69『デートとお出かけの違いは所詮見方の違いだけ』
「二人ともいってらっしゃい」
「人が多いですから、お二人ともお気をつけて!」
「イベントのリポートは私達や先輩に任せてくれ。特にひかるは頑張りすぎだからな、息抜きも必要だろう」
「もしこいつが変な事したらすぐに連絡して。イベント中だろうが飛んでいくから」
「こいつ!? いやしないから!
朝、昨日と同じように
朝早くから始まった二日目のリハーサルも終わり(オレは出番もないので本当に気楽なものだった)、今日のイベントのリポート配信も
そういうわけで、これからイベント会場へ遊びに行くわけだが…。
「じゃあ行こっか、ひかるちゃん!」
「う、うん…あ、
「……昨日呼んでくれた呼び方がいいなー?」
「えっ、せ、せーちゃん…?」
「っ…ふー…よ、よし!」
仄ちゃん…明護
いやまぁ、心配してくれているのだろうということは分かる。よーく分かるが…
(しかも結局みんなあだ名で呼んでねって言ってくるし…!)
距離感がバグっているのは明護さんだけではなく、オレを除く三期生全員だったようだ。やっぱVtuberになろうなんて思う人はそういう人達しかいないのか…。
「ほら、ちゃんと手繋ごうね。逸れたら大変だから」
言われるがままに手を握る。百々ちゃの手はひんやりと冷たくって気持ちよかったが、明護さんの手は暖かくって気持ちいい。みんな違ってみんないいな…。
気持ちの整理はまだ付かないが、考えてみれば明護さんもオレと同じVtuberオタク(常日頃の会話から予想するに間違いない!)、オレが楽しいと思うことはきっと彼女も楽しいと思ってくれるはずだ。たぶん!
昨日と同じくヤケクソ気味にそう考えて、握った手を引いて歩き出した。
◇
「ひかるちゃんとのデートは当然私が行きます」
ひかるちゃんの部屋にて親友の心無い一撃を受け気絶し、そしてずりずりと床を引き摺られたことで目を覚ました私は、部屋に着いて開口一番そんなことを口にした。…ホテルの部屋とはいえ、「ひかるちゃんの部屋」ってなんかすっごくいい響きだと思う。
「起きて早々それか…」
「当然?? でも正直言うと思いましたけど!」
「ブレない」
一応、
「……はぁ…」
しかし残る一人、あきらは大きくため息を吐くだけ。んー、表情から読み取るに「もう疲れたんだけど?」といったところか。…昔はあんなに可愛かったのに、私に対する扱いが日増しに雑になっていく現状に物申したいところだけど、ここはグッと堪えて話を進めることにする。…これなんかひかるちゃん…というかあかりちゃんっぽい思考じゃない?? 私の中に推しが住んでる…!
「だってほら、私明日一日中フリーだし! それにひかるちゃんとは毎週二人っきりで何時間も通話するくらい仲良しだし!!」
しかも最近は敬語抜きで!!!
「マウント合戦は不毛だからやめよう。それはそれとして私はひかるのお母様からひかるを任されてるけど」
「そうそう。まぁ私はなんやかんやでひかるから親近感を持たれてると思うよ。ゲームの話とかするけど趣味似てるしさ」
「そうですよ! ちなみに私は歌のレッスンしてもらった時ちょこちょこ敬語なしで話しましたよ」
「明日は私も一日中フリーだ。それに私はコラボ以来今もたまにひかるの勉強を見てやっている」
全員一歩も譲らずマウントを取ろうとしてくる。というか
「ていうかさ、さっきひかるの部屋で正気失ってたのはどこの誰だっけ」
「うぐっ」
さすが親友、痛い所を的確についてくる。他のみんなもうんうんと頷いた。いやでもあれはっ!
「ひかるちゃんが可愛すぎるのが悪くない?? 実際みんなだってあだ名で呼ばれた時すっごい刺さってたじゃん!」
うっ、と次に言葉を詰まらせたのはみんなの方だった。
「それは…まぁそうだけど…」
「…あんなの刺さらない人間の方が少ないだろう」
「勇気を出して下の名前で呼んでくれるだけでも大正解なのに、まさかのあだ名呼びでしたからね…」
「なんていうかさ…ひかるって結構魔性感あるよね…」
――つまり、誰が私のようになっていてもおかしくなかったということ! なんならみんなを代表して狂っただけだから、私は!
はい、というわけで!
「みんなの意見も揃ったところで、私がひかるちゃんとデートに――」
「それはそれとして、やっぱり星奈と二人きりにするのは心配」
「刺さったことと今回のことは別でしょ」
「明日の自由時間的にも、やはり私が…」
「いっそフリーな人みんなで行きましょう」
……かくなる上は。
「…爆発、しちゃうかも」
「…なんて?」
「ひかるちゃんと私を無理に引き離したら今度こそ本当に爆発しちゃうかも…」
「「「「ええ…」」」」
「ちなみに二人っきりじゃないと…」
「なんか追加で要求までし始めましたよ…」
「自分を使って脅していくのか…」
「すごいなこの人…」
「本当にごめんみんな…こいつこういうやつだから…」
謝る親友の姿を横目に勝利を確信する。…こう、人として大切な何かを盛大に放り投げてしまった気がするけど気にしない。それで勝てるなら私はいつでも盛大に放り投げるよ。
さて、ダメ押しの一撃を…と思ったところで、本当に意外なところから鶴の一声が聞こえてきた。
「…うん、私は星奈が一緒に行く形でいいと思う」
先程マウント合戦をしていたとは打って変わって、包容力を感じさせる、というかママ味を感じさせる雰囲気と声色で言う莉緒。私が一瞬えっ、というような表情をしたのが見えていたのか、彼女は更に言葉を続ける。
「私達はひかるにとって、たぶん頼りになる大人だけど、友達かって言われると少しズレる部分があると思うから」
「まぁ、そうかもしれないな」
「頼りになる大人…いい響きですね…」
「…なんやかんやで一番ひかると対等に…っていうか、等身大で接してるのは星奈だろうけど」
…みんな納得してる風だけど、これ地味に私は大人じゃないって言われてない?? えっ、私ひかるちゃんから頼りになる大人だって思われてないの…?
「大人じゃないって言われて一丁前にショック受けてますよこの人」
「さっきまでのやりとりで大人な要素があったと思ってるのか」
「記憶、喪失…?」
「本っっ当にうちのバカがごめん…」
なんで謝るのあきら…? 親友が大人じゃないって言われてるんだよ?? ちょっとはフォローしてくれてもよくない?? あと莉緒はシリアスな感じで私の記憶喪失を疑わないで!?
「星奈」
「えっ!? …ん、なに莉緒」
再び母親オーラを纏う莉緒。表情の真面目さを見て、私も真面目に取り合う。
「私は星奈が、ひかるを怖がらせたり、嫌だと思うようなことはしないって信じてる」
「…うん」
「だから、明日はあの子をよろしくね」
「分かった。大丈夫、絶対ひかるちゃんにとって良い思い出になるようにするから」
「ん」
「…まともな部分もあるんですよね…」
「だから余計始末に負えないとも言うが…」
「本当、いつもこうなら…はぁ…」
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