八杯目 ご本人登場。

「それよりも須佐。五箇山といえば、道真本人が登場するんだろう?」

「先生、ご存じ? そうなんだよね。富山県西部などでは、長男が誕生すると嫁の実家から菅原道真の肖像を贈るという習慣があってさ。正月になると、この木像や掛け軸を床の間に飾り、供え物をするんだよね」

「加賀藩が広めたものと言われているそうだが、不自然だよな」

「学問の神様だから拝みなさいって言われてもねえ。風習になって残るとは思えないでしょ」

 それならば、ご先祖様を祀っていたという方がしっくりくる。

「実際に恩恵もあった訳だしさ。養蚕と硝石でどこよりも豊かになった」

 天神社を造って祀ったという訳ではなく、家の中・・・に絵姿を飾ったというところが、妙にリアルだ。神様というよりも、もっと近しい存在だったのではないか。

「技術集団として土師氏の存在があったという部分は良いとして、堺商人の介在はどう説明する?」

「土師氏の存在とその技術を知り、堺の豪商達との橋渡しができる存在がいたのさ」

「それは誰かと尋ねたら?」

「答えは熱燗の後で!」

 また一本奢れってか。いい加減にしてくれよ――。


「あっちっち。これは酔っぱらうよ?」

「もう酔ってるだろうが。フィクサーの正体は誰なんだ?」

「ずばり! 千利休!」

「茶の湯の創始者がビジネス・コンサルタントをやってたってか?」

「出雲大社の祭祀を連綿と司ってきた一族がいる。千家氏せんげしと北島氏だ。勿論土師氏だよね。利休は千家氏の流れだろう」


『利休めはとかく果報のものぞかし 菅丞相かんしょうじょうになると思へば』とは晩年堺に追放された際に、利休が詠んだ歌である。菅丞相とは無論、右大臣菅原道真のことを指す。


「先祖に対する崇拝の念を持っていたと考えるのが自然だろうさ」

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