予知未満

ボウガ

第1話

私はとある雑誌記者だ。


『能力は使いたくないんです』


今回の取材対象であった、他者の運を左右させることのできるという超能力者の少女は私にそう語った。私はしがない、オカルト雑誌の記者だ。つい先日、面白い少女と出会うことができた。何やら“未来を変える力”を持つという少女だった。事前の調査で聞くところによると、少女は内向的で、他者を頼るのを嫌う性格らしく、ただ、それでもどんなに窮地に陥ってもあまり力を使いたがらないという。


『リスクがあるのか?』


と問うと、そうではない、という。取材をつづけてくれるなら、その答えもわかると話していた。取材といっても一日中張り付くわけでもなく、少女のプライベートに付き合い、時に食事をおごったり、おかしを買ってあげたりした。少女はこうした取材にはなれているようで、かわいげがあり大人の扱い方もうまかった。私は女性だが、人にお願いするのがうまい、中学生ということでどこか愛らしさもあるのだった。だが私はこの話にはある結論が用意されているようにみえた。“結局、目立って失敗したくないだけなんじゃないかなあ”もしこの少女がごく自然の少女であるなら、世間から注目を浴びることも、浴びた後の問題も嫌うかもしれない。あるいは失敗で大恥なんてかいたら大変だし、変な子扱いもされたくないだろう、だって、近頃の少女というのは昔のように目立ちたがりというわけでもない。




 ある休日、二人で映画に行こうという話になった、その日までに収穫がなく、ほとんど私はどうやって少女の超能力のすごさを捏造、もしくは、少女にまつわる話で記事をかさましするかを考えていたが、少女はその日、雨が降っていたのに土砂降りの中でも二人ででかけようといってきかなかった。そこで私は少女とでかけることにしたのだが、私の車に彼女をのせて、彼女は助手席でずっと“嫌な予感がする”とつぶやいていた。




 映画館についた。駐車場で妙なざわめきの中、ガタガタと大きな何かが何かにぶつかる音と、車の急ブレーキ音がきこえ、人々の悲鳴が聞こえた。

 『嫌な予感って、これ?』

 少女は何も言わずにうなずいた。私は車をとめて車を降りる。少女は助手席でしばし沈黙した。私はそこで、初めて彼女が行動するのを嫌がっているのをみた。私たちは映画館の駐車場の真ん中に人だかりをみつけ、そこでさっき大きいいやな音がしたのだと二人で確認しあった。恐る恐るちかづいていくと人だかりに、ざわめきとやじうまの背後にたどりつき、私は息をのみ、その現場にため息をついた。けが人がいる、それも重症らしい、血だらけで……少女は目をそらして野次馬の背後に隠れるように距離をおいていた。救急車がしばらくしてやってくると、いらだったように、私は少女にといかけた。


 『未来を変えることはできないの??』


 『私は医者でもなしい……私が能力を使いたくないのは、そういう事なんですよ』


 私たちが野次馬の山でみたものは、一人の男性が車にひかれて、重症をおっていた風景だった。骨が折れていたらしいと、野次馬の群れの中で一人の男性から聞くことができた。


 『……』


 少女に少しきつくあたってしまい、大人気ないとおもいつつ、返答を奇妙に思い、自分の身分を思い出した。その場ではどういう事かを聞くことができずもやもやしていたが、お詫びのつもりではないが少女にポップコーンやジュースをおごり二人で映画をみて、少し今のことをわすれて、カフェにいこうという話になりそのカフェで詳しく話を聞くことにした。




 夕方ごろカフェに入ると落ち込んだように、苦しんでいるように彼女はうつむいたまま、一つの席に私に向かい合ってすわった。映画をみたのに気分はリフレッシュされなかったようだ。人が死んだわけでもないのに、とても感情的な優しい子だ。無理もない、まだ年端もいかない少女が事故を目撃したのだ、自分だったら、とでも考えたのだ。私たちはなんだか沈んだ気分のまま奥の方の座席を自然に選んでいた。しばらくすると彼女はメロンソーダと、パンケーキをたのみ、それに一口ずつ手を付け、しばらくの沈黙のあと、口をひらいた。


 『……あのね、私、未来を変えることができても、未来を予想することができない、なんとなく嫌な予感はするけれど、予知能力は完全じゃない、すべて何かがおきてから、できるだけいい方向に変えることしかできない、それも普通に人がやればできるようなことしかできないの、さっきの人、骨折して出血がひどかったでしょう、私は野次馬の中から医療関係者をさがしだし、その人のために人込みを開けるくらいのことしかできなかった、私の能力はそうやって人の無意識を左右することくらい、もしあの人がひん死の重傷で手の施しようがなかったら、私は、痛みを和らげることくらいしかできなかったの』


 私はコーヒーを飲むてをとめた。メモを取り出し、小型の音声レコーダーにスイッチが入っていることを確認した。そこであっときがついた。重症を負った男性をみたときあの時、少女はうつむき諦めたような表情をしていたことを。その無力さが彼女をそうさせるのか。自分の能力の欠点を見てしまうのか。だが、それとは少し違うような奇妙な表情を彼女は見せたのだった。


 『でもそれだけじゃない、私は本当はオカルトが好きなの、でも、この能力を、ある事故がきっかけで手に入れてから、私は自分の中の精神のゆがみに気づいてしまった』


 『どういう事?』


 事故というのは、少女が小学生のころに、公園の遊具から落下してから彼女が力を得たと自身で公言しているソレだった。よくある話で私は半身版木だった。本当によくある、死にかけたり臨死体験をすると、奇妙な力が体に宿るようになったとか、この界隈ではある話なのだ。


 彼女はふっと、いままでにないように背筋をぴんとはり、それからはーっとため息をはいた。その時初めて自分の言葉に自信を感じているように、シーンとした店内をみまわした。みると店内に人がまったくいなくなっていた。入ってきたときは、多少のざわめきがあるくらい4,5組はグループがいたのだったが、私たちが注文をし、少し食事にてをつけたくらいで、ものの数十分おしゃべりをしている間に、皆店からでていたのだった。映画館からでたときには、外は晴れ間がのぞいていて、雨が止むのを待っていたとも思えないが、偶然でかたづけるのならば、それは片付くだろうが、彼女の目に自信を感じて、私はその瞬間に“オカルト的センス”で彼女はこのことに何かの確信めいたものをもっているとかんじた。そこで私はカメラをとりシャッターを下ろし、この記事を一面で使う事に決めたのだった。そして、カメラをポケットにしまうと、彼女に尋ねた。


 『今能力を“使った”の?』


 そんな言葉を無視するように、少女は言葉をつづけた。


 『私は英雄になりたかった、未来を少しでも変えれば、英雄になれるんだとおもっていた、けれどこの能力を使うたびに寿命が縮むような感覚を覚える、英雄になるためには多くの人を助けないとだめなんです、けれどそれには“多くの人間の不幸”が必要になる、ひとつずつコツコツ人の未来を変えただけじゃ誰も私の事を信じないし、認めないから、つまり私は……私がいやになるんです、私が認められ、私の能力に異議があると認められるには、多くの人間を幸せにしなければいけない、けれどその反面、それには大きな不幸が必要になる、つまり心のどこかで、私がヒーローになるための“大きな不幸”を人々に望んでしまっている、私が注目をあび、能力を発揮することで、優越感に浸れる瞬間、そのための“悪”や“災い”をどこかで求めてしまっている』


  その時はじめて少女の中に大人びた、打算的な思考があることにきづいて、今までのかわいらしさの演技じみた部分の理屈に気づき、私は少し落ち込んでしまったのだった。その日はそれでわかれ、私はその夜のうちに記事の原稿をまとめた。記事には、それは数週間後に出版されたがこの少女の本心の細部まではかかなかった、やはり、“本物”の能力者はこうして、何らかのいかがわしいと思われる程度の情報を暴露することが、当人のプライバシーを守ることにつながるのかもしれない。彼女は能力をほとんど使いたくないのではなく、使わないのかもしれない。きっと能力をつかっても誰も些細な事では、認めてくれないし、私のように、あの時駐車場で男性の未来を予測できなかったのかと彼女に期待した私のように、余計なプレッシャーを抱えることになるのだから。


 何より、能力が使われたと悟ったあのとき、彼女は鼻血を流していた。あれは超能力者特有のものだ、この仕事にかかわる前から、幼少期からその現象を知っている。私が彼女を“本物”と認めるには訳、なぜなら私は、かつて川でおぼれかけて臨死体験をして能力を手に入れた。それから人間が卑しい気持ちを持った時に、その人間の将来がどうなるか予測できる“予知能力者”なのだから。

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予知未満 ボウガ @yumieimaru

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