図書委員の2人は暇で暇でたまらない
桃麦
第1話 桜の花びらは謎の予感
〈あらすじ〉
花野陽菜と、青葉和樹は、水曜の放課後担当の図書委員である。ある日、本の中に挟まっていた淡い紫色の栞と、桜の花びらが謎を呼び起こし…。
暇すぎる図書委員2人の謎解きが始まります!
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「宝島」
「まんじゅうこわい」
「一寸法師」
「し、車輪の下」
「竹取物語」
「り、り…降参です…」
俺がそう告げると嬉しそうにニコリと花野陽菜は微笑んだ。
「これで私の6連勝ですね。青葉くん、もうひと試合やりますか?」
その言葉に俺は頬をヒクリとひきつらせる。
「い、いや、流石にもう十分だ。いくら暇だからと言って無謀な勝負を何度もする気力は俺にはない」
「つまらないですね。あ、ついでにいうと先程のはリア王と答えておけば物語しりとりは続きましたね」
そもそもリア王がわからない。
リア王とはシェイクスピアの…と解説を始めた花野を一瞥し、俺は小さくため息をついた。
週の真ん中、水曜日の放課後。なぜそんなだるい日に図書委員のカウンター当番をしているか?理由は簡単である。ジャンケンに負けたからだ。もともとは月曜の朝のつもりだったのだが…はぁ…。一年生が校外学習に行っているせいか、ただいま図書館はガラッガラで、俺は絶賛暇を持て余し中だ。
そんな俺に対し、花野はキラキラと輝いた瞳でカウンター当番をしている。彼女が言うには本に関わるだけで幸せらしい。残念ながら俺には理解できない考えである。
「そろそろ返却ポストの方を見ましょうか」
「あぁ、そうだな」
返却ポスト。その名の通り本を返却するポストだ。朝、昼休み、放課後などは開いている図書館だが、授業の合間の休み時間などはさすがに開いてはいない。そんな時にどうしても返却したい時に使うのが返却ポストである。
「どのくらいありそうですかね?」
「まぁ、一冊あるかないかくらいじゃないか?」
引き出しから返却ポストを開ける鍵を取り出し俺は返却ポストを開ける。
「おっ…」
「ありましたね」
中を見ると三冊本が積み重なっていた。今日は返却ポストを使った人が多かったらしい。
「中を確認しますか」
「そうだな。俺は上の二冊を見るから下の一冊を頼む」
俺は上から二冊取り出すとパラパラと中を確認する。一冊目は特に問題はなかった。二冊目の「絵を描く心得」という本をパラパラと確認すると…。
「中に栞が挟まってるな」
淡い紫色の栞が、本からはみ出すようにして挟まっている。
「あら?これはなんでしょう?」
花野がつまみあげたのは小さな鮮やかなピンク色の物体、桜の花びらである。
「桜の木の下で読んだのでしょうね」
「あぁ、そうだな…いや、待て。おかしくないか?いくらなんでも桜が綺麗すぎる」
「確かに…そうですね。今日の朝、登校中に挟まったのでしょうか?」
鮮やかな色の桜は昨日挟まったとは思えない。
「今日挟まったと考えるのが妥当だろうな」
そう答えながらパラパラと本をめくっていると何気なく目についた貸し出し時間を見て思わず「えっ」と声がもれる。
「どうかしたんですか?…え?これって」
花野も貸し出し時間が不思議なことに気づいたようで眉間に皺を寄せている。
「貸し出し日が今日?それは、おかしいです!学校では朝校内に入ったら放課後まで校外に出られないようになっているはずですもん」
今、俺たちの学校には桜の木がない。なぜならこの前、桜の木が病気になっていることが、わかり全て伐採されたからだ。
だから、桜の花びらがこの本の中に入るためには一度郊外に出なければならない。だが、先程花野が言ったように学校は放課後になるまで門が開かず、校外に出られないはずだ。今日借りた本の中に桜の花びらを入れるなんて不可能である。
風で花びらが外から飛んできた?いや、それもない。さっきも言ったが、この辺りの桜の木は病気になっていたので伐採されたのだ。相当遠くまで行かなければ桜の木はないはずである。
「どうしてだ?なんで桜の花びらが挟まって…」
すると花野が「あっ」と、声を上げる。
「わかりました!一年生ですよ!今日、一年生は校外学習に行っているはずです。だから、校外学習にいったときに挟まったんですよ!」
校外学習中に外で本を読むだろうか?
そんな俺の疑問を察したのか、花野は言葉を続ける。
「確か今日一年生はスケッチをしに校外学習へ行ったはずです。見てください、この本。『絵を描く心得』ですよね?多分この本を読みながら描いたのではないのでしょうか?」
確かに栞が挟まっているのも「色塗りのコツ」というページだ。
だが、花野は重要な部分を抜かしている。
「花野、この本いつ返したんだ?」
「え?」
「確か、一年生はまだ校外学習中だろ?」
だからこそ今、こんなに図書館の利用者が少ないのである。
「そう、ですね…。私の推理、間違ってたかもしれません。渾身の謎解きだったのですが…」
はぁ…と悲しそうにため息をつく花野のためにも謎を解きたくなってくる。
うーん…と2人で悩んでいたが全く答えは出ない。
「いや、待て、簡単なことだったのかもしれない」
「なんですか?全然簡単じゃないですよ!」
「俺たちの推理は多分、あってる。これは予想だが、この本の持ち主は早退したんじゃないのか?」
ほかの一年生より早く戻ってきた。ただ、それだけだ。
「なんで、早退なんて…」
「家の事情なんじゃないのか?」
「ですが、急いでいる時に本なんて返すでしょうか?返却ポストに入れるのは簡単ですが、一年生の教室からも、下駄箱からも、図書室は遠いですよね?」
言われてみればその通りである。その上、借りたのは今日。つまり、返す日は二週間後の水曜日でいいはずなのだ。
図書館に来てもいい理由。来なければいけない理由…。
「あ、そうですよ!早退の原因は別に家の事情なんかじゃないんですよ!原因は、体調不良なのでは?」
「そうか!保健室は図書館より奥にある。だから、通り道の図書館に本を返すことなんて容易いことだったんだ」
それなら納得がいく。最初からなぜ、はみ出している栞の存在に気づかずに返却ポストに入れたのかと思ったが、多分そんなこと考えている暇がなかったのだろう。
「これで、謎は解けたな」
なんとも言えない達成感にホッと息をついていると花野がうずうずとし始めた。
「私、自分の推理があっているのか、知りたいんですけど?」
「いや、無理だろ。どうやって調べるんだ?」
花野はニコリと微笑んで淡い紫色の栞を持ち上げた。
「はぁ、まさか栞を返すことを建前に推理の真偽を調べるだなんて…」
「いいじゃないですか、別に。というか嫌なのであれば青葉くんは図書室に残ればよかったのでは?」
俺だって別に真実を知りたくないわけではない。ただ、これを職権濫用というのでは…。
「あ、保健室に着きましたね。じゃぁ、あってるか調べましょうか!」
結論から言わせてもらう。
俺らの推理は大正解だった。一年生の彼はなんで自分の栞だとわかったのか不思議そうだったが、体調が悪いということもあってあまり質問はしてこなかった。
「楽しかったですね!」
ウキウキとした様子で微笑む花野は慣れた手つきで督促状を書いている。
「そうだな」
楽しかったことは否定しない。暇なカウンター当番の時間にしては有意義な時間を過ごせたと言えよう。
「確かに今日は探偵になった気分だった。たまにはこんなのもいいかもなぁ」
すると花野は督促状を書く手をピタリと止める。
「探偵…ねぇ…」
花野は物語しりとりで勝った時のような微笑みを俺に向ける。
「私たちは探偵ではなくただの暇な図書委員ですよ」
さぁ、それはどうだか。
まだまだ俺たちの暇な水曜日の放課後は続いていく。
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