そう言われ、カードを出して言われるがままにオーブに手をかざすと、2人共透明から白に変わった。


「よし。お前らあの国からよく来る事が出来たな。普通国外に出さんのだが。まあ良い。ナース、肩を貸して治療院に連れて行ってやれ。馬車を用意するより歩きの方が早いだろう?」


 ナースと呼ばれる若い兵士が頷くと俺に肩を貸してくれた。


「すぐ近くですから。それにしてもあいつら、いつかは犯罪を犯すと思っていましたが、よく逃げられましたね」


「私がいなかったらこんな怪我をしなかったんです。私を庇って怪我をしたんです」


「奥さん、それは違いますよ。愛する妻を庇うのは男として当たり前だと思いますよ。僕も同じ立場だったら、やはり庇うかな」


 アイリーンは照れていた。そう、夫婦として、妻と夫の名前がカードに記載されているのだ。だからカードを見た門番達はこの2人が夫婦だと分かったのだ。違うのだが・・・


 アイリーンは謝辞を述べひたすら感謝していたが、治療院に着いて別れ際にナースはレオンに告げた。


「こんな素敵な奥さんを泣かせちゃ駄目ですからね。お大事に!」


 レオンはありがとうと1言発するのと、苦笑いをするのが精一杯だった。


 そして治療院にて治療をお願いすると、ベットにうつ伏せにされ、治療師は何も言わずにいきなりナイフを抜き取った。


「グアアウゥゥウゥギィー」


その瞬間俺が叫ぶと、頭を叩かれた。


「男がこれくらいの傷で騒ぐもんじゃないよ!全く情けない。さて行くよ。我が望みはこの者の痛みを取り、傷を治す事。森羅万象の奇蹟をここに求む。ヒール」


 するとその治療師の手が光り、更にうっすらと魔法陣がその腕にまとわりついていた。そしてレオンの背中が光り出すと傷がみるみるうちに塞がっていく。それと共に痛みが段々と和らいで来たが、やがてその痛みも傷口と共になくなったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る