第2話

「ただいま、帰りました」


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 そう言って門番が重い黒い鉄でできた門を開けてくださいました。私は会釈して家へと入ります。


「おぉ、エミュレット。お帰り」


 お父様が笑顔でお出迎えしてくださいました。


「ただいま、帰りました。お父様」


「なんだ、帰りが早いじゃないか。てっきり彼の家に泊まってくるかと思ったのに」


「ハァーーッ」


「なんだなんだどうしたんだ?」


 お仕事の方は敏腕と言われているお父様。ただ、私のことになるとはっきり言って……アホウでございます。


「婚約破棄してまいりました」


「婚約破棄!? あいつめ、そんなことを言ってきたのかっ!?」


「ちゃんと、聞いてくださいませ、お父様。私の方から、彼に婚約破棄をしてきたのです」


 ジェスチャーを交えて伝えるとお父様はようやく理解してくださったようです。


「なぜだ……彼ほどの優良な男は」


 デネブを紹介してきたのは、お父様でした。デネブは私のことをたいそう褒めてきて、自分は大商人だとおっしゃっていたそうです。


「そうそう、お父様が期待されていらっしゃったようなことは、彼は別の女性とされていらっしゃいましたよ? あと、彼と取引するのであれば、よく注意したほうがいいかと。お父様が言うような家には住んでいらっしゃいませんでしたので」


「なん……だとっ」


 お父様は目を大きくされて信じられないと言う顔で、拳を握っていました。お父様も私を褒めると仕事の方も判断が鈍るとなれば、困ったものです。私はそう言い残して、自分の部屋へと向いました。


「ふぅ、良かったわ」


 私のお父様は私に甘いとはいえ、父親が決めた結婚に娘が反対できないご時世。本当は反対したかったのですが、私が反対する前に商人仲間にお父様はデネブと私が結婚すると言ってしまい、メンツを潰してはいけないと思っていましたが、このような結果になって良かった………




 あら、ぐっすり寝れました。久しぶりによく寝れた気がします。やっぱり心の奥底で今回の結婚は大変ストレスだったようです。本当に良かったです。私がお父様と今後について話そうと思いましたが、お父様は家にいませんでした。執事に聞いたところ、一睡もしていない様子で早朝から家を出たそうです。


「エミュレット!」


 お昼になる前に、お父様は元気な顔をされて帰ってきました。


「お前が好きなパン屋のパンだ」


「あら、お父様。お土産ありがとうございます」


 私が喜んでいると、お父様も喜んだ顔になりました。デネブを紹介された日もそのような顔をされていましたが、今回は大丈夫でしょうか?


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