第2話 不死身の冒険家

 ジョン・ダンジョルノ、彼は過去多くのダンジョンを踏破してきた。

 魔大陸のダンジョンを最初に踏破したのも何を隠そうこのジョン・ダンジョルノである。


「魔王様、この者はなんとたった一人でこの魔王城に乗り込んできたのでございます。しかも聞けばあの悲鳴の森、霧の洞窟を最初に踏破したのもこの男だとか」

「その通りでございます! そしてこの際はっきり申しましょう。あの二つのダンジョン、このジョン・ダンジョルノの踏破した数多くのダンジョンの中で歴代ワースト1、2位を争う程の酷いものでありました」

「それ程までに酷いのか……」

「はい、それ程までに酷いのでございます」

 魔王は呆れ果てて王座に崩れ落ちた。

「それで、具体的にはどう酷いのだ」

「まずその構造、一本道で迷う余地が無く、また装飾もただ豪華なだけでメリハリがない! オマケに出てくるモンスターはどちらのダンジョンも全く同じという手抜きっぷり! いくらゾンビが作りやすいからと言って毎回それでは手応えがない!」

「ぐうの音も出ないとはこのことか……。それでダンジョルノとやら、人間のお主がなぜ我が魔王城に? ここが敵地であると理解はしていような」

「もちろん理解しています。ここに来るまでに幾度も魔王軍からの攻撃にあいましたので」

 ジョンは涼しい顔でそう言ってのけると懐からナイフを取り出した。

「ですが私はこうも言いました。不死身の冒険家、ジョン・ダンジョルノであると!」

 次の瞬間ジョンは手に持ったナイフでもう片方の手の人差し指を勢いよく切り落とした。

「なんのつもりだ!」

 突然の事態に驚く魔王とは対象的にジョンはまるで何事もなかったかのように落ち着いている。

「不死身というのは決して比喩ではないのですよ」

 切り落とされた指はまるで燃え尽きた炭のように白くなるとそのまま崩れ落ち跡形もなく霧散した。

 そして指を切り落とした傷口からは青い炎が燃え上がり、炎が燃え尽きる頃には元の指と全く同じ物がそこに生えていた。

「再生能力か」

「この力の正体は私もよく分かりません。以前とあるダンジョンを踏破した際、私はその最深部で古代の遺物を発見しました」

 このくらいの大きさのとジョンは指でジェスチャーしてみせた。

「私は直感的にその遺物の使い方を理解しました。周りの制止も聞かず私はその遺物を自分の心臓に突き立てたのです」

「まともな人間であればできることではあるまい」

「そう私は狂っていたのです。ダンジョンの魅力に取り憑かれ、自らの冒険欲を満たすことしか私の頭にはなかったのです。私の体は炎に包まれ、そして再誕した! 人を超越した不死身の冒険家として!」

 魔王軍はジョンの歩みを止めようと幾度も攻撃をしかけた。

 しかし不死身の男の前にその全ては徒労に終わったのだ。

「お主がどうやってここに来たのか、想像がついたわ。だが手段は理解できてもなぜ単身乗り込んできたのか、その理由が分からん」

「魔大陸に上陸した時私はこの溢れる冒険欲を満たしてくれるダンジョンがここにならきっとあるはずだと信じて疑いませんでした。ところが実際に訪れたダンジョンは拍子抜けもいいところ、その時私は思いついたのです。もうこの世界に私を満たしてくれるダンジョンがないのなら自らの手で作れば良いと!」

 ジョンは魔王の前に恭しく跪いた。

「そしてそれを成すには魔王様、この魔大陸を支配するあなたのお力添えが必要であると、愚かな私めはそう思ったのであります」

「愚かな冒険家よ、吾輩が何のためにダンジョンを作っているのか理解しておろうな」

「はい、人間を捕らえる為だとか」

「つまり吾輩に手を貸せばお主は人間共の敵になるということだぞ」

「それでも、いつか私のように冒険欲に溢れた者が踏破すると信じておりますゆえ」

「人類という種の為ではなくあくまで冒険家としての生き様に殉じるか。面白い、ならばお主、ジョン・ダンジョルノをダンジョン建築特別顧問に任命する!」

「謹んでお受けいたします。このジョン・ダンジョルノ、必ずや魔王様のお役に立ってみせましょう!」

 こうして冒険家ジョン・ダンジョルノはダンジョン建築家としての新たな一歩を踏み出すのだった。

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