第4話 魔王の子
魔大陸の空は厚い雲と瘴気に覆われており滅多に日が差すことがない。
また大気中のマナが濃く、この環境に適応した生物は魔物と呼ばれている。
あるいは魔族もこの環境に適応した人類の進化系なのかもしれない。
「あなたは誰? どうして人間がここにいるの?」
「私の名はジョン・ダンジョルノ。先日任命されたダンジョン建設特別顧問です」
背後から向けられた冷たい刃がジョンの首筋に当たる。
その状況においてあくまでも冷静なジョンを見て声の主はふっと微笑んで剣を下げた。
「この状況で眉一つ動かさないなんて……驚きを通り越して不愉快だわ!」
一閃、振り抜かれた刃はジョンの首と胴体一瞬で切り離した。
「覚えておきなさい。魔王の次女ラーミナは大の人間嫌いだとね」
剣を収めたラーミナは立ち去ろうとしてあることに気づく。
首を切り離されたはずの死体がその場所に倒れることなく立っている。
「どういうこと?」
次の瞬間その首無き肉体はラーミナの方へと振り向くとその場に跪いたのだ。
首の切り口からは青い炎が燃え上がりそして……。
「……あなた本当に人間なの?」
切り落とされたはずの首が元通り復活した。
「申し訳ございません。姫様とは知らずとんだ御無礼を……」
「そんなことはどうでもいいわ。私の質問に答えなさい」
「間違いなく人間ですよ姫様。ただちょっと不死身ですが」
不死身という言葉を聞いてラーミナは眉をひそめた。
「つまりお父様は不死身のあなたを恐れて味方に引き入れたと?」
「それは違います姫様。私を殺すことはできずとも捕らえることなら魔王様であれば容易にできます。見ての通り不死身ですがそれ以外は並の人間と大差ありませんから」
「……まあ今はその言葉を信じてあげる。ただし少しでも変な動きをしたら私が捕まえて張り付けにして一生拷問してあげるわ」
「肝に銘じておきます」
「それと知らないようだから教えといてあげる。この城には私を含め魔王の子が五人いるけれど、特に長女のアンブラ姉様と長男のレクス兄様だけは決して怒らせてはだめよ」
「アンブラ様とレクス様ですね。承知致しました。それにしても……」
今まで跪き頭を垂れていたジョンはこの時初めて顔を上げラーミナを見た。
ルビーのように赤く美しい長髪に黒曜石のような黒い二本の角、そしてこちらを見据える金色の瞳。
「なによ」
「わざわざご忠告頂けるとは、姫様はお優しいのですね」
そう言って微笑んだジョンを見てラーミナは顔をしかめた。
「勘違いしないで。あの二人を怒らせたら本当に大変なことになるのよ。思い出しただけでも恐ろしい……もしあの二人に会ったらすぐにでも跪いて許しがあるまで顔を上げちゃだめだからね」
「かしこまりました。ちなみにあとのお二方というのはどのような方なのでしょうか。差し支えなければお教え頂きたく……」
「次男のグラキエスは愛想のないムカつくやつだから無視していいわ。三女のラピスは……もし危害を加えたらアンブラ姉様とレクス兄様、それに私の怒りを買うことになるでしょうね」
(三女のラピス様は随分と溺愛されているようだな。それに対してグラキエス様とラーミナ様はあまり仲が宜しくないようだ)
ラーミナの言葉から魔王の子供達の関係性が見えてきたものの、その能力に関しては未知数だった。
「まあ忠告はしたから、もう行っていいわよ。それとこれからは姫様じゃなくてラーミナ様って呼びなさい」
「はい、ラーミナ様。失礼致します」
ジョンは深々と礼をしてその場を後にしたのだった。
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