愛を叫び散った日から始まる新しいLOVEストーリーは意外なもの!?

光影

第1話 幼馴染の関係が終わった日


「詩織のことがずっと好きでした! 俺と付き合ってください!」


 夕暮れ。

 学校の屋上に二人の男女がいる。

 入学そうそう彼女にしたい校内ランキング上位の彼女に告白する一人の男子生――新上。

 容姿平凡、勉強平凡、身長平凡、金銭面平凡。

 目立つ要素と言えば、唯一無二クラスメイトに何度振られても一途を貫く所。


「はぁ~」


 ため息混じりに返事。


「しつこい。もうこれで何回目?」


「……えっと、十回目です」


「そう。高校生活十日目にして十回目。毎日毎日私を呼び出してどうゆうつもり?」


「いや……その……」


「迷惑って言葉知ってる?」


「はい……」


「クラスの皆の前で誘って、あろうことかクラスメイトまで巻き込んで私が断れない状況を作ってのお誘い。正直イラっとするわ」


「…………」


「先に言っておくけど答えはノーよ。私こう見えて忙しいの。それに諸事情で恋愛は無理なの知ってるでしょ?」


 ドスの利いた言葉。

 本気で迷惑をしている。

 言葉だけでなく態度でも見せられる。

 普段はしっかり者でクールな印象がある彼女からの言葉は間違いなく内心イライラしている言葉だと誰が聞いてもわかるもの。


 思わず下を向き、唇を噛みしめる。

 涙が出そうになる。

 今まではやんわりな断りだったために、諦めなかったらチャンスがあるかも。

 そう思っていた。

 だけど今日で新上は確信してしまう。

 どんなに頑張ってもこれ以上の進展はありえない、と。


「……はい」


 今までは断られても「絶対に諦めない! 俺諦めないから!」と熱い自分の想いを精一杯見せてやせ我慢することができた。

 でも今回は違う。

 新上の心の中にある何かがガラスが割れたように割れた。

 膝から力が抜けそうになる。

 実は新上が詩織を好きになった十年程前。


「私たちは幼馴染以上の関係には絶対にならない。ハッキリともう一度言うわ。私は異性を好きって感情がよくわからないの。女友達を好きって言う感覚と一緒じゃない。その時点でよくわからないの。新上以外にも三人告白してきたわ」


「……知ってる。校内で噂になってたから……三人共イケメンの先輩」


「そう。でも丁重に断ったわ。新上くんと同じ理由で。本当に私わからないの。異性を好きになるって感情が……どうして新上は私の事を異性として好きってそこまで断言できるわけ?」


「毎日会いたい、いっぱいお話ししたい、一緒にいたい、誰にも取られたくない、我儘を承知で言うなら他の男と話している所を見ると胸の中がモヤモヤする……そんな沢山の感情が積もってできた感情が恋だと俺は思ってる。だから……最初から決めていたんだ」


「なにを?」


「こうしてハッキリと断られるまで俺は絶対に諦めないって。本当は小さい頃から好きだった。でも告白する勇気がなかった。だから決めたんだ。めっちゃ頑張って同じ高校に入学できた俺なら、受験頑張って少しは成長した俺なら、高校生になった俺なら、結果を残した俺なら十年以上前から続く初恋に新しい一ページを刻めるんじゃないかって」


「そうだったの……ごめんなさい。最初は気を使ってたんだけどそれが逆に淡い期待を持たせていたなんて私……知らなかった。それなのにキツイ事を言ったわ」


 申し訳なさそうな声で呟く詩織に新上は頬を引きずりながらも不器用な笑顔を見せる。瞳から何か透明色の冷たさを持ったなにかが落ち始める。


「いいんだ。ありがとう。その言葉を俺は……待っていたんだ。これで俺は次に進める。だから気にしなくていい。だから最後にいいか?」


「…………」


 何も答えない。

 ただ真剣な表情でコクりと頷く詩織。


「恋は理屈じゃない。頭の良い詩織には逆にそれが難しいのかもしれない。だから――」


 引きちぎれるように胸が痛い。

 嗚咽が混じりもう声になりそうにない。

 さっきから視界がぼやける。

 でも――まだ早い。

 涙を拭うにはまだ。

 幼馴染だからこそ、素敵な初恋をくれた相手だからこそ、なにより大切に思える相手だからこそ。

 どんなに苦しくても、泣きたくても、嫌でも、本心じゃそれを本当は望んでいなくても、伝えないといけない言葉がある。


「いつか誰でもいい。詩織自身がこの人とずっと一緒にいたい! この人と幸せになりたい! そう思える異性が現れたら絶対に後悔しない道を選んで欲しい。俺のように後悔だけはして欲しくないから! それと俺……男だからさ、一人でちゃんと片を付けるからさ、もう詩織には迷惑かけないからさ、ごめんな」


 精一杯の作り笑顔とやせ我慢を見せて、鉛のように重たい両足に力を入れる。

 ゆっくりと身体を反転させて、新上は屋上を離れる。

 放課後の屋上を照らす夕日が今年高校生になった新上の背中を照らす。

 オレンジ色の夕日は全てを出し切るも力及ばず撃沈した哀れな男の生き様をしっかりと捉えていた。


「まっ……」


 思わず出しかけた手と後を追いかけようとする足を戸惑いながらも止める詩織。

 彼女は心の中で迷っていた。

 なんて声をかければいいのか。

 そう――彼女は初めての経験を現在進行形でしていた。


「……あれ? 私……どうして?」


 今までの人生を歩む中で異性に告白されることはあった。

 だけど全て同じ受け答えで返答してきた。

 それで相手の好意に応えられず良心がチクリと痛む事は何度もあった。

 だけど――。


「……心の中がなんだかとてもモヤモヤする」


 ――今回は違った。

 今までにない感情が一気に生まれては心の中を暴れまわり始めたのだ。


 そんな詩織の言葉と行動は酷く落ち込んだ新上が気付く事はない。

 そのまま屋上を離れ一人になった新上と屋上に一人残った詩織は思う。


「「……今まで当たり前だと思っていた俺(私)たちの関係が終わったと」」

 



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