第3話 日常
ひんやりそした感覚で目が覚める。布団をまくると中が汗でビシャビシャになっていた。
うわっ!と、飛び布団から飛び起きた。
...寝起きから気分が悪いな~...
直ぐに、濡れたパジャマを脱ぎ捨て直ぐに着替える。毛布や敷布団を洗濯機に放り込むといつも通り身支度を整え台所に移動する。台所には葉子の姿は見えない。テーブルには朝食とその横に置手紙があった。
『先に仕事行きます。ちゃんと食器は片づけてから家を出てください。鍵も忘れずにね』
隼人は、置手紙を手に取るとグシャッと丸めてごみ箱に放り投げる。
分かってるよ、そう不貞腐れるながら、席に着き朝食をとる。食べ終わると、戸締りをして家を後にするのだった。
夏の猛暑をかかいくぐり、やっと
ゴシャ
教科書を入れようとすると何かがつっかえた。恐る恐る机の中からに手を突っ込むと何かが出てきた。中にを除くと大量のゴミが中に詰まっていた。悪臭に鼻がつんざく。
...え、なにこれ....
周りを見渡すと、誰もかれも気にしてないようなそぶりを見せる。中には薄ら笑いをしている人もいた。
隼人は、やるせない思いを堪えつつ、ただ一人ゴミ箱を持ってきて中身を、ゴミ箱に移す。
「なにあれどうしたの、キモ」
「あれだよ、昨日の写真のやつでしょ」
「ああ、あれね」
「うん、マジでキショいよね」
「友達じゃなくてよかったわ~」
何やら遠くで訳の分からない噂が広まっているらしい。
隼人は、雑巾で中の汚れを拭き取るといつも通り教科書を中に入れた。
「おいおい、そんなきったねえところに物入れてんじゃねえよ」
横からニヤニヤといけ好かない表情をした、
隼人にとって、最も会いたくないやつが来てしてまった。
「なにお前、そんなことされてんの。笑うわ〜」
...うるさい...
「それでさ、帰ったらお前親に泣きつくんだろ、ママ〜、ママ〜、って抱き着いてびーびー泣くんだろ」
亮介は、笑いながら隼人をいじる。
クラスメイトも笑い声を堪えながら2人のやり取りをまるで観察するかのように見る。
隼人自身、マザコン呼ばわりされる理由などない。葉子が過度に心配性なため、隼人の忘れ物をわざわざ学校まで送り届けてくるのだ。それが、学校中に広まると、こうもたちが悪くなるなんて。こっちからしたら恥ずかしくてたまったもんじゃない。
隼人は、奥歯を強く噛んで何とか内なる激情を抑える。
...堪えろ、今ここで問題沙汰ををこせば、自分にも親にも迷惑かける。それだけは避けろ...
そう自分に言い聞かせる。そうでもしなければ今すぐにでも手が出ているところだ。
幸い今日女神様はお休みだ。隼人自身こんなところ見られたら、赤っ恥もいいところなのでいなくて良かったと内心少しホッとした。
キーンコーンカーンコーン
「ほら席に着け~」
チャイムと同時に数学担当兼担任の
「ん?どうした」
「いえ何でもないです」
亮介はふん、と見下した様に鼻を鳴らすと教室を出ていった。
...はぁ、しかし誰がやったんだろこれ...
俺恨みを買うことやったかな?そう思考を巡らせること数秒後、
...あ、もしかして昨日の事か?!...
あれか~やっちまったと、一人頭を抱え後悔した。
「はいじゃあここまでがテスト範囲なので、皆さんしっかりやっておいてください。係の人はこの後ノートを配っておいてください」
隼人は数学の係なので先生からノートを受け取るとそれぞれに、ノートを配る。
今朝の一件で嫌がられるかと思いきやクラスメイトはそんな反応はなく、気にする素振りもなかった。だが、それが彼にとってより不安を煽り、周囲の環境をより一層敏感に感じっとってしまう。
...ザ〇?....
隼人は、自分の好きなことにはとことん夢中になるタイプだ。それ故に、あるが興味のある単語があると無意識に反応してしまう。
聞こえた方に目を移すと女子3人が机を囲って座っていた。隼人は机を囲って座っている女子の一人にノートを手渡す。
「はい、日野さんノートです」
「ありがとう」
「なんの話してるの?」
「ああ、アニメの話だよ」
「へぇ~、どんな奴の?」
「今ほら、ガン〇ムさテレビでやってるじゃん。それ」
「なるほど!どう、面白い?」
「それなりって感じ~。でも少し面白いかも」
「やっぱりそう思うよね。特にさ、」
「うん、そろそろ、ほら移動教室だからね、準備して行こう」
そう言うと日野と他二人は荷物をまとめて、教室を出て行ってしまった。
隼人は、ただ一人しょんぼり俯くとしてノート配りに戻る。
――――――――――――――――――――――
「
「ん?なんで」
「いやだって、話の途中だったし」
日和は、チラッと隼人を見つめる。
「え~、だってそもそも、篠崎と話してもつまんないしさ、私と彼って友達じゃないじゃん。それに、ほらあいつマザコンでしょ」
「うわ~、日和ちゃん性格悪!」
「そう言って付いてきたあんたらも同じじゃん」
きゃははははは、と甲高い笑い声が廊下に響く。
...嫌われてんな~、俺...
クラスの雰囲気と周りの自分に対する思いのギャップにまたもや打ちのめされる。
ノートを配り終わると誰もいない教室を後に一人、移動するのだった。
「お前、良くあんなクラスで我慢できるよな」
ウィンナーを口に運びながら啓は、呆れたように嘆く。
「ん?」
隼人はそんなこと気にしてないかの様に弁当から視線を移した。
「ん?じゃなくてさ~、お前のクラスは少し変わってるよ。少なくともこっちよりかわ」
隼人はそんな啓の心配を他所に昼食をムシャムシャと口に運ぶ。
「聞いてる?」
「ああ~、濃い人が多いよね。うん、胸肉をバジルで味付けしたのは正解だった」
啓は大丈夫かよと、ため息をつく。
「みんな、俺に興味がないんだよ。だから、あれだけのことがクラスでできるんだよ」
「だからって、あれはないだろ。それに相馬が、俺のクラスでその話しててびっくりしたわ」
...そんなこと、言いふらして何の得があるんやら...
「先生に相談した?」
「したって、意味がないのは俺が良く分かってる」
以前、集団リンチされた事があった時、担任の先生に何度も相談を持ち掛けたが、やったのは精々相手との話し合いだけで無理やり和解にしただけ。その後の、対応策などは一切なし。
当時隼人は、それだけ!と困惑し親と相談して学校側に、問い合わせるも軽くあしらわれてしまった。母親である葉子は、当然ブチ切れてしまい学校側に苦情をだしたそうな。
これを、多分世間でこれをはいじめととらえるのが普通なのだろう。
「それに、先生はそういうのめんどくさそうだったから」
「終わってんな~」
啓は、カカッと白米を平らげる
「まあ、そんなクラスにいる俺も終わってんだろうな」
「そんなことねぇと思うがな」
「あんがと~」
そんなのんきな返事が空の教室に反響した。
ホームルームが終わり、下校時間になると隼人は一人図書室に向かった。
中に入り目の前の新刊コーナーに手を伸ばす。隼人の学校は月に2回新刊が発行される。恋愛に、ミステリー、純文学など多種多様な本が入るが、中でも特徴的なのはライトノベルが入荷されることだろう。発行が古い物から最新の物まで幅広く取り揃えてある。なにせ、灼〇のシ〇ナが全巻揃っているのは驚いた。他にもS〇Oや、こ〇すばなど人気作は、ほとんどあるのでオタクにとっては夢のような場所だろう。
だが、そんな場所であっても放課後は人気はなく、使われても委員会で会議場として使用されるぐらいだ。
なんともったいないと、隼人は思う。こんな場所を無料で提供してくれる学校には感謝しかなかった。
「隼人君、こっちこっち」
声の方に目を見やるとかカウンターからポーニーテールに眼鏡の図書委員、
「今日ね、凄いの入ってるよ」
そう言い横のダンボールをポンポンと叩いた。
隼人は、目を輝かせながら傍に駆け寄った。
「何が入ったの?」
「んふふふ、何でしょーか」
いじらしくにやけながらハサミで開封した。
「はい、今月の入荷物はこれです」
箱を開けると厚み2cmあるであろう本が敷き詰められていた。
「新刊は、境〇線上のホ〇イ〇ンでした~」
「まじかよ」
1000ぺージ越えの鈍器だった。
「良く審査通ったね」
世界史、日本史を題材とした物語で話自体はとても面白い。だが問題は絵柄だ。ライトノベの中身や表紙には、際どいデザインのキャラが載っている物も少なくない。ましてや、これは本によってキャラクターの服装からしても学校の規制ラインを突き抜けるどころかなかったことにするレベルでやばいシーンがある。
...教育委員会に出したら即却下だろな...
「うちの学校はそういうのゆるゆるだからね~」
「たしかに」
「部活は?」
「今日は休み。だから来たの」
「そっか。なら男子には力仕事をしてもらおうかな」
「ん?」
「これを棚に置くの手伝って」
沙穂は重たそうにダンボールを台車に乗せた。
「全然いいよ」
隼人の返事に沙穂は微笑を浮かべ、二人は作業に入った。
本棚には、ラノベがずらり、並べており、
「園田さんっていつも、他の役委員の人いないの?」
「放課後は皆帰ってるよ。だって、こんなことやりたい人がいると思うかい」
「いたら、ここにはいないでしょ」
「確かに。あ、それは左の棚にお願い」
沙穂から手渡された本を隼人は、本棚に並べていく。
「その分楽よ。自分なりのやり方でできるし、何より人が来ない分本は読み放題」
「一応本を借りる人いるんでしょ」
「1週間で10人くらいかな」
「いるじゃん」
「少ないよ。だから暇なわけで、そういう時に君みたいな話し相手が来てくれるのは私としてはとても嬉しいのだよ」
「そりゃどーも」
「でさでさ、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「なに?」
「いつから、神薙さんのこと好きなの」
「」
唐突な問いに手から本が滑って角が脳天を突いた。
「あぁぁぁ!いってぇぇぇ!」
「ハハハ、大丈夫?」
「だいじょばないです」
余りの痛さに患部を抑えた。ジンジンと響く痛みに涙がホロッと零れた。
「急にどうしたの?」
「いや、前々から気になってたから聞いてみたのよ」
今までそこまで気にしないように意識はしてきたはずだ。それも目では追うことすら避けて視界に入った時にだけ見るようにはしていた。
「い、いや、俺は別に好きじゃねぇーし」
「別にはぐらかさなくてもいいのに。私の観察眼舐めない方がいいよ~。これでも、人間観察はしてきた方だし」
ニヤニヤこちらを見つめる沙穂に隼人は少し恐怖した。
...この感じからするとバレてるな...
「まじか」
「去年からね~。その感じだと、どうやら当たりだね」
「勘弁してくれ」
「で、実際どうなの?」
「それは~」
目をキラキラさせて寄ってくる彼女を、両手で静止しながら隼人は答えた。
「今は憧れであって、同じ壇上にいる人じゃないよ」
「ふ~ん、てことは前は仲良かったんだ」
「もう話さなくなっちゃったけど」
「そう、でも面識があるならそれだけでも可能性は
「うん」
「他に進展はないの?」
「・・・」
ここで、昨日の事を話してしまうの流石に喋りすぎだろう。だが、バレるのも時間の問題だ。そう思うと自然と口が開いた。
「じ、実はさ」
隼人は昨日の出来事を沙穂に話した。
「アッハハハハハハ!」
「ちょ!何で、笑うことないだろ」
彼女は腹を抱えて笑った。内心ムッとしたが彼女らしい反応に反論する気がうせてしまう。
「いや~、ゴメンゴメン」
沙穂は涙を拭い隼人に向き直った。
「いやぁ~今までの浮き沈みをなかったかのような展開は初めてだ」
「そっか。実はさタイミング的に言おうか迷ってさ」
「なるほどね。だけど、それなら何も問題ないじゃん」
彼女は軽く両腕を組んで隼人に
「というと?」
「だって、女の子から誘われるなんてほぼ100パーセント脈ありじゃん。恋愛経験ない私だってわかるわよ」
「やっぱり、そうなのか?」
「当然よ。この年で駆け引きできるような女子がいたら怖いわ」
恋愛ド素人の隼人には良く分からないが可能性は十分あり得るのだろう。
「だから自分を信じていってみなさいよ」
彼女は肩をポンポンをと叩いて隼人を激励する。隼人自身多少の不安は残るが、少し気が楽になったのは、嬉しかった。
「わかった、やってみる」
「うんうん、それでさもし付き合うことが出来たらさ」
沙穂はグイっと隼人に近寄よると小声で呟いた。
「経過報告してくんない、いいネタになるから(できれば事細かく)」
「小説仲間でそんな頼みされたの初めてだわ。て言うか誰がやるか!」
「えぇ~、今度の同人誌のいいネタになると思ったのに~」
「人の恋路をなんだと思ってんだ」
「良質なネタ?」
「プライバシーって言葉知ってますか」
「ん~?」
沙穂は舌をちょっと出してはぐらかすように明後日の方向に視線を向けた。これには、ため息一つ零れてしまうということだ。
「でも、これは付き合えたらの話だからね」
「分かってるって、て!。え、いいの?」
「ダメに決まってるでしょうが!」
「え~~~」
わざとらしく残念そがるそのリアクションに、コノヤローと腹立つが何故か嫌いになれないのは自身が彼女を信頼している証拠だろう。
そんなこんなで2人で愉快な会話しているうちにいつの間にかダンボールの中身は空っぽになっていた。
「あら、いつの間に」
「時間が過ぎるのは早いね」
時刻も30分近く経過して外も多少夕日が濃くなっている。
「それじゃ今日の業務は終わりね」
沙穂は空になったダンボールを重ね台車に重ねていく。
「え、もういいの。他に手伝う事とかない?」
「うん、今日はもうないかな。後は自分の仕事だけだしね」
「そっか、わかった。何かあったらまた読んで」
「いいえ、どうも」
ありがとうね~っと一声添えると彼女は、台車と共にカウンターに戻っていった。
スマホで時刻を確認するとまだ閉館時間までには余裕がある。隼人は早速入荷された本を手に取ると、時間ギリギリまで物語の世界に浸るのだった。
キーンコーンカーンコーン
下校時間のチャイムが響くと机に積まれた本を横目に身支度を整える。本を棚に戻すと、一声かけるためにカウンターに向かった。
「今日はこれで帰るわ」
「うん、お疲れ~。後で経過報告お願いね」
「気が向いたらね」
隼人は手をひらひらと返して図書室を後にした。
―――――――――――――――――――
隼人が図書室を後にして、静まり返った部屋に浸りながら沙穂は椅子に深々と腰を掛け、背もたれを預ける。この静けさが心の栄養になる。それにスパイスとして、話し相手をつけるのが自身の楽しみなのだ。
「フフフ~」
本で口元を隠すように覆うと、先の会話が頭をよぎった。
「そっかそっか、思い人がいるのか~」
恋愛物語でも似たようなシチュエーションを良くあるが、いざ現実でその物語が展開されていることにとても興奮してしまうのだ。
少なくとも、自分もその登場人物の一人であることに気づいたのは最近の事だった。
時刻は午後18時過ぎだ。そろそろ東門が締まるころだろう。丁度駐輪場と東門は隣り合わせになっているので、早く出ないと正門から出る羽目になる。
「か~えろ~っと」
そう言うと空やかな足取りで図書室を出たのだった。
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