第17話 絵の具のせたら

美術の門山が渋い顔

「お前さ下書きはいいんだよ

陰影の付け方 構図のとり方

なのに……なんだ?これ

絵の具のせたら 幼稚園児か?

のっぺりしちゃんだよ」

生意気な中三少女は言う

「それを指導するのが

門山の仕事だよ

黙って見てる先生が悪い!

仕事放棄だ!」

周りのクラスメートからは

拍手が起きる


中三少女の真面目な彼

「お前……

またやったって聞いたよ

馬鹿じゃないの?内申点少しでもあげなきゃだろう?」

彼にはしおらしくなる中三少女

「だって酷い事言ったから」

「酷く無いだろ もっと丁寧に

やれって言ってるんだからさ」


泣き始める中三少女の涙を

ハンカチで拭う彼


いよいよ内申点にひびく

課題発表!

浮世絵 か 家紋 を 選んで

凧に画く

中三少女もかなり頑張った

然しながら

絵の具のせたらアウト!


彼と考えた挙げ句

家紋に変更

色は2色 黒とオレンジ

百科事典で一番描きやすそうな

家紋を選んだ

彼が

「絵の具でちまちま塗っても汚くなるからポスターカラーで塗れ」

と指示

出来上がった凧は

美しい!

黒背景にオレンジがクッキリ

彼が誉めてくれた!


これで大丈夫! 

門山の言葉が聞こえてくるようだ

「今度まともな作品だしたら

三やるからな!」

内申点二と三じゃ大違いだ!


学年で家紋は中三少女ひとり

目立つ!

凧上げでも目立った!


なのにあいつ!蹴り入れてやる

門山の野郎!

出来ない約束するか?


「門山!嘘つき!」

怒鳴り込む職員室に彼がいた


のろのろ歩く中三少女は

腕を引っ張られ

屋上緑化園に連れて来られた


「お前らしい すっきりしたか?

授業中お前らのクラスの凧上げ

見た 一番綺麗だったよ 

浮世絵なんて空に上がったら

みんな白に見えて

どれが誰のだか判んなかった

俺お前の凧に見とれて

授業聞いてなかったもの

思ったんだ 絵の具のせたら 

それだけじゃ完成しないんだな

それがどう見えるのか

誰かそれ見ていいなぁって

感じるか ものを創るって 

そこだよ 

少なくとも お前の凧を

俺は美しいって思った!

美術だな」


「難しいなぁ でも私らしい?

それは良いこと?なんだよね

タムがそう思ったのなら 

なんか嬉しいよ 

二がついたけどね!」

「良いに決まってる!

二か~そりゃ大変だ!  

他で頑張れ 勉強見てやるから」

「今何故緑化園?」

「とりあえず

ふたりになりたかった」


百八十センチの彼は三十センチ下の中三少女を見つめる

「今日一緒に帰る

塾は遅刻するぞ

餡饅奢ってやるからな」

中三少女はまた泣いた

「マミ ハンカチないから  

ごめん これで拭いて」

学ランにそっと顔を当ててくれた


初めての感触

初めての抱擁




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