カラフル・スターズと無色/破滅の世界
渡貫とゐち
青の章/学びの国の学園祭
第1話 スターズ集合 その1
『――それではただいまより「学びの国」の学園祭を開催いたします! 近隣諸国のお客様、そして学園入学希望者、親御様含めたその他諸々みなさま、存分にお楽しみください――、
我々「魔法使い」はみなさまへ、極上のエンタメをお届けしますっっ!!』
多種類の色のインクを叩きつけたようなデザインの制服は、本当にそうして作ったかのように生徒一人一人によって差異がある。
似たようなデザインでも、色の明度や、染まる色の範囲が違うために、まったく同じデザインは存在しなかった。
生徒たちが持つ自身の『色』に合わせたわけでもない……、自身が持つ色が『青』であっても、制服は『赤』をメインに扱っている、なんてことはざらにあるのだ。
それは、自身の武器を誇示するように見せびらかすものではない、というメッセージなのかもしれないが……、言いふらすべきではないと気づくのは卒業間近になってからだ。
魔法を覚えたばかりの子供は、自分の力を自慢したくて仕方がないものである……。
眠っていた――起きたばかりの獅子を制御するための魔法学園ではあるが、手痛いミスを最初に教えないのは、痛い目を見るべきだと推奨しているからか――。
誰もがまずは通る道である。
「お、始まったね――ほら見て、魔力の衝突で花火みたいな音の後に、空に虹が架かってるみたいでしょ? 綺麗だよねー」
と、空を見ながら呟く彼女も、一年前の手痛いミスは例外ではなく――、ストッキングからとんがり帽子まで、赤をメインに、青と黄色でデザインされた制服を身に纏う彼女の『魔法属性色』は、実は『青』である。
自分から口にしなければ、自身の属性色は分からないはずなのに、自己紹介と同じように色を名乗るのは、他人に弱点を明かしているようなものだ――。
まあ、遅かれ早かれ、ばれることではあるのだから、気にしないと言えば気にしない……と楽観視する者も多い。
無理もないだろう……、
現在、世界はある『スポーツ』に熱中するほど、平和なのだから。
「綺麗って言われてもさ……姉ちゃんのでっかい帽子で見えないよ」
「あ、そっか、ごめんごめん」
日傘のように視界を覆っていた影がなくなると……見えてくる。
虹のアーチがいくつも空に架かっていた。
一瞬だが、色が弾けて輝く様子は、本当に夜空に見える花火のようだった。
明るい空でも映えるその派手な色は、個々の魔力の強さを証明している。
「きて良かったでしょ、ユサ」
「まだきたばっかりじゃん。開会式の派手なパレードだけ見て帰っても面白くないでしょ。とりあえず、屋台でなにか食べたい。お昼時になる前にさ。
それに、早くしないと、姉ちゃんもこの後に用事があるんでしょ?」
「ふっふーん、ユサを学園祭に招待したのは、お姉ちゃんのその用事が実は目的だったりするのですよーっ!」
「?」
ごろごろ、と車椅子を押す姉は、いつにも増してハイテンションだ。両足が動かない弟を気遣い、空元気を出している、というわけではない……。
単純に一年に一度のお祭りに興奮しているだけだろう。
「魔法スポーツの最先端――『カラフル・スター』……ユサは見たことある?」
「あるよ、当たり前だろ。……学園だけじゃなく、この国の最大のエンタメだし。他国から観戦目的で、人が観光にくることが多くなったって……――そのおかげで、経済効果が大きいって有名だ。近年、国が特に力を入れている魔法スポーツじゃないか。
そりゃ嫌でも耳には入ってくるよ。通院しているとテレビを見る機会も多いし――」
「じゃあさ、直接、会場で見たことはあるの?」
「……ないよ。人混みは苦手だし。盛り上がっても僕は立ち上がれないんだ、その場にいると周りと比べて空しくなるだけだよ……だから映像で満足だよ」
「ふうん、じゃあ今日は見ないの?」
「…………」
「お姉ちゃん、出るけど」
「知ってる。選抜された『スターズ』の一人だし」
魔法スポーツの最先端――『カラフル・スター』内にて。
優秀な成績を収めた上位四名を、『スターズ』と呼ぶ。
その内の一人が、青の属性を持つ魔法使いであり、ユサの姉である彼女――ユイカだ。
派手な髪色の生徒が多い学園内では、主張を抑えた黒髪である。
「姉ちゃんは自分から言わないけど、特集されてるからな? 他の人たちと一緒にさ――」
「え……、今日、実は選手でしたーって、お披露目するつもりだったのに……」
「姉ちゃん、バカだろ。行動範囲が狭いからって、僕がひとりぼっちで世の中の情報から遮断されているとか思ってる?
仮にいくら情報規制したところで、姉ちゃんの弟だってばれているんだから、姉ちゃんの情報は逐一、入ってくるから」
「これまで隠してきた私の努力がっ!」
「……努力?」
直接的なことは言ってこそいないが、ぼろぼろとこぼしていた気がするが……。
「というか、なんで隠して……」
と、気づけば車椅子が前へ動いていく。少し坂道になっていたのだ。
姉が手を離したことで、車輪が回ってしまったのだ。
自分の手で止めることは当然できるが、振り向いた後で転がっていることに気づいたので、対処が少し遅れた。
魔法で飛行していると、たとえば少し目を離した隙に、体は数十メートルも先に進んでしまっていた、ということがある――。
今はそこまでとはいかないが、混雑した道での数秒のロスは、対処が遅れたせいで、もしかしたら小さな子にぶつかってしまう可能性もあった――。
車椅子とは言え、勢いがつけば威力も上がるのだ。
小さな子にとっては、ユサにとっての魔力自動車が低速で突っ込んでくるのと変わらないだろう。痛くなくとも怖さはある。
「ッ!」
ユサが手で車輪を止めるよりも早く、横から伸びた手が車椅子を止めた。
「危ないわね、ストッパーくらいかけておきなさいよ。あと、できれば道の真ん中で止まらないでくれると迷惑にならないんだけどね……。
上で派手なショーをしているから、視線が上にいくのも、足が止まるのも分かるけどさ」
「……あなた、は」
「『ごめんなさい、気を付けます』は? ユイカの弟くん」
青をメインに、紫と白を混ぜたデザインの制服を身に纏う、金髪の美女だった。
「……ごめんなさい、気を付けます……あなたも姉ちゃ――姉と同じスターズの」
「そうよ、あなたの『姉ちゃん』と同じ選抜された魔法使い。
属性色は秘密ねっ――知っていると思うけど。――リオよ、よろしくね」
言い直した『姉』を、すかさず『姉ちゃん』ともう一度言い直したところに、彼女のからかいを感じる……。
目元を覆った前髪の隙間から、ちらちらと見える青い瞳が、満面に笑っていたのが記憶に残る。……嫌な相手に目をつけられた、とユサの表情が自然と歪んだ。
「あ、リオ? って、なんで私の弟のハンドルを握ってるの!」
「あなたが掴んでいないからだけど」
ユイカが懐から、羽根付きの『筆ペン』を取り出して構える。
魔法使いにとっては、旧世代で言うところの『杖』である。
見た目が違うだけで機能は同じだ。杖も筆ペンも、できることは同じ――。
デザインを重視したことで、このアイテムへ、みなが流れただけである。
現代の魔法使いは絵的に映えるものを好む傾向にある。
インクを叩きつけたような制服が最たる例だろうか。
「こんなところで喧嘩するなら、本番まで取っておきましょうよ……、その方が盛り上がりそうでしょう?」
「弟に手を出すつもりなら……ここで決着をつけてやる」
「ないから。可愛い顔をしてるけど、アタシの好みじゃないし」
「僕もリオさんは『ない』ですね」
売り言葉に買い言葉だったが……、
言った後、前髪の奥の瞳が光った気がした。
言うのはいいが言われるのは嫌だ、というタイプなのだろうか――、美人だし、あり得る。
「へえ……、このお祭り中、連れ回したい気分ね」
「遠慮しておきます」
「ダメだからっ、ユサの案内は私がっ」
「……あの、お取込み中すみません……ユイカさん……委員会のお仕事が……」
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