第7話 楽しいこと【僕side】
僕は何のエピソードを話そうか……。思ってた以上に飛び越えるハードルは高くなってるし。あれしかないか……。
「えっとねー、高校面接のときに面接官の人に『最近、なにか新しく夢中になったものはありますか?』って聞かれたんだけど、これっていうものがなかったんだよねー。でも何か言わなきゃと思って、そのとき急に友達がダジャレ言ってて笑ってたなって思って、『ダジャレに少しハマりました。例えば内臓がないぞうとか、タンス買いに行ったんすとかが好きです』って言ったら面接官が少しニヤニヤしたんだよ」
「それ、傑作だよ!」
「なにそれ、世、勇気ありすぎー!」
「笑いが止まらない。面接でしょー」
皆口々にそう言って笑っていた。こんなにもうけるとは少しも思ってなかった。なんか少し顔がりんご色になってる気がする。
「例出さなくてよかったでしょー」
「いや、だって例は出したほうがいいって先生とか色んな人に言われたし。一応真面目に答えたんだから!」
頼希の言う通り例は出さなくてもよかったのかもしれないが、そのときの僕は面接という体験したことのないことに体が凍りつくぐらい緊張していた。だからAIみたいに判断できなかったんだと思う。でも、面接終わった後はなに言っちゃったんだろうって何回も何回も思った。たぶん面接でダジャレ言ったのは僕ぐらいだろう。
「もう優勝は
蒼佳さんはもうこれしか選択肢がないよという感じで僕を指差ししながらそう言った。
「うん、決まりだな」
「うん、世くんで」
ということで僕が一番にドーナッツを選ぶ権利が与えられた。んーやっぱここはポンデリングだな。ミスドの王者的存在の。
2位以下は面白いエピソードでは勝敗がつかなかったため、結局じゃんけんで決めることになり(さっきの面白いエピソードはやる必要あったんだろうか? まあ面白かったからいいけど)、2位の月さんがオールドファッション、3位の蒼佳さんがハニーディップ、4位の頼希がストロベリーリングをそれぞれ食べることになった。
最下位の頼希は少し落ち込んでるのかなと思ったけど、ストロベリーリングが好きだったみたいでテストでいい点を取ったときのようにご機嫌だった。とは言ってもミスドは全部美味しい。
「でもさー、世くんよかったね。この高校に入れて。あの面接は後世に受け継がれるね!」
「いや、月さん。それは……」
確かにこの高校に(なんとか?)入ることができて今思えばよかったなと思う。この高校にいなきゃ支えてくれる人――三織とともに生きてくことなんかできなかったと思うし。でも、受け継がれるのはお断りだ。
「まあ、食べよう」
月さんがそう言ってオールドファッションを取った。僕もポンデリングを取る。やはりおいしい。昨日よりもちゃんと味わえている気がする。おいしいものをいつも通り食べれるのってこんな嬉しかったんだ。
「やっぱおいしいよね!」
「うん」
月さんがオールドファッションのチョコを少し顔につけながら桜が咲いたときのような華やかさでそう言った。
「そういえば、これ誰が買ってきたの?」
ふと疑問に思い、ポンデリングを食べながら皆に聞く。
「私です。さっき買ってきたの」
蒼佳さんが手を挙げてアピールするようにそう言う。
「あ、ありがとうございます」
蒼佳さんの方を向いて僕は改まった感じでお礼を言う。
「別に改まらなくても、1つ100円ちょっとで買えるし」
確かにミスドのドーナツは1つ100円少しで買えるけど、蒼佳さんはそういう方なのか。
「そういえば世、昨日よりなんか元気いいよな。ここ3日間くらい元気なかったけど」
頼希にそう言われて心の中の引き出しが思わず開いてしまいそうになる。確かに昨日までの3日間水がなくカラカラだけど、でも何とか耐え抜こうとしていた花のようだったかもしれない。今日もいつも通り100パーセントとはいかないけど、少しずつそれに近づいているんだろう。三織が側にいてくれるから。
「まあ、少しいいことあってさ」
「よかったな、楽しまない人生より、楽しむ人生のほうが百倍いいもんな」
「そうだよな」
頼希の言う通りだなと僕は強く思う。
「私は人生楽しみすぎてるなー」
「私も」
月さんと蒼佳さんはこの世界にある雲でも掴むかのような口調で、呟くように言った。そんな2人に僕はなんとなく憧れる。でも、それは自分次第で叶うんだろう。自分で幸せは掴まないとな。
「ねー、トランプしない?」
月さんは皆がドーナツを食べ終えた頃、カバンからトランプを出して皆にそう誘ってきた。
「いいね」
「やろやろ!」
「そうだね」
月さんが七並べを提案したので、月さんの提案通り七並べをすることにした。頼希がトランプを切ったあと、皆に分けていく。全部のトランプが渡ると、僕は他の人に見えないように表にした。えっと、スペードの1と、クローバーの7……。おっと7! 僕は海岸で1つだけ輝く不思議な貝を見つけたかのようにそれを取って、机の真ん中にそれを置いた。
「あ、世、7あったのか」
「うん、あったみたい」
その後も僕のトランプの中からダイヤの7、スペードの7、ハートの7が発掘された。これは偶然か? それとも何かが舞い降りてきた?
「なんか世くんずるーい!」
蒼佳さんが僕の方を向いてそう言う。
「ま、運だからさ」
僕が何って言おうか少し困っていると月さんが僕をかばうように(?)そう言ってくれた。
「なんか、ハートが俺、やけに多い」
「なんか私もハート多いな。蒼佳は?」
「私は意外と均等かなー。っていうか2人ともそれ言っちゃって大丈夫? 戦術考えられちゃうかもだよ」
「確かに」
蒼佳さんにそう言われて頼希と月さんの声が「せーの」と言って合わせたかのようにハモる。僕は特に今の2人のことを聞いて特別戦術を考えるとかはないけど、蒼佳さんはやるのかもしれない。
「じゃあ、やろうか!」
皆が準備をし終えると一番枚数の少ない僕からスタートすることになった。まずはあまり考えずにクローバーの6を出す。
「えっと、次は私か」
次に僕の前にいた蒼佳さんが、ダイヤの6を置く。
「よーし、あがり!」
最後にダイヤの1を出して僕はあがった(まあ、僕が一番枚数少なかったからそれはそうなんだろうけど)。でも、少し勝負に勝てたことは視野が広くなった気持ちになる。
「よし、私もあがり!」
蒼佳さんも僕の次にあがった。あとは頼希と月さんの戦い。2人の残りも枚数はどちらも2枚。次は頼希のターン。
「よし!」
頼希がクローバーの1を出す。そのときラインの着信音がかすかに鳴った。多分この音は僕のポケットの中から。戦いの邪魔にならないように確認すると、三織からだった。
『世、今日の夕飯、ハンバーグでもいい? 初日だから少し豪華にするから楽しみにしてて!』
こういうことを聞いてくるのも三織らしい。
『うん。作ってくれるならなんでもありがたくいただきます!』
僕はこう返信しておく。
「あ、パス!」
頼希がほしかった漫画が売り切れていたかのように悔しがりながらそう言う。いつの間にか月さんが置いていたようだ。
「よし勝った!」
「くっそ〜!」
1人は子供のように嬉しがっていて、1人は子供のように悔しがっていた。
「ということで1位は世くんで、2位は私で、3位は月ちゃん、4位は頼希くん! 次は皆でババ抜きしない?」
「そうだね!」
「今度は俺が1位だからな!」
ババ抜きを開始する。ババ抜きの結果は宣言通り頼希が1位、で僕が2位、月さん3位、蒼佳さん4位という結果になった。
ただ話すだけの会でトランプが終わった後も色々と雑談し、午後6時半過ぎに学校を出た。
その後一旦自分の家に帰って、三織の家に持っていく荷物などを取りに行ったあと、三織の家に行く。でも、不思議だな。三織の家に行くなんて……。なんなんだろう、僕の世界は。
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