プロローグ 8
「発射まで10秒前」
現在母艦ラビロンは、発射体勢に入っている。それは、地面に対して垂直な体制になっていて、まるでクジラがうなぎ上りしているかのようだ。
艦内は重力制御によって、保たれているので艦がどんなに傾いても内部が被害にあうことはない。
この作戦が康彦にとって、最後の賭けなのだ。これが失敗すれば人類が今後復活するのは事実上不可能になってしまう。
「発射5秒前、3,2、1、リフトオフ」
ラビロンは、急激な加速をかけ徐々に上昇していく。
キィーーーーーーン
突如として甲高い耳鳴りが泰彦を襲った。耳鳴りは徐々に強さを増していき、脳全体に痛みが走った。余の痛さに目眩までしてしまう。机にしがみつき何とか、倒れないよう堪える。
「ぐぅぅぅ」
他のスタッフにもその耳鳴りは聞こえているらしく、耐えられないものは、耳を抑さえて地面にうずくまっている。
「何が起こってる!」
「分かりません。ただ、地上から強力な複合周波数が流れています!」
...なんだって!...
ボン!
何かがはじけた音がした。視線を向けると全身義体者のスタッフが突然倒れた。皮膚の隙間からは、煙が上がっている。ショートしたのだ。あの感じだと脳が焼き切れてしまっているだろう。
「がぼぉあ!」
それに続く様に、他のスタッフも耳や目、鼻口から次々と血が噴き出しバタバタと倒れていった。
泰彦は、直ぐに机の下にある緊急生命維持システムの赤いカバーを外し緊急医療用ナノマシンを投与する。
「一ノ瀬さん!生きてますか!」
康彦は、一ノ瀬のいる席に目を向ける。しかし、そこには血だらけの彼女が机に突っ伏していた。もうすでに手遅れだった。
泰彦は、投与しながら艦内すべてに放送を発した。
「各員!付近の緊急生命維持システムを使用してください!」
ブリッジで生き残っているのは、自分を含めて他にはいなかった。
『残り20秒で地上に到達します』
「地上到達と同時に迎撃システム起動。そのまま、リフトで目的地まで
『了解』
そう言ってサポートAIのイドに指示を出す。迎撃システムを起動させながらの
「この被害から察するに地上の兵は全滅したと考えるのが、予想着きますね」
上の状況から
『地上到達まで残り10秒...9...8...7...』
耳鳴りも弱まり、ナノマシンの投与剤を投げ捨てる。ふらつく体を無理やり起こすした。人類のため皆の思いを胸にサイネリア副所長 宮田安彦は、外の世界に飛び出した。
『3...2...1...到達』
数年ぶりの外の世界。そこには青空ではなく、そこら中に
『特殊戦術強化兵、90名の信号を確認しましたが各隊全員シグナルロストです』
即座に迎撃システムが起動し、方向反転まで完了する。後は座標に向かって
「よし!このまま―」
『警告、上方より高熱源接近』
「!?」
ドカァーーーン
直後、上方から何かの直撃を受けた。
「状況報告を!!」
『上空より、エネルギー兵器による直撃を受けました』
「そんな!」
『警告。
「くっ!」
外部からは集中砲火を受けており外から見ればラビロンはもうボロボロだ。投擲型マイクロミサイルが艦内を次々と破壊していく。
内部のカメラで艦内を確認する。そこには”蹂躙”があった。それはまるで荒波の様に鮮血が飛び散っていた。ある者はハチの巣にされ、ある者は切り刻まれ、ある者は粉砕され、その血の波はうねりを増していく。
バァン!
ドアが爆発し、その波の主たちはこのブリッジにまで押し寄せた。
煙の中から赤い光が3つ。煙から
「宮田泰彦確認。これより殺傷処分する。抗ったものとして言い残すことはないか?」
人間の声に似た電子音がその空間に響いた。
「これが君たちの答えなのか?君たちが人間を許さないのは、分かってる.
だがこれは、余りにも間違っている。こんな事が答えなのか!」
泰彦は、心の底にある本音を機械にまきちらした。
すると、ブツン、と音声変更が入った。
『そう、これが私の答えだ』
「!?」
康彦は驚愕した。その声は、まるで人間のような声だったのだから。
次の瞬間、銃声と同時にラビロンは、爆発と共に辺り一帯を自ら溶鉱炉に変えたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
真っ暗な世界、だが少し赤色の線のようなものが空間に走っている。
『敵母艦破壊確認』
女性の電子音声が響いた。
「いや、あの爆発は軽いな。あの大きさなら一帯が消し飛んでいる」
後から来た男性の声に女性の電子音声は返答を返さない。男性は顎に手を当て少し思考を巡らせる。
「磁場を確認しろ。 ダイブした可能性がある。座標によっては予定通り計画を第二段階に移行する」
『了解、解析します』
しばらくして、解析結果が来た。
『座標特定完了。M04P21 2023年7月。基準値調整完了次第ダイブ可能』
「...そうか。エネルギー充填並びに各兵装が整い次第ダイブしろ 」
『了解』
『10秒後エネルギー充填完了します』
「ああ」
システムによって、ありとあらゆる準備が同時並行で進んでゆく。10秒などかかる間などなく全工程が終了し、エネルギー充填のおかげで3秒も余ってしまった。
『充填完了。座標固定完了。いつでも行けます』
「よし」
男性はそういうと椅子から立ち上がる。するとライト付きがあたり一帯を照らした。男性を中心に無数の
『これより殲滅戦を開始する。では、諸君、地球史における最大の浄化を始めようじゃないか』
その掛け声とともに、赤いモノアイが目を覚ましたのであった。
この戦いで泰彦らは何を得たのだろうか、それは言わずもがな明白であろう。だがそれでも、その小さな意思は生き残ったのだ。意思がある限り希望は生き続ける。戦いに敗れてもそのわずかな希望を乗せた、小さな箱舟は時を超え運命へと導かれるのだった。
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