第6話

 エリック王子とは、王妃の頃に何度か会談やお茶会などでお会いしていました。エリック王子は他国からも評価が高く、多くの王族が集まる中でもリーダーシップを発揮されており、お茶会などの時にはウィットに富んだ会話でその場を和やかにしてくださるような方でした。リードしつつも、気配りをされる方で、私が王妃になりたての頃、場に馴染めずにしていても、気さくに話を振って下さったことは今でも感謝していました。


 だから、急にこのような道端で求愛されるなどとは全く思わず、想定外すぎて私も久しぶりにテンパってしまいました。それこそ、レオナード王子と結婚する前の可愛げがあったと言われる頃のように。


「えっと、その・・・・・・えっ? えっ? えっ?」


 知識や知恵は自分を守る力。どんな時でも動じず問題を解決できるよう身に着けたはずなのに、その防具は取り上げられて、今の私には裸にされたよりも恥ずかしい思いでした。


「あぁっ、ヴィクトリア。キミのことを世辞ではなく、心の底から可愛いと言えるこの瞬間が。心の底から愛おしいと言えるこの瞬間が。どれほど待っていただろうか、どれほど求めていただろうか。ヴィクトリア、僕はキミのことを心の底から愛しているんだ」


 町の人々が私たちを見ている。

 国民の前で演説した時も平気だったのに、今はこんなにも恥ずかしい。


 そう、顔から火が出るように顔が熱いのは羞恥心。

 ときめいたように鼓動が速くなっているのも羞恥心。

 

 じゃあ、エリック王子の目から目が離せないのはなぜ?

 その青い瞳をずーっと見つめていたい、見守って欲しいと思っているのは・・・・・・なぜ?


「エリック王子」


「あぁ」


 私が声を掛けると、青い瞳が細くなり嬉しそうに喜ぶエリック王子。


「お気持ちは大変嬉しいです。ですが・・・・・・なぜ、今なんですか」


 私は深呼吸をしました。すると少しは冷静さが戻り、いつもの私に戻れました。私がそう考えるのも、失礼だと思いつつ、そこまで想っていたのであれば、レオナード王子と結婚中であっても、アプローチしただろうと思いました。


(・・・悲しい)


 こと恋愛に関しては、政治のような勘繰りもせずに、ただ純粋な愛だけを信じていたかったのに。


 私の真剣な問いにエリック王子は真剣な目をして、


「もし仮に、レオナード王子から略奪をしたとしたら、私は私を好きではいられない。そんな男ではキミの横にはいられないと思ったからだよ、ヴィクトリア」


 誰かが言った。

 恋は一時の過ち、と。

 でも、エリック王子のこの想いを信じることは過ちではない、そう思いました。


 でも、だからこそ、私は―――

 


 

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