第2話 集結
「どうしたの?」
授業が終わると同時に、夏美が聖也の視線の先を確かめに来た。
咄嗟に手で隠したが遅かった。
「この席、ずいぶん傷だらけだね」
その言葉に、聖也はほうっとため息をつく。
「そう。だからちょっとびっくりしていただけだよ」
夏美にはその傷が『カササギ』とは読めていないらしい。やっぱり自分の自意識過剰のせいかと恥ずかしくなった。
俺は主人公にはなれないな。
「どうした?」
一緒に教室へ戻ろうとやってきた和成が、同じく手元を覗き込む。
『あ!』と言う顔をした後、早口で続けた。
「気付いたんだ。これ」
「もしかして、大沢君がやったの?」
夏美の非難するような視線に、たじたじとなった和成。慌てて首を横に降る。
「違うよ。先月俺この席だったから気づいていたって話。で、鵲の名前が彫ってあるなって気づいたけど、こいつがこんなことやるわけないし。だから放っておいた」
「鵲君の名前が彫ってあるの?」
俄然興味が湧いたような顔で再度覗き込んだ夏美。
「どれ?」
「ほら、ここ。ちょっと
「うーん、ああ、確かに。かなり前衛芸術的だけれど」
なんで大声で宣伝しちゃうんだよと苛立たしい気持ちを必死で抑えながら、聖也は二人の会話を遮った。
主人公にはなりたいけれど、みんなに知られるのは無性に恥ずかしかった。
「読もうと思えば読めるってだけで、傷の形がたまたまそう見えるだけだよ。もう、終わりにしよう」
「でも、先生に言っておいた方がいいんじゃない」
正義感の塊のような夏美が言い募る。
「ダラセンなんかとっくに気づいているだろう。理科の先生なんだから」
和成の言葉に、斜め前の席でじーっとこちらを伺っていた真紀が急に言葉を挟んできた。
「そ、そうですよ。私、先々月その席だったんですけれど、その時もうその傷はありました。だからきっとずっと前からあるものだと思います。先生はとっくに気づいていらっしゃるけれど、消すことはできないからそのままになっているんだと思います」
おとなしい真紀が珍しく雄弁に語ったので、和成も夏美も驚いたような顔になる。
「おお、そうだな」
「そ、そうね」
これで終わりだなと、ようやく聖也は力を抜いた。
「でも、一体誰がなんの目的でこんなことしたのかしら。気になるわ」
夏美はまだあきらめきれないようだ。
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