第13話
「エリック王子、お話があります」
私は王宮を尋ね、エリック王子に会いに行きました。前回は旧大臣達の推薦ということだったので、半分は私用、半分は仕事としてエリック王子に会いに行きましたが、今日は違います。王子は書類に目を通していらっしゃいましたが、会うことを許してくださいました。
「あぁ、そうしたら、あと一刻ほど待ってくれ。そうすれば、今の仕事が終わる」
「あの、できれば、お仕事が終わったあとがいいのですが、駄目でしょうか?」
「それはどういう・・・・・・」
私の顔を覗き込むエリック王子。仕事中は真剣な顔なのですが、少し驚いた顔をされて目をパチパチされていらっしゃいました。そのお顔が可愛らしく、そして、話したい内容が内容でしたので、私は恥ずかしくてはにかんでしまいました。
「ヴィクトリア・・・ワインは赤が好きだったかい?」
エリック王子はペンを弄りながら、ニコっと笑ってくださいます。どうやら、私の意図を分かっていただけたようです。
「はい。ただ、一番好きな物がございます」
物なんて言っていいのかしら。でも、ウィットな会話を私もしたい。
「聞こうじゃないか」
「お話するときにお伝えします」
「そうか」
そう言って書類に再び目を落とすエリック王子。私はそんな王子にお辞儀して部屋を出ようとしましたが、
「いや、駄目だ」
エリック王子は私を呼び止めて、立ち上がり、私の傍に来られました。
「あのでも、これは・・・その・・・・・・」
私ったら自分で尋ねておいて、夕暮れまでに心の準備をしておこうと思っていたので、勇気が出ませんでした。
「その?」
エリック王子は私に近寄ってこられて、いつもの仕事の距離を超えて、私が横を向けば唇が触れてしまうような距離まで入ってこられました。せっかくウィットな会話をしようと思ったのに、これじゃあ台無しですわ。
「これは、私用でして、仕事に関係がないので・・・」
「いいや、僕は関係あると思うな」
そう言って、エリック王子は優しく私の手を取り、微笑みました。
「だって、この国の未来にとても影響を及ぼすことだと思うんだけど、違うかい?」
「それは・・・その・・・・・・」
頬が熱い。
久しぶりにエリック王子が自分のことを「僕」と呼ばれましたが、それが意味するのは、王子と部下ではなく、一人の男性と女性を意味しているような気がして・・・・・・
(やっぱり無理よ。そうよ、王子とお付き合いしたいと言うということは、また王妃になる覚悟を持たなきゃいけないし、お世継ぎのことだっていろいろ・・・・・・)
「やっぱり・・・・・・止めますっ・・・・・・んっ」
私が投げやりに答えたその時、エリック王子に抱きしめられた。
「もう、待てない。ヴィクトリア、こんなにも可愛らしいキミが、僕をあんな目で見つめて、我慢できるわけないじゃないか」
エリック王子の抱擁は、私の全てを受け止めてくださる気がしました。
「仕事とはいえ、キミと一緒にいた時間が増えれば増えるほど、僕の想いは増していくんだ。キミ以外の女性と見える未来なんかない。僕はキミと未来を見たいんだ。だから――ー結婚しよう」
私もそうでした。
エリック王子と過ごした時間が増えれば増えるほど、エリック王子の尊敬できる一面や、素敵な部分を見せつけられて、さらにエリック王子は私の自信がない部分や、不安な部分を褒めてくださりました。
今の私は自分のことを好きでいられる。それは―――
「はいっ」
エリック王子のおかげだ。
だから、私はこの男性と一緒に生きていこう。
エリック王子と私は自然と瞳を閉じて、唇を交わしました。
~FIN
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