第7話 理沙からの宣告


 料理に関して言えば百点。

 家に来たことに関して言えば”今は”勘弁してもらいたいのでゼロ点。

 だけどお節介でなんだかんだで面倒見が良い所は八十点。

 新上の心の点数。

 なんだかんだで高得点を出してくるので追い帰す気は薄れた。

 そんな美少女こと理沙は新上の対面ではなく隣に深く腰を下ろしていた。


「美味しかった?」


「うん」


「で? 詩織に振られて今日休んだ感じでしょ?」


 グサッ!?


 隣から掛けられる声は新上の心の傷をえぐる。

 隣から感じる視線は何かを確認しているように真剣そのもの。

 理沙の黒い瞳の中で動揺を隠し切れない新上の姿がハッキリと映っている。

 まるで水晶のように綺麗な瞳で新上の心の中を覗いていると錯覚してしまいそうな感覚に新上は思わず息を呑み込んだ。


「諦めようとするから辛いんじゃないの。だったら諦めなかったらいいじゃん」


「はっ?」


 理沙の言葉に思わず驚いてしまうも、


「健康診断一緒に回っている時に詩織から聞いた」


 言葉を続けてきたので、新上は最後まで聞く事にする。


「あの日、生理的に無理、近寄らないで、絶対にありえない、って強い拒絶はされなかったんでしょ?」


「……あぁ、まぁそこまでは」


「だったら好きって伝えるんじゃなくて、好きになってもらう努力もしてみたら?」


「努力?」


「恋愛って難しいと思う。自分が好きになった人に他に好きな人がいたり、振り向いてくれなかったり、って。でもさ、……もしだよ。……もし、詩織が新上に告白するってなったらその恋は新上の望む形で成就するんじゃないの?」


「でも……」


「可能性がないから諦めるならわかる。でも本気で好きになったんだったらやってみたら?」


「理沙……」


「私は正直どっちの味方でもないよ。でもどっちの敵でもない。私は二人の親友としてそう思っただけ。新上が詩織のこと好きなのはわかってる。でもさ、新上が詩織のこと好きって気付いて告白したように詩織には詩織の恋のペースがある。それを理解してあげることも彼氏要素としては必要なんじゃないかな」


 理沙が言いたいこと。

 なんとなくわかる。

 今までの長年の付き合いから理沙の性格を合わせると。

 自分の隣に好きな人がずっといるようにするよりも、静かに見守るってことの方がずっとずっと愛情が必要だし難しい。

 そこから自分のことを好きになってもらう。

 理沙が言っていることはある意味茨の道。

 思春期真っ只中の高校生にとってその道は恋の成就までに時間が掛かり待つのが辛い。

 なにより実るか実らないかは結局相手次第。

 自分の努力だけでは望む結果は生まれない不確実性の物。

 それを理解した上で理沙は新上に茨の道を示している。

 新上から見た理沙はやっぱり小悪魔。

 苦悩を知っておきながら自分と同じ地獄に落ちないかと。

 新上が知るだけで約三年茨の道を歩いてきた美少女は今日と言うこの瞬間を狙い撃ちしたように口を開く。

 まるで”チェックメイト”と言わんばかりに身体を寄せては、慎ましやかな胸元に新上の腕を掴んでは持っていく。

 新上の意識に田村理沙は女だと腕の感覚を通して意識させながら、


「ってことで、とりあえず詩織との恋が終わるまでは私も彼女候補にしてみない? 新上のことを大好きで無条件にここまで一途な女の子多分私以外にいないよ?」


 微笑みながら言ってきた。

 ――理沙が家に来る理由それは。

 理沙の瞳の中でおどおどとしている弱腰になった新上のことが異性として大好きだからに間違いない。

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