第10話 試し撃ち

 お兄さんは自分の変化に戸惑っていたんだ。日本では自分の事を【私】と言っていたけど、今は無理に【お兄さん】と言っている。でも意識しないと【俺】になる。今はごちゃ混ぜだな。意識しないと【俺】になるから、いっそうの事【お兄さん】っていうのを止めようかな。それとも織り交ぜて瑞希ちゃんの反応を見るべきか?


 若い頃は【俺】だったんだけど、ノリというか考え方が若い頃の、高校を卒業した頃のそれ、つまり肉体年齢相当になっている気がする。


 自分はおっさんだから、年相応の反応をと思う時は一呼吸おけばそうできるけど、それにも違和感があり、無理にしているのは自分でも分かる。瑞希ちゃんは【俺】と言っても違和感が無いようだし。知識と経験はそのまま残っているから、物知りな若者?に見えるのかな。ふう。


 瑞希ちゃんが装着したシルバーのブレスレットは小さな宝石が散りばめられており、純粋な装飾品として見ても一級品に見える。寧ろ装飾品に魔法を付与してあるといった感じだ。左腕に装着するとぶかぶかだったのだが、驚いた事にサイズ調整が勝手にされて、ピッタリになった。


 そして1度外して、また装着していた。


「栃朗さん!流石は異世界ですね!これ、なんか凄いですよ!自動的にサイズが変わったんですよ!ねえねえ、どうですか!?」


 瑞希ちゃんは手を伸ばしてブレスレットを眺め、くるっと回ってみて違和感がない事を確認していた。


 めっさ似合う!


「うん!物凄く似合っているよ!うんうん!」


「マジですか?」


「マジだよ!」


「ありがとうございます!栃朗さんにそう言って貰えると瑞希嬉しいな!」


「ところで、それの使い方分かる?初級の風魔法が使えるんだっけ?」


「えっと、こうかな?」


 瑞希ちゃんは俺の数m前に立っていたんだけど、「エイっ」!と1言発し、その細い腕を振った。


 バリバリバリ


 俺の目の前の地面が少し抉れて土埃が舞った。何も考えずに今立っている位置から前方、つまり俺の方に向かって魔法を放ってしまったのだ。


「おわぁああああ!」


 俺は驚いてその場で尻餅をついた。


 瑞希ちゃんは慌てて駆け寄り、ごめんなさいを連呼し、俺を起こしてくれた。


「瑞希ちゃん、それは人に向けて使うと多分大怪我、下手をすれば死ぬやつだから気を付けてね。でも、これで身を守れると思うよ」


 彼女は泣きながら俺に抱き着き、胸元に顔を埋めた。


「ごめんなさい。軽率でした。栃朗さんに怪我をさせてしまうところでした。怒ったよね?」


「お兄さんの方こそごめん。事前にちゃんと注意するべきだったよ。多分ウインドカッターだよね?こんなのを放つ事が出来るだろうな?と予測していたから気にしないで。それより、他に何か出来ないか確認してみて欲しいな」


 俺はそっと横に立つようにした。

 もう驚かされるのは嫌だ。


「あっ!分かりました!えっと、使えるのはエアーボールと言うのと、さっきのウインドカッターと、ウインドという3つですよ!」


 俺は三脚を立てた。


「よし、先ずはウインド、次がエアーボールを三脚に向かって放ってみようか!」


「はい!」


 うむ。使い方は分かるようだな。で、ウインドは風を送るだけか。

 ふむふむ。


 ガシャーン!


 おっ!三脚が倒れたな。エアーボールはあまり威力はないか。これなら大丈夫そうだな。


「よし、エアーボールを俺の方に向けて放ってみようか。大丈夫。清々前のめりに転倒する位だから」


「本当に怪我をしないんですか?」


「大丈夫だって!」


 瑞希ちゃんは恐る恐るエアーボールを放った。ボヨーンといった感じでお尻に何かが当たった。


「小さな子供がスーパーの中を走っていて、お尻にぶつかってきた位の衝撃かな。うーん?使い道は上から落ちてくる人のクッションとかかな?後は頭とかにぶつけてバランスを崩したり、驚かす事によって隙を作る?位の使い方が有るかなー?」


「凄いですよ!今のでそこまで考えたんですか?」


「うん。生き延びる為に足掻かないとね。お兄さん瑞希ちゃんに嫌な事をさせるかもだよ?」


 瑞希ちゃんは身を守るように身構えた。


「ま、まさか、エ、エッチな事ですか?」


「へっ?違うよ!ほら、魔物とか、野生の動物に襲われた時とかに、さっきのウインドカッターで攻撃とかだよ」


「なんだ。驚かさないでくださいよ!ってごめんなさい。栃朗さんは私の事をちゃんと考えてくれているし、そんな事はしないもんね!?」


「そんなん分からないよ!俺も男だし、瑞希ちゃんみたいな綺麗な娘に何もしないとは言えないぞぉ!」


「ふふふ。栃朗さんにだったら良いですよ!その代わりちゃんと責任取ってもらいますから!へへへ!」


「やっと笑ったね!瑞希ちゃんには笑顔が似合うよ。ってもう少し先に進もうか。馬よりこっちの方が早いと思うけど、宿を見つけるにしろ、追手の方からしたらまさかここまでは!という距離は稼ぎたいな」


「あっ、はい。そうですよね!」


 そうしてまた瑞希ちゃんをお姫様抱っこして飛んで行く。顔が近い!少し余裕が出てきたからか、ようやく見られた笑顔が眩しい。改めて女の子として見るとやはり顔面偏差値が物凄く高いんだよな!


「私の顔に何か付いていました?」


「うん?少し考え事をしていたのと、瑞希ちゃんは軽いなって思っただけだよ。何か違和感がないか時折下を見てくれると嬉しいかなって」


「やっぱりお世辞が上手ですよね!って下を見るんですよね!任されました!」


「じゃあしっかりと掴まっていてね!」


 そうして先を進むのであったが、改めて思うと、ずっと女子高生をお姫様抱っこして飛ぶなんて凄いシチュエーションだよね。役得かな?



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