第4話

部活メンバーと別れると校門に、萌依の姿があった。急いで自転車を押して、萌依の元へ行く。さりげなく車道側へ行き共に歩き出す。

「あれ、萌依じゃん。まだ帰っていなかったんだ」

「冴を待っていたんだよ」

その手には、ノートとシャーペン。

「待っててくれてありがとう。小説書いていたの?」

「そうだよ、こういう隙間時間に書かないと〆切に間に合わないからね」

「偉いなぁ、私だったら、スマホ弄って時間潰しちゃうなぁ」

「物語を創造するのって楽しいよ」

「え~、思いつかないよ~想像力がないから無理だよ~」

「そっか~妄想って楽しいのに」

「私は小説っていうか、本をあまり読まないからね」

全然タイプが違うのに気が合う友人、いや今はお試し恋人になれたのだから不思議だ。

「でも、あたしの書いた小説は読んでくれるじゃん」

「そりゃ、読むよ。萌依が頑張って作ったんだから」

「そうやって言ってくれると作者冥利に尽きるね」

「読書習慣のない私に話を読ませる文章なんだから惹きつける何かがあるんだね」

「もう、そんなに褒めたって何もでないよ」

 萌依は顔を赤くしてそっぽを向く。可愛い。何だかその顔を見たら抱きしめたくなった。けど、今は、周りには人がいる。そんな大胆なことはできない。

 冴は自転車通学、萌依は電車で通学している。冴の家は駅近くの家であるから、萌依を送ることにした。

「萌依、駅まで送るよ」

「え、悪いよ。帰るの遅くなっちゃうよ」

「いいって。一緒に居る時間長くしたいなーって」

「もう。早速恋人っぽいことしてくれちゃって」

「さっきなんか抱きしめたくなっちゃった」

「だっ抱きしめ!? 冴のバカ!!」

「やっていないのにバカ扱いされた!?」

「だって、そんな恥ずかしいこと考えているから……」

「抱きしめるで何を想像しているんだよ……」

「ちっ違、そういう意味ではないけど、でも密着して恥ずかしいじゃん!!」

「初々しいなぁ。運動部では勝利した時に称え合って抱きしめるとかあるけど、文芸部にはないもんな」

「ないわね」

「いや、それ以前に友達とぎゅーっとかしたことないのか?」

「それはあるけど……でも、今、冴は恋人だし……」

 萌依も冴のことを意識する深層が現れた。冴の萌依を想う名指しの告白が言霊となり、萌依の心にも冴が居着くようになった。またしても、2人の間に沈黙が流れる。

「あーっ黙ってても恥ずかしい!! 萌依、違う話題をしよう。今日、文芸部は何をした?」

「そうね。ビブリオバトルをしたよ」

「ビブリオバトル? 何それ?」

「まず、発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。順番に1人5分間で本を紹介する。それぞれの発表の後に,参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分間行う。 全ての発表が終了した後に、どの本が一番読みたくなったか?を基準とした投票を参加者全員が1人1票で行い、最多票を集めた本をチャンプ本とする。これがビブリオバトル」

「本紹介ゲームみたいな?」

「簡単に言えばそう。だけど、5分間の中でいかに本の面白い部分を要約して話せるかっていうのが面白いところであり、難しいところ」

「要約か……完読するのも難しいのにさらに内容を覚えて面白いところをピックアップしないといけないのか」

「国語の勉強にもなるし、知らない本に出合うこともできる、面白いよ。今度一緒にやってみる?」

「いや、私には無理だよ。まず、本を完読するのに時間かかるし、要約するのも時間かかるだろうし」

「待つよ?」

「いや、もったいないからやめよ。違うことで萌依と遊びたい」

「そっか、残念。でも、違うことで楽しいことしようね」

「まだ、テスト期間じゃないし、どこか遊びに行かない?」

「いいね、カラオケはどう?」

「賛成!また、朝から行ってフリータイムで入ろう!」

「冴は歌上手いからなぁ。何時間でも聴いてられる」

「萌依だって上手いじゃん」

「冴みたいに、低音域から高音域まで出ないよ! 何、あの声の使い分け? 別人が歌っているみたいだもん」

「いやぁ、褒められると照れますなぁ。小さい頃から歌うことが好きだったからね」

「じゃあ、バスケ部じゃなくて、合唱部に入れば良かったのに」

「私の場合、大勢ではなく、1人やデュエットくらいがちょうど良い」

「そっか、大勢で歌うのは好きじゃないのね」

「そういうこと。酔いしれるみたいに自分だけの世界を歌いたい……みたいな?」

「確かに、冴は歌っている時、自分の世界に入っているような感じだわ~。ゾーンに入っているというべき?」

「確かに、無我夢中って感じだもんなぁ」

「将来、アーティストにでもなってたりして」

「まさか」

「じゃあ、冴は将来何になりたいの?」

「今の所バスケット選手かなぁ。体動かすの好きだし」

「最近のアーティストだって、激しいダンスしながら歌っているじゃん」

「それもそうか。なら、アーティストもありかもしれない」

「平成より前って、リズムや音程も一定でさらにダンスも簡易な曲ばかりだったけど、平成入ってからは、リズムや音程取るのもダンスも難しい曲って増えたよね」

「確かに、今の曲は覚えるのが大変だ。リズムも音程もダンスも」

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