魔王(チート)能力回収一味

@ta-yu

第0話 プロローグ

「これでとどめだ魔王ぉぉぉぉ!!!」


光り輝く剣を振りかざし、飛び上がった1人の人間が巨大な魔を纏う存在に剣を振り下ろした。

まとわりついた光さえも剣の形へと姿を変え、魔を纏う存在に次から次へと突き立てられていく。

青年が最後に振りかざした剣を胸に突き立てると、魔を纏う存在は口から血を吐き、二歩三歩とよろめきながら後退をする。


「ぐふっ! ま、まさかワシが破れるとはな・・・ しかし、消滅はせぬ! 力は受け継がれ、次の魔王へ」

「そうはさせない! 魔王の力ごと封印する」


そう言うと魔王と呼ばれた魔を纏う存在に突き立てられた光の剣がそれぞれ闇を吸い出し、光でコーティングしていく。

1本、1本と終わると光り輝く何かが地面に落ちていき、魔王と呼ばれたそれは体が干からびていく部位が増えていく。


「これで最後だ魔王!」

「おのれ勇者ぁぁぁぁ!!!!!!」


突き立てられた剣に飲み込まれ、剣からはじき出された光の輝く何かは、魔を内包している筈にも拘わらず、美しく光り輝き続けていた。







深夜だと言うのに灯が騒々しいほどあり、人の往来がやたら多い。

おかしい点といえば灯は夜空に向かっているものも多く、往来している人の服装が揃いも揃って同じ球ということだ。

その中で大きめのコートを着た金髪で眼鏡をかけた優男が一人優雅に椅子に座ってコーヒーに舌鼓を叩いていた。

張り詰めている空気の中、一人だけその空気に飲まれることもなく、コーヒーを楽しんでいた。


「信頼してくださるのは嬉しいのですが、探偵殿にもやる気を見せて頂かないと」

「シィー。ブレイクタイムは効率を上げる最良の手段ですよ。邪魔はいけません」


苛立った様子の男に咎められても何も気にせずにコーヒーを啜る。

その様子に咎めた男はより苛立ちを隠せないでいる。


「しかしですね!」


しかし、その男を遮るかのように空から声が降ってきた。


「ぎゃゃぁぁぁぉぁぁぁーーーーーーー!!!!」


警察たちは一同に目配せをして声がする方を探すも闇夜の世界では声だけ、それも絶叫していて反響している中では見つけられなかった。


「全員に通達!奴らがきたぞ中の警備を固めろ」

「いえ違いますよ警部」


コーヒーを飲んでいた探偵と呼ばれた男が立ち上がった。

コートの下はスーツで革の手袋を付け、重そうなブーツを着用。

金髪は右半分は目にかかるが左半分は刈り上げているような坊主と見た目は奇抜。

メガネを指で押し上げると頸部と呼んだ男の無線を勝手に奪い取った。


「相手はあの怪盗ですよ。無様な声をあげて入ってくるわけありません。これは陽動、中を固めさせてる間に侵入する魂胆です。外を固めてください、これから奴らがきますよ」

「し、しかし…」

「勿論、中の警備も緩めてはいけません。今の囮と同時進行で侵入した可能性もありますから。しかし、まだの可能性の方が高いと私は睨んでいます」

「な、なるほど! 探偵殿流石ですな。やる気を疑い申し訳ありません。無線機を返していただいても? ありがとうごぞいます。んんっ、全員に告ぐ、今の探偵殿の言う通りだ。焦って思い込んで動きに制限を掛けないよう気をつけよ!」


図体の大きい警部と呼ばれた男は探偵に敬礼したのち、小走りで自分の持ち場へと戻っていった。

探偵は椅子に再度座り、コーヒーに手を伸ばしつつ目の前の建物へ視線を送る。

帝都一番の美術館で、呪いの宝石と呼ばれた青いサファイアの塊を展示中だ。

一目見たが探偵は宝石の良さがわからないのか、石ころとの違いが分からなかった。

が、相手がこれを求めているのならば二重三重の罠でも足りない。

あらゆる手段を講じて確実に捕らえる。

目を細め、美術館を睨みつけてボソリとつぶやく。


「念には念を、中を巡回しますか」


~~~~

「ってなわけで探偵殿が怪盗の策略を見抜いたってわけよ、どうぞ」

「つまり、さっきの叫び声に対して中の警備班は特別変わらないってことでいいのか、どうぞ」

「そう言うことだ、どうぞ」

「ついでに定時連絡はこれでいいかな『異常なしです』、どうぞ?」

「定時連絡は定時にしやがれどうぞ」

「良いじゃねかよくっそ、了解です」


建物の中の警備担当は一人、灯りを持って見回りをしていた。

一人、と言うのも相方は先程休憩に入り、この時間だけ一人でやらなければならなかった。

最も、彼の担当するエリアは目玉であるサファイアから遠く離れた所でここは経由されないだろう位置だ。

何かあれば駆けつけると言えど遠いので戦力としては期待されていないと見るのが現状で、彼自身もやる気はなかった。

いや、元からやる気がなかったからここの配属になったと言っても過言では無い。

どちらかと言うと夜の勤務だから完全に外して欲しかったのに、いる必要性を疑うよな所の配属となるとよりやる気が落ちている。

相方も新人であまり接点のない子だったので話しもあまり弾まず、最早新手の拷問では?と思い始めるぐらいだった。


「あ~、ダリィ」


とっとと捕まるかとっとともの持って逃げろよと悪態をつく彼はしぶしぶ見回りに戻ろうと歩みを進める。

最初こそいろんな展示物があって楽しいなぁと思っていたが、5周もする頃には飽き飽きしていた。

特に絵画のエリアに来ると殆ど廊下に沿って絵が置いてあるだけで普通の道にしか感じられない。

唯一、薄暗いことのみが、恐怖を増長させてくるので一人で歩き回るには環境としてはよろしくなさそうだ。

チャリーン

不意に警察官の進行方向から何かが落ちる音、もっと言えばお金が落ちる音が聞こえてきた。

この場には警察官の彼しか居らず、ましてや展示物は絵画なのでパーツが落ちることも殆どないはず。

警察官は無線機を咄嗟に握り締めながらジリジリと壁により他の絵画を見る。

額縁は豪勢に装飾されており、どれもこれも金属であるようだった。

つまり、この装飾が落ちたと言うことなのだろう、と警察官は少し安堵した。

してしまった。

何が落ちたのか明日には報告しないと自分のせいになりそうだと思い、音の方向に進もうとした刹那、

ガツンッ!

頭を強い衝撃が襲い倒れ込んだ。

何事かと理解する前に無線機が誰かに取られ


「んんっ、んん、コホン、『異常なしです、どうぞ』」

「定時連絡受けました、と。1時間もしたら相棒帰ってくるんだからそれまでさぼるなよ」

「『了解です』」


聞こえてくる自分と同じ声が勝手に受け答えをしている。

そう感じた頃にはもう、警察官の意識は消え去っていた。


~~~~

「ふむ、予定時刻間近でもまだ侵入してくる気配さえありませんね……」


美術館内部を歩きながら探偵は考え込んでいた。

本来ならもっと大かがりな人数を要請したのだが、警察から来た人数は希望の半分程度。

それも優秀な人材は大半不可能というものだった。

明日、帝王主催の式典があり、そちらに軍人と警察を大量に割り振るからと言うのが理由だ。

王族が人前に出るのだからそれは分かることではあるが、それでも王族や大臣たちは怪盗騒ぎを軽く見ていることに探偵は歯痒い思いをしている。

探偵業を営むレギウス・ハールマットーは数千年前、人類に勝利をもたらした勇者一行の賢者の末裔だ。

レギウス自体も子供の頃から神童と呼ばれ、たいての物事は大人よりも上手くできて、イケメンで勇者一行唯一、未だに家柄が良い家系。

持って生まれる全てを持ち合わせていたとさえ言われる彼は、何かの役職に就けば充分な力を発揮するのが分かっていながら探偵という職についた。

理由は簡単、誰かに利用されない為だった。

何かしらの仕事をすれば、レギウスに頼めば解決すると持ってくる人も出てくるだろうし、甘い汁啜ろうと擦り寄ってくる輩も確実に増える。

故に彼は一人で事務所を起こした。

当初はそれでも国政相談などが来ていたが、それらを違法なレベルの金銭要求などをして断り、猫探しなどの市民からの依頼を優先し続けた。

結果、街の探偵として受け入れられたのだ。

大きな問題には取り合わず、小さな幸せを積み重ねよう、そう決めていた。

が、それでも賢者の血筋の何かがザワつき、無理言って怪盗を追う情報を警察から受け取っている。

こんな時はあの時少しぐらい恩を売っておけば、とも、思わないでもない所だが、嘆いた所で過去は変わらない。

レギウスは何故胸騒ぎがするのか、何故気になるのか、これらを解明する為に捕まえようと躍起になっているのだ。


「しかし…… 閑散としてしまっている。予定人数に達していないから内部の警護をずいぶん減らす必要があったとは言え、これでは侵入されてからは捕まえられない」


今のところ怪盗の被害は宝石を盗むだけにとどまっている。

しかも多くの場合に返されるのだ。

警察たちを嘲笑うかのように、民衆の娯楽たり得るように。

国が動かないのは被害がないからだ。

被害は警察は無能というレッテルが貼られるだけ。

レギウスとしては怪盗側を褒めるべきだと感じており、警察は頑張っていると評価はしているもの、体力自慢が多い警察では頭脳戦はダメなのも少なくない。

ならばと無償でやると手を挙げたレギウスが採用されたのも、警察の上層部はプライドを傷付けられたと怒り心頭だからだ。

それでも国には逆らえず、捻出して半分。

その頑張りを知っているからこそ、レギウスも表立っては不満は言えないでいる。

不意に隣の棟でチカチカと灯が点滅した。

何かの信号か暗号の可能性を即座に考えつつも、それは頭の中で否定した。


「(いくらなんでも短すぎるし、意図を含めても伝わるはずもない。何かの事故か…? あちらの塔からは目当てのところに行けないので警備自体はかなり手薄でしたね)」


誰かに確認を取らせて移動させては思う壺かもしれない、と考え、レギウスは自ら隣の棟に向かった。

この美術館は建物そのものも展示品の一つであり、この階からじゃないと移動できないなどの制約も多い。

メインの展示室は正面から回り込んで進むルート以外は存在しないのだ。

故に遠くのフロアや違う棟は手薄になってしまっている。

外を固めてまだ警察たちの動きはない。

侵入を許したか…?

弱気なことを考えた瞬間、物陰から一瞬だけ何かが出て引っ込んだ。

足元という下の方であったがレギウスは見逃さなかった。


「そこにいるのは誰です!」


咄嗟的にホルスターから抜いた銃を構えて物陰へと向ける。

レギウスの戦闘能力は人間の中でも強い方に分類されるのだが、射撃に関しては十指に入るとさえ言われている。

そんな凄腕でも物陰に撃ち込むなんて芸当はできない。

ジリジリと物陰から距離を取りつつ回り込み、物陰を覗こうとした刹那


「にゃーん」


真っ黒な猫が飛び出し、そのまま走り抜けて行ってしまった。

思わずその姿を見つめるレギウスだったが、ハッとしたように物陰に銃を構えて覗き込むが誰もいない。

偶然あの黒猫が迷い込み、偶然それを見てしまっただけなのか。

と思い猫が去った方を見るが、すでに猫の姿はない。

最も、黒猫だったから影に隠れれば視認し辛いものだから見つけられないだけかもしれない。

警戒心を説きつつ、力が入っていたのか肩が凝っていることに気がついた。


「ゆっくりとマッサージでも受けてのんびり過ごしたいですね」


肩をグルグル回しつつ猫が去った方とは逆の方向にまた歩み始めた。

隣の棟に移動するにはもう一階上がらなくてはならない。

階段はこの通路の途中にあり、その間に物陰やT字路はあるものの、長らく姿を隠して置けるような場所はない。

さっきの猫が妙に後ろ髪引かれるところではあったが、レギウスは歩みを止めず、階段を登っていった。

上の階は下と全く違う構造になっている。

と言うのも作った職人が全てのフロアが違うよう作っているからで、下の階ではフロアになっていても、上の階では壁しかないなんて事も多々ある。

ここに空間があったら侵入される可能性があるからと全て調べたが、部屋になっていない壁は中まではみっちりと作られていて空洞にはなっていないようだった。


「厄介な作り方してますよ。地図は… ありましたありました。えっと、隣の棟には…… 近そうですね」


道順的には道なりに進んだ後右に曲がるだけ。

展示は全て部屋の中のようで廊下は見晴らしがよく迷う心配はなさそうだ。

さっきの光の正体が何なのか、それを調べたら予告時間には間に合わないかもしれない。

が、それでもあれが何なのにハッキリさせておきたい、させて置かなければ気が気でないのだ。

歩き出したレギウスは丁度巡回していた警察の人が横から出てきた。


「あ、お疲れ様です」

「お疲れ様です! レギウスさんはこちらで何を?」

「中を巡回していましたら隣の棟で謎の点灯があったので確認を」


そう言うと警察官はバツが悪そうに後頭部をかいた。


「すみません、それ、うちの休憩所と言いますか、喫煙所として使ってるところだと思います。2回ぐらい点灯してませんでしたか?」

「ずっと見ていたわけではないので回数までは。でもそうですね、チカチカ、っとしてた気がします」

「ウチのバカが間違えて灯魔法道具を押してしまったんですよ。面目ないです」


怪盗とは無縁のことであった。

美術館ともなれば禁煙だろうから、人があまりこない所で隠れて吸っていたのだろう。

灯が漏れてたのも確かに外だった。

なるほど。と納得をして


「では、次からは気をつけてくださいね」

「はい、よく注意しておきました。では、私は見回りに戻ります」


ならば確認する必要はないな。

タバコを吸わない自分にとって、あれの何がいいかわからないが好きな人は手放せないと言うぐらいのものだ。

わざわざレギウスがそこに顔を出しに行けば警察官の人たちも気不味い雰囲気になるかも知れないと考え、レギウスは踵を返した。

問題がないのならば、時間を使って顔を出す事もないだろう、と。

腕に巻いた時刻を表す機器を見ると、予定時間が迫っていた。


「予告時間が近いですね。一度宝石を確認してみますか。急がないと遅れてしまいそうですが」


サファイアが展示されているのは中央棟一番奥の大広間。

その中央に展示されているが、周りには障害物さえない。

窓だってないし、ドアは一つだけ。

さらに強固な魔法ガラスで覆い、触るどころか近づけばあらゆるセンサーが反応して警鐘を鳴らす。

レギウスがサファイアを確認しにいくと言っても扉から眺めるだけしか出来ないのだ。

正直これだけで充分強固な気もしており、内部が少ないのは発見次第怪盗たちを美術館に閉じ込める為でもある。

しかし、怪盗は無理だと思われたものを盗んできたのだ。

何か策があるのかもしれない、とレギウスは足を早めてしまう。

予告時刻の2分前。

扉を開けてみても何も変化はなく、サファイアも置いてある。

扉を閉めて左右を見回す。

ここの警備は12名の猛者中の猛者を選び抜かれているのだ。

となればとりあえずは安泰かと思うも、レギウスはおかしなことに気づく。


「やあ君たち。確か12人だと聞いているけども、そちらの13人目は誰なんだい?」


そう言って指摘された警察官は帽子を深く被り表情が読めない。

いや、13人全員がそんな状態だった。

不意に一人が指を鳴らすと、12人が一斉にその場に倒れ込んだ。


「君は怪盗、だね」


帽子に手をかけ不適な笑みを口元だけ明かす。


「ようやく会えたよ。対面するのは初めてだね、僕はレギウス。君たちを捕まえる為に奔走している探偵さ。さて、ここからどうするのかな? 外の警察にはもう君たちの存在は通報してある。便利だよね、今やスイッチ一つで音声が送れるんだから」


怪盗は警察の制服の胸元あたりを掴むと早着替えの要領なのか、一瞬で脱ぎ捨てて目眩しの様にレギウスに投げつけた。

造作もなくかわせると思った瞬間、殺気を感じて横っ飛びをして大袈裟に避けた。

刹那、レギウスが立っていた場所を制服を貫通し通っていく三つの弾丸。

それぞれ足や肩を正確に撃ち抜く位置だった。

服を払っていたら身動きが取れなくされていたという事だった。

人を殺す気はない、正義でも気取っているのか、と思いつつ怪盗に視線を戻した。

否、怪盗に戻そうとしたが叶わなかった。

視線を上げた瞬間、レギウスは大量の煙に飲み込まれてしまったからだ。


「ぐっ、煙幕?」


しかし、意識が混濁していき思考が定まらない。

催眠ガスだ。


「しまっ…… でも…… 逃げられ……は…しな……」


ここで彼の意識はプッツリと途切れてしまった。



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